コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
チッ……。
マジでバグだ、人生のバグだ、こんなものは……。
行方行秋……前期中間試験478点 学年1位。
僕は……473点 学年2位。
期末試験はもっと難しくなる。
だから、僕はコイツよりいい点を狙ったんだ。
後期期末試験、僕は482点。
行方行秋……493点……。
なんでいつもコイツは僕よりも上に行くんだ……!
僕は生まれながらの無能力者、だから勉強だけは他の奴より軍を抜いてたのに……コイツも同じ無能力者で、僕より常に上にいる……。
こんなの……人生のバグだろ……。
「はぁ〜あ、アホらし。一週間分のストレスを解放する為に、ゲームで雑魚でも狩るかぁ〜」
そして、いつもの様に暗い部屋でPCに向かう。
そんな時、不意にチャイムが鳴らされる。
ピンポーン、ピンポーン。
いつもと同じ、チャイムは二回。
本人に自覚はないようだが、この二回連打ピンポンで、誰が来たかはもう分かる。
ドドドド!! ガチャ!!
「歩! またゲームしてんのか!!」
「神崎……勝手に入るなって前も言ったよな……? それは立派な犯罪。不法侵入だぞ」
「お母さんにちゃんと許可取ったもーん」
「はぁ……今日は母さん休みだったのか……」
神崎香とは、小学生からの同級生だ。
「それ何してんの? モンハン?」
「全然ちげぇーよ。FPSだ。REAL GUNS ONLINE。ちょっと前からすげぇブームの射撃ゲームだよ」
「ほぇ、全然分からん。それより外行こーよ! 外! バスケットしよ! バスケ!!」
神崎は運動神経がいい。
いつもこうして、僕のゲームの邪魔をする。
根本的に合わないんだ。
コイツはアウトドア、僕はインドア。
コイツは陽キャで、僕は陰キャだ。
「いつも言ってるけど、僕は運動が苦手なんだ」
「歩は反射神経いいし、勿体無いけどなー」
そう言うと、神崎は僕の隣に座り込む。
僕は無視し、ヘッドホンを付けてゲームを始める。
何が楽しいのか、神崎は黙って見続ける。
そして僕は、息が詰まって言うんだ。
「はぁーあ! 人に見られてると集中できない! 外……散歩行ってくる……」
「私も行くー!」
狙ってんのか狙ってないのか。
考えてるのか考えていないのか。
これも、いつもの流れだ。
「わぁー、すごい洪水! 昨日大雨だったからかなー」
いつもの散歩コース。
フェンス越しの川を横目に神崎は騒いでいる。
外がそんなに好きなら一人で出ればいいのに……。
いつもの自販機でいつもの缶コーヒーを買う。
「うげ、よくそんなの飲めるよね……」
「微糖だよ。無糖は僕も飲めない」
いつもの会話。
なんで飽きないんだろうかと、少し不安になる。
神崎は、いつもの緑茶だった。
「ねえ見て、あれ、子供の地縛霊じゃない……?」
川の隅に、透明な子供が突っ伏していた。
「珍しいな。祓魔師に連絡するか……。って、神崎!」
神崎は、中腰になって子供の霊に話し掛けていた。
「それでね、ケンくんは悪くないんだよ……。僕が勝手に落ちちゃってね、ケンくんずっと泣いちゃってね……」
どうやら、この子供は、昨日の大雨の中を友人たちと戯れながら帰宅していたらしい。
ケンくんと言う少年は、ふざけて橋の上を歩いて、この子に挑発したんだ。
「お前らこれ出来ないだろー! 俺は怖くねぇもん!」
それを真似して、ドボン。
葬式もまだこれから……と言うわけか。
放っといていい。
「神崎、行くぞ。葬式前の霊と喋ると、未練が残って成仏し辛くなるって聞いたことがある」
しかし、神崎は動かなかった。
「君は悪くないし、ケンくんも悪くないよ。私が伝えておいてあげる。辛かったね。ゆっくり休んでね」
神崎はたまに、こんな顔をする。
昔も……そうだ。
僕が無能力者で、虐められていた時も。
「ちょっと、失礼。祓魔師の者だ」
突然、僕たちの前に黒服の男が現れた。
「祓魔師か。いや、この霊はまだ葬式前なんだ。葬式でちゃんと成仏するはずだから、大丈夫だと思います」
「祓魔師として、霊は放っておけない」
「そっか、成仏できるんだ! よかった!」
神崎は笑っていた。
でも、どこかおかしい。
あれは……勉強したはずだ……。
「あの、憲法百七十二条、如何なる者も葬式前の霊を勝手に祓ってはいけない。って、ありませんでした?」
「え、そうなの?」
「チッ……」
黒服の男は、僕たちに拳銃を向けた。
「神崎!! コイツ、霊体狩りだ!!」
霊体狩り。葬式前の純粋な魂を集め、成仏させずに売買している裏の組織。つまり、最低な連中だ。
「神崎!! 右に大きく動け!!」
咄嗟に出た言葉。
黒服の男は銃を発射、神崎は僕の声に反応して避けた。
なんで分かったんだ……?
