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ゑぬ。
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前の話とはとは関係ありません
春の終わり、少し湿った風が校舎の隙間をすり抜けていた。
四階の廊下、非常階段の前。人の気配がほとんどないこの場所は、授業をサボるにはちょうどいい。
「よう、サボり魔」
振り返ると、そこには見慣れた顔があった。
港井太陽。いつも通りの気の抜けた笑顔で、壁にもたれかかっている。
「お前だってサボってただろ」
「バレた?」
軽く笑いながら、太陽は俺の隣に腰を下ろした。
こいつとは一年の頃からの付き合いだ。深く干渉するわけでもないけど、気づけば隣にいる。そんな距離感のやつ。
「何?お前サボんの」
「うっせ。すこしぐらい休んだっていいだろ」
そう言って、太陽は天井を見上げた。
「四六時中寝てるお前よりかはマシだ」
「それは否定できない」
俺も同じように背中を壁に預ける。ぼんやりとした時間が流れて、会話は自然と途切れた。
でも、不思議と気まずさはなかった。
それが、いつもの俺たちだった。
——この時、何かに気づけていれば。
そんなことを、あとから何度も考えることになる。
***
亮汰(あー眠い。)
眠いせいで集中力がすぐきれる。もはや授業は聴いていない。
窓際の席。春の空気は心地よくて、まぶたが重くなる。
亮汰(あいつ、今頃気持ち良さそうに寝てるんだろうな~)
羨ましい。俺もサボればよかった。
ふと、窓に目をやる。俺の席は窓側だからよく校庭が見える。
校庭で持久走をやっている一年が、三階でも聞こえるくらい騒ぎながら走っている。
そんな様子をうとうとしながら見ていると、うるさい騒ぎ声がどよめき声に変わった。
何事かと思った。
——その瞬間だった。
多分、すごい速さだったんだと思う。
でも、俺にはやけにゆっくりに見えた。
空から落ちてくる“それ”は、人の形をしていて。
見覚えのある制服で。
見覚えのある、髪で。
見覚えのある——顔で。
いつもより潤んだ茶色い瞳が、阿呆みたいに目を開いた俺を映した。
時間が、止まったみたいだった。
「——っ!」
気づいたときには、声が出ていた。
授業中にも関わらず、いつもは出さない大きな声を出してしまった。
椅子を蹴るように立ち上がり、教室を飛び出そうとする。
「星野!どこ行く!」
担任の声が飛ぶ。
「どいてください!」
でも、すぐに腕を掴まれた。
「待て、今は行くな。ここで待ってろ」
「離せよ!!」
暴れたはずなのに。
何かを叫んだはずなのに。
——そこからの記憶が、ない。
気がつけば、教室は静まり返っていて。
窓の外は夕焼けに染まっていた。
いつのまにか、放課後だった。
***
職員室の前の廊下は、やけに静かだった。
ドアの前で少しだけ躊躇してから、ノックもせずに開ける。
「あー、星野か」
気の抜けた声。
秋原先生は椅子に座ったまま、こちらをちらっと見た。
いつも通り、ふざけたような空気。でも、その奥に何かを隠しているのがわかる。
「……先生」
「大体察しはつくけどな。聞くなよ、って言われてるからな」
軽く肩をすくめる。
でも俺は、止まれなかった。
「俺、あいつがなんで死のうとしたのか突き止めたい」
一瞬、空気が変わった。
秋原先生の表情が、わずかに固くなる。
「あまりめんどくさい事には突っ込まないほうがいいよ」
「わかってる。でも_」
「やめとけ」
言葉を遮るように、低い声が落ちた。
さっきまでの軽さはない。
「俺はお前の身を案じて言ってるんだ。言うことを聞け」
沈黙。
時計の音だけがやけに響く。
それでも。
「……それでも、知りたいんです」
自分でも驚くくらい、はっきりした声だった。
秋原先生は、しばらく俺を見てから、小さく息を吐いた。
「……ほんと、似た者同士だな」
「え?」
「いや、なんでもない」
先生は視線を逸らした。
それ以上は、何も言わなかった。
***
帰り道、一人で歩く。
夕焼けがやけに赤い。
あいつは、何を考えてたんだろう。
あの時、何を見てたんだろう。
あの目は——
ただの絶望だったのか。
それとも。
「……知らねえよ」
小さく呟く。
でも、もう決めた。
あいつのこと、ちゃんと知ってるつもりだったけど。
全然知らなかったのかもしれない。
「……もう一回、知ってみるか」
港井太陽ってやつを。
俺の友人を。
——あいつが、どうして飛んだのかを。
コメント
3件
みぅです🤍🥀 第2話、読み終わりました…。 冒頭の何気ない日常の空気感がすごくリアルで、亮汰と太陽の距離感、妙に心地よかったんです。だからこそ、あの瞬間の描写が心臓にずしんと来ました。時間が遅くなる感覚、すごくわかる気がする…。 最後の「もう一回、知ってみるか」って亮汰の決意、泣けました。友達のこと、実は何も知らなかったんだって気づく瞬間、重いですね。この先がすごく気になります。続き、ちゃんと受け止めますね🌙