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あの日から、ずっと落ち着かない。
親戚の集まりの夜。
ライが言いかけた言葉。
『俺、お前のこと――』
あの続きが頭から離れなくて、緋八マナは授業中もぼんやりしていた。
「緋八ー、聞いてるかー?」
「……はっ、はい」
教室に笑いが起こる。
やばい。完全に上の空だった。
窓の外を見れば、春の終わりみたいな柔らかい空。けれどマナの心臓だけは、あの日からずっと変なままだ。
ライは、あのあと何も言ってこなかった。
メッセージも普通。
『今日テストやば』
『マナ絶対寝てたろ』
『次会うの夏かな』
いつも通り。
だから余計に分からない。
あの言葉の意味も。
ライの気持ちも。
「……はぁ」
机に突っ伏す。
するとスマホが震えた。
画面を見る。
【ライ:今なにしてる】
その一言だけで顔が熱くなる。
【マナ:授業終わったとこ】
【ライ:えら】
【マナ:子供扱いすんな】
【ライ:一個下じゃん】
【マナ:二個】
【ライ:そうだった】
思わず笑ってしまう。
こういうやり取りだけで嬉しいの、ほんと終わってると思う。
【ライ:今日電話する?】
マナの指が止まった。
電話。
ライから誘ってくるの珍しい。
【マナ:……いいけど】
【ライ:じゃ、夜かける】
その文字を見ただけで、胸が跳ねる。
完全に好きな人への反応だ。
自覚なんてとっくにある。
問題は、ライがどう思ってるか。
夜。
親に「友達と通話する」とだけ言って、自室のベッドに寝転がる。
時計を見る。
まだかな。
まだかな。
そう思っていると、スマホが震えた。
『伊波ライ』
表示された名前に、一瞬息が止まる。
「……もしもし」
『もしもし、マナ?』
耳に直接届く声。
低くて、少し眠そうで。
それだけで胸が苦しくなる。
「なんか変な感じ」
『なにが』
「電話」
『なんで』
「……知らね」
ライがくすっと笑う。
その笑い声が好きだと思ってしまう。
『今日暑かったな』
「そーだな」
『部活は?』
「普通。ライは?」
『引退近いから最近忙しい』
「そっか……」
高三。
受験。
卒業。
自分より先に大人になっていく。
それを想像すると、少しだけ怖かった。
「ライさ」
『んー?』
「卒業したらどうすんの」
『大学行く予定』
「遠い?」
『まだ分かんね』
「……そっか」
寂しい、と思った。
でも言えない。
そんな資格ない。
ただの親戚なんだから。
『マナ』
「ん?」
『寂しい?』
「は!?」
『図星?』
「違うし!」
『耳赤そう』
「見えてないだろ!」
電話越しに笑われる。
悔しい。
でも好き。
「ライってほんとずるい」
『なんで』
「余裕ある感じ」
『余裕ないけど』
「嘘」
『マナ相手だと普通に緊張する』
「……え」
一瞬、言葉を失う。
ライが、緊張?
自分相手に?
『……やば、変なこと言った』
「いや……え?」
『忘れて』
「無理なんだけど」
心臓がうるさい。
期待する。
期待したくなる。
でも。
「……ライってさ」
『ん?』
「誰にでも優しいじゃん」
『なに急に』
「勘違いするやついると思う」
『マナとか?』
「っ……!」
図星を刺されて言葉が詰まる。
数秒、沈黙。
そのあとライが静かに言った。
『俺、誰にでもこんなんじゃないよ』
「……」
『マナだから』
息が止まりそうだった。
耳が熱い。
苦しい。
嬉しい。
好き。
感情がぐちゃぐちゃになる。
「……ライ」
『なに』
「それ反則」
『ごめん』
「謝んな」
『じゃあもっと言う』
「は!?」
ライが笑う。
でもその声はどこか優しかった。
『マナ可愛い』
「やめろって……」
『好きな反応する』
「うるさい」
『照れてる?』
「照れてない!」
『絶対照れてる』
からかわれてるはずなのに、本気で嫌じゃない。
むしろ嬉しい自分がいる。
「……ライ」
『ん?』
「この前の続き、なに」
『え』
「あの日、言いかけたやつ」
沈黙。
スマホ越しに、ライが息を飲む気配がした。
『……覚えてたんだ』
「そりゃ覚えてる」
『忘れてほしかった』
「なんで」
『言うつもりなかったから』
「……」
胸が苦しくなる。
じゃあやっぱり。
自分の勘違いなんだろうか。
そう思った瞬間。
『好きって言いそうになった』
「……え」
頭が真っ白になる。
『マナのこと』
時間が止まったみたいだった。
呼吸も。
思考も。
「……ライ」
『ごめん』
「なんで謝んの」
『困るだろ』
「……困るわけ、ない」
『え』
声が震える。
でも、止められなかった。
「俺も、好きだから」
言ってしまった。
終わった。
いや、始まったのかもしれない。
電話の向こうが静かになる。
数秒。
十秒。
長すぎる沈黙。
「……ライ?」
『やば』
「え」
『嬉しすぎて無理』
「っ……!」
ベッドに顔を埋める。
熱い。
無理。
死ぬ。
『マナ』
「なに……」
『今会いたい』
その言葉に胸が締め付けられる。
「俺も」
小さく返すと、ライが息を吐いた。
『次の親戚の集まり、来る?』
「行くに決まってる」
『俺も』
互いに笑う。
もう前とは違う。
まだ付き合ってはいない。
でも、想いは確かに通じ合った。
『マナ』
「ん?」
『好き』
「……っ」
『返事は?』
「……好き」
電話越しなのに、キスされるみたいに心臓が跳ねた。
その夜、二人は深夜までずっと話していた。
次に会える日を、待ちながら。