あれ……世界が……ゲームみたいに見える……。
相手の目の動き……呼吸音……筋肉の動き……。
「AAW……」
僕は小さく呟いた。
神崎は、銃を突き付けられているこの状況で、冷静を保ち、僕の言葉を聞き逃さなかった。
「それ、私知ってる! ずっと見てたから!」
神崎は左に大きく避けた後、前進する。
「なんだ!? 何故銃を避けられる!? 異能か!?」
左腕の筋肉が咄嗟に動いた……。
武器はまだある……。
「神崎!! SからのEだ!!」
「えへへ、おっけー!」
神崎が後退すると、黒服の中から小さなナイフが振り付けられていた。
そして、E=スキル……神崎の『透明化』だ……!
「急に消えた!? どこ行ったんだ!? なんだ……身動きが取れねぇ……チクショウ……どうなってる……!!」
「異能の私欲行使は犯罪……だけど、銃を発砲された後なら正当防衛が適用される」
僕はゆったりと、黒服の男に近付く。
「最後は、Qだ」
そして、僕は思い切り黒服の男を殴り付けた。
顎にダイレクトにヒット、そのまま男は気絶した。
そして、僕の拳にもヒビが入った。
「痛い……慣れないことはするもんじゃない……」
直ぐに警察と救急車を呼び、僕は一日だけ検査も含めて入院となった。
はぁ……ゲームがしたいのに……。
翌日の朝、神崎は僕が目覚めるよりも早く病室に訪れ、いつもより暗い顔をしていた。
「歩……ごめん……私のせいで……」
はぁ……。
「君は悪くないし、ケンくんも悪くないよ。私が伝えておいてあげる。辛かったね。……だったか?」
「え……?」
「これは、別に誰も悪くない。神崎だって悪くないし、僕も、あの子の為に出来ることをした最善だ」
そう言うと、神崎はニコッと笑顔を浮かべた。
単純な奴だ。
「ねね、さっき見つけたんだけど、この病院の屋上、海が見渡せてすごく綺麗なんだよ!」
そう言うと、僕の手を強引に引っ張る。
「痛い……そっちヒビ入った方だって……」
「あはは……ごめんなさい……」
また外。コイツは本当に外が好きだ。
でも、実際に見てみると、すごくいい景色だった。
日中は解放されているらしく、他にも老人が多数見受けられた。
「ねね、私、高校卒業したら祓魔師のバイトする!」
「なんで?」
「私の異能って透明化じゃん? 昔、幽霊女って馬鹿にされてたんだよね……。だからね、本当は最初、幽霊のこと、すごく嫌いだったんだ……」
聞いたことがある。
神崎が透明化の異能を発現した際、それを妬んだ男子グループから意地悪で言われていたあだ名だ。
「でもね、ある時、幽霊みたいに根暗で、暗い顔した男の子が私に言ってくれたの」
そうして、神崎は僕に振り向く。
「『透明は、透き通ってて綺麗だ』って」
それ、僕のセリフだ……。
ただなんとなく、空みたいでキラキラしてて、綺麗だなって思ったことが、そのまま出ただけだった。
当時から口数が少なくて、僕は暗かった。
励ます気もなかったし、イジメから助けたいとか、そんな正義感も何もない、ただの一言だ。
「私は、その言葉を貰ったから透明が好き……その言葉のお陰で私の視界は広くなったんだよ」
そうして、両手を広げる。
「この空みたいに綺麗なんだって言ってくれた。色んな人の気持ちがそれぞれにある、そしたら、幽霊さんたちも辛い想いをしてるんだって気付くことが出来た!」
「僕は……そんな気は……」
「歩のお陰だよ。私に自信と勇気をくれたの」
「僕は……何も出来ない……」
「歩は、暗いだけの男じゃないよ。昨日みたいに熱くなれて、他の誰より色んなものを見られる目がある。それを理解しようとする頭がある」
そう言いながら、神崎は僕の両手を掴む。
痛い……けど、そんなことも忘れるくらい、泣きそうだった。
「僕も……出来るかな。成仏の手伝い……」
「え!! 一緒にやろ!! 約束!! 絶対!!」
一年後、僕と神崎は、異能祓魔院でバイトを始めた。