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睦月、止水、シスター、そして逸見の四人は、刺客である二人を蹴散らし、奥へ進んだ先で合流していた。
「桂馬! 無事だったみたいだな! 武器……そうか、久々に本気を出したみたいだな」
「当然です。神崎を助けに来たんですから。そちらも、止水が来ているなら大体わかりました」
「ここは……教会のホールに見えますが……」
四人の行き着いた先は、大きく広がるホール、前には神々しく手を握った全裸の女性に羽が生えている像が立てられており、周囲には長椅子が並べられていた。
すると、像の奥から神父の格好をした小太りの男が姿を現した。
「よくぞ来られました、神聖なる異教の民」
「お前が異能教徒を操っていたボスか……! さっさと神崎を解放しろ!!」
「それは出来ません。何故なら貴方たちは罪人。神は仰られた。神の裁きを与えよと……」
すると、神父はいきなり空中に浮かび上がった。
「やはり異能祓魔院を全滅させることが目的のようだ! 歩! 奴を倒すにはどうしたらいい!!」
しかし、止水は目を丸くさせていた。
「歩……?」
「隊長……直ぐに全身を貫通状態にしてください。逸見さんは弾丸でずっと移動し続けてください。僕とシスターさんは直ぐに逃げます……」
「ど……どう言うことだ……?」
そして、止水はシスターの腕を掴み走り出す。
「攻撃は絶対に避けられません!! 逃げてください!!!」
次の瞬間、一瞬にして周りの椅子は崩壊した。
「なっ……どんな異能なんだ……!?」
「は? 視えなくする神技?」
一方、楽と鬼道は移動を続けていた。
「そうだ。ここのアジトにいる異能教徒は、全員、『自分の異能を相手に視えなくする』という神技を与えられているんだ。僕も含めてな」
「じゃあなんで俺には視えてるんだよ」
「それは、お前の憑依してる悪霊が、俺たちが契約してる神より力が強いからだろ」
「あー、悪魔って元神だったな、そういや」
「例えば、金髪の奴は霊体を浮かす異能。老人は、自分の身体に霊体を付着させる異能。言ってみりゃ弱そうな異能ばっかだろ。それでも “視えない” ってのは強力な武器になるんだよ」
「ほぇ〜」
すると、鬼道は扉の前で立ち止まる。
「ボスの異能は『霊魂を出現させる異能』だ。視えるお前なら対処できるはずだ。俺はここの組織を潰して上に行きたいし、お前も仲間を助けたい。利害は一致している。だから、俺の言う通りに動け」
そして、鬼道はその扉を開けた。
「た、隊長……!! 逸見!!」
楽が目にしたのは、瀕死の二人だった。
そして、今まさにシスターの力を解放させようとしていた。
「ベストタイミングだ」
そっと鬼道はニヤける。
「天命よ、私に力をお貸しください。無限羅生!!」
次の瞬間、シスターの眼前には黒いブラックホールのようなゲートが開かれる。
そこに、瀕死の睦月と逸見、止水は吸い込まれた。
「さあ、後は作戦通りにやれ!!」
そう言うと、鬼道も中に入って行った。
「シスター!!」
「楽くん!? 無事だったのですね! でも、この人にはどうしても勝てません……撤収します……」
「大丈夫だ!! 作戦がある!!」
そして、鬼道から聞いたままをシスターに伝える。
「そんなことが……。でも、可能性があるのなら……やりましょう……!」
楽が鬼道から伝えられた作戦はこうだった。
シスターの力『無限羅生』の存在、その力の内容は、アジトの刺客全員が周知していた。
無限羅生は、シスターの祈りに呼応した生物の実体を無限の世界に留まらせるものだった。
そこに実体がある間、魂は自由になれる。
「だから俺が、鬼道の魂を憑依……!」
そうすることで、楽は鬼道の能力、『四肢へ霊魂を分担して複数憑依』することが可能になる。
「鬼道を基盤に置いて……目には悪魔を……」
楽にとって初めて、集中力を要するものだった。
そして更に、
「上半身に隊長……下半身に逸見……なんだコイツ……」
「止水さんは戦闘においての天才です!!」
「なら、頭だな……! 憑依……支配……!!」
目を開ける。
楽は自分でも驚愕した。
「見える景色が……まるで違ぇ……」
「どう……? 勝てそう……?」
シスターは不安そうに問う。
楽は背を向けたまま答えた。
「十秒だ。十秒後、その力解いていいぜ」
そして、楽は飛び出した。
「まずは逸見の異能……『弾丸』による高速移動……。あの息遣いと目線……AAWDAA……」
楽は的確に相手の異能を交わす。
「なんだ……!? 此奴に視えていることは分かっているが、その身体能力と判断力は聞いてないぞ……!!」
途端に焦る神父。
しかし、楽の猛追は止まらなかった。
「破壊するのはコイツじゃない……像の中のエネルギー供給体……ここで隊長の『貫通』……」
キィン!!
透明だった神父の異能がその場に現れた。
「何!? この量の霊魂!? この魂たちがいきなり現れることで衝撃波を生んでたってこと!?」
シスターは目を丸くした。
「あれ……」
しかし、神父はニヤッと笑みを浮かべている。
神父の周りには、特殊な結界が張られており、なんの物理攻撃も通さなかったのだ。
「ヤバい……止水の脳が手がねぇって言ってんな……」
「楽」
「んあ……? 悪魔か……?」
「妾に委ねてみよ」
「ハッ、そうだな。元神だもんな。任せたぜ」
楽の瞳が変わる。
「神の裁きを喰らうが良い」
楽、もとい、悪魔の手から放たれたエネルギー砲は、神父をたちまちに人形へと変えてしまった。
「お、おい!! 殺してんじゃねぇよ!!」
「違うわ。此奴は元々人じゃない。操り人形だったのじゃ」
「操り人形……?」
そして、十秒経ち、シスターは無限羅生を解いた。
全員の実体がその場に現れた。
「うわわっ、まだ俺空中だって……!!」
ドカン!!
楽は大きな音を立てて落下した。
「いってぇ〜!! まあ……これで神崎も助けられ……」
次の瞬間、楽は意識を失う。
最後に見たのは、ニヤッと笑う鬼道の姿だった。
「ここは……」
見慣れた天井だった。
「異能祓魔院……帰って来られたのか……」
「楽、目が覚めたか」
「隊長……。まだ少しぼーっとすんな……」
「大量の魂を憑依したからだろう。まったく、お前は変わらないな。いや……でも、そうしてくれなければ俺たちは今ここには居なかった。助かったよ」
「ハハっ……まぁな。神崎は助けられたか……?」
「それが……あの後、俺たちが助けに行く以前に、神崎は一人で出て来たんだ。なんか、白髪の綺麗な顔のお兄さんが助けてくれたとか言っててな……」
「あ……? 隊長たちが助けたんじゃねぇのかよ。白髪の男か……。まあ、結果オーライならいいか……」
そして、楽は再び眠りについた。
「楽、強くなったな」
夕陽の差し掛かる海沿いに、男は潮風を浴びる。
「おい、キキョウ。勝手に何してたんだ」
白髪を靡かせる、犯罪者、コードネーム:キキョウ。
「んー? 人助け、かなぁ」
「三大密会に遅刻するつもりか。重鎮たちがお越しなんだぞ。牢にぶち込まれたくなければ早く乗れ」
「へーへー、国家刑事様……」
そして、黒塗りのベンツは海沿いを走り出した。