大森side
医師「おはようございます。よく眠れましたか?」
大森「まあ、それなりに」
医師「顔色も悪くないですし大丈夫そうですね」
そう言って持っているタブレットに何か書き込みながら先生は話す。
医師「昨日も言いましたがしばらくは週一で来てくださいね」
大森「……はい」
医師「念の為コマンドプレイされて帰りますか?」
大森「いや、いいです、すみません」
医師「まあ、言ってみたものの、断られるだろうなと思ってました。それと薬を変えてますのできちんと飲んでくださいね」
大森「……はい」
医師「では退院の手続きをして帰宅していただいて構いませんよ」
大森「先生、本当にありがとうございました」
そう言って俺はベッドの上ながらも先生に頭を下げた。
医師「ここからは僕のひとりごとだと思って聞いてください」
大森「え?」
医師「ただの大きなひとりごとなんですが……僕は大森さん、もっとまわりを見ていいんじゃないですか?あなたの事を好きな人は沢山いますよ。あなたが気がついていないだけで。あなたは愛されているんです。あなたも愛していいんです」
愛し愛されてるか……
大森「先生、僕もひとりごと………ちょっと言います…………僕は失うのが怖いんです。だから失ってしまう前に手にしなければ失うことは無い、手に入れた幸福より失う悲しさの方が俺にとって大きいです」
医師「大森さんのひとりごとは興味深いですね……」
大森「先生のひとりごとも興味深かったです」
医師「次に来院した時にお話出来たらなと思います」
大森「ひとりごとなのに?」
医師「そうですね、ひとりごとをふたりごとにしましょう」
大森「なんですそれ、笑」
医師「私も言っててよくわかりませんね、ですが今後の為にも少しずつで良いので大森さんが思っている事のお話を聞かせていただけたらなと思います。詳しい事は次の受診日にでもしましょう。では、これ以上話が長引いてしまうのも悪いので」
大森「いえ、僕は大丈夫です」
医師「あなたは大丈夫でも彼はどうでしょう」
大森「彼?」
医師「朝から待たれてる方がいるんですよ。ギターの方が」
大森「え」
どうやら本当に若井が来たらしい
大森「何かすみません」
医師「ランク上位のdomだとは思えないほど大人しくちょこんと座りながらあなたを待ってる姿は…………ちょっと可愛らしさがありますよ……」
大森「ぷっ、」
何となく想像出来る若井の姿に思わず笑いが出る。
周りの迷惑にならない様にと大人しく待っていながらもソワソワしている姿が目に浮かぶ。
大森「先生、ありがとうございます。良ければ彼を呼んでいただけるとありがたいです。一緒に帰ります」
医師「わかりました。最後に、倒れた身なので数日はあまり無茶はしないでくださいね」
大森「はい」
医師「では、また受診の時に」
そう言って先生は病室を後にした。
大森「ん〜っ、ヨシ!帰りますか」
俺は、丸1日ベッド横になっててなまった身体を伸ばしてベッドから降りる。
病衣から私服に着替えようと前紐を解いていると病室をノックする音がした
コン、ココ、コンコン
昨日の控えめな音では無く、軽快なノック音
大森「はい」
俺の返事と共に、開けらた扉
若井「元貴、おは……うわぁぁぁ、ごめん!」
開けたと思ったら豪快に閉められた扉。
大森「いや、返事したんだから入って来いよ」
若井「き、着替えてるとは思わなくて」
大森「別に今更すぎんだろ」
若井「……」
少しの間がありつつも控えめに開く扉。
ほぼ着替え終わってる俺の姿をみて、ホッとした様な顔をした後は、待ってましたと言わんばかりのキラキラとした瞳。
垂れた耳とブンブンと振られる尻尾が見える気がして思わず笑った。
若井「な、なんで笑ってんの?」
大森「いや、想像通りだなって」
若井「何?何?想像通りって?」
大森「散歩を待つ犬」
若井「散歩を待つ……いぬ?」
大森「そう。今、若井に耳と尻尾が見える気がする。待ってましたって感じ、笑」
若井「お、お前、バカにすんなっ」
大森「あははは、バカにはしてないって」
若井「「は」ってなんだよ「は」って!!ほらさっさと帰ろうぜ!!」
大森「あはは」
若井「おいぃっ!笑ってないで準備しろよ!」
一通り笑って、病室を後にした。
退院の手続きは既に若井が済ませてくれていて俺たちはタクシーで病院を後にした。
若井「すみません、✕✕✕までお願いします」
「はいよ」
大森「え、俺ん家?スタジオじゃなくて?」
若井「今日元貴はオフになってるから、自宅待機」
大森「えー」
若井「えーじゃない。先生からも数日は安静にって言われてるだろ」
大森「……」
確かに安静にとは言われた……言われたけど別にスタジオに顔を出すくらい良いだろと思った。
若井「スタジオに行くくらい良いだろとか思ってるだろ?」
大森「なんでバレてんだよ」
若井「元貴の事だからスタジオに行ったら、あれこれ手と口をだして行くだけじゃ済まなくなるから自宅なんだよ」
大森「……」
めちゃくちゃ読まれてる……
しかもあわよくばと思っていた事までバレていた。
若井「元貴の気持ちもわかるけど休む時には休んでよ」
大森「……わかった」
若井「ん、ありがとう」
それから俺ん家に着くまで互いに無言だったけど嫌な無言ではなかった。
コメント
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更新ありがとうございます! 続きが楽しみです!
フォローと初コメ失礼します。 一気読みさせてもらいました! とても面白かったです!続き楽しみにしてます。