テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あの日から、ずっと落ち着かない。
親戚の集まりの夜。
ライが言いかけた言葉。
『俺、お前のこと――』
あの続きが頭から離れなくて、緋八マナは授業中もぼんやりしていた。
「緋八ー、聞いてるかー?」
「……はっ、はい」
教室に笑いが起こる。
やばい。完全に上の空だった。
窓の外を見れば、春の終わりみたいな柔らかい空。けれどマナの心臓だけは、あの日からずっと変なままだ。
ライは、あのあと何も言ってこなかった。
メッセージも普通。
『今日テストやば』
『マナ絶対寝てたろ』
『次会うの夏かな』
いつも通り。
だから余計に分からない。
あの言葉の意味も。
ライの気持ちも。
「……はぁ」
机に突っ伏す。
するとスマホが震えた。
画面を見る。
【ライ:今なにしてる】
その一言だけで顔が熱くなる。
【マナ:授業終わったとこ】
【ライ:えら】
【マナ:子供扱いすんな】
【ライ:一個下じゃん】
【マナ:二個】
【ライ:そうだった】
思わず笑ってしまう。
こういうやり取りだけで嬉しいの、ほんと終わってると思う。
【ライ:今日電話する?】
マナの指が止まった。
電話。
ライから誘ってくるの珍しい。
【マナ:……いいけど】
【ライ:じゃ、夜かける】
その文字を見ただけで、胸が跳ねる。
完全に好きな人への反応だ。
自覚なんてとっくにある。
問題は、ライがどう思ってるか。
夜。
親に「友達と通話する」とだけ言って、自室のベッドに寝転がる。
時計を見る。
まだかな。
まだかな。
そう思っていると、スマホが震えた。
『伊波ライ』
表示された名前に、一瞬息が止まる。
「……もしもし」
『もしもし、マナ?』
耳に直接届く声。
低くて、少し眠そうで。
それだけで胸が苦しくなる。
「なんか変な感じ」
『なにが』
「電話」
『なんで』
「……知らね」
905
ライがくすっと笑う。
その笑い声が好きだと思ってしまう。
『今日暑かったな』
「そーだな」
『部活は?』
「普通。ライは?」
『引退近いから最近忙しい』
「そっか……」
高三。
受験。
卒業。
自分より先に大人になっていく。
それを想像すると、少しだけ怖かった。
「ライさ」
『んー?』
「卒業したらどうすんの」
『大学行く予定』
「遠い?」
『まだ分かんね』
「……そっか」
寂しい、と思った。
でも言えない。
そんな資格ない。
ただの親戚なんだから。
『マナ』
「ん?」
『寂しい?』
「は!?」
『図星?』
「違うし!」
『耳赤そう』
「見えてないだろ!」
電話越しに笑われる。
悔しい。
でも好き。
「ライってほんとずるい」
『なんで』
「余裕ある感じ」
『余裕ないけど』
「嘘」
『マナ相手だと普通に緊張する』
「……え」
一瞬、言葉を失う。
ライが、緊張?
自分相手に?
『……やば、変なこと言った』
「いや……え?」
『忘れて』
「無理なんだけど」
心臓がうるさい。
期待する。
期待したくなる。
でも。
「……ライってさ」
『ん?』
「誰にでも優しいじゃん」
『なに急に』
「勘違いするやついると思う」
『マナとか?』
「っ……!」
図星を刺されて言葉が詰まる。
数秒、沈黙。
そのあとライが静かに言った。
『俺、誰にでもこんなんじゃないよ』
「……」
『マナだから』
息が止まりそうだった。
耳が熱い。
苦しい。
嬉しい。
好き。
感情がぐちゃぐちゃになる。
「……ライ」
『なに』
「それ反則」
『ごめん』
「謝んな」
『じゃあもっと言う』
「は!?」
ライが笑う。
でもその声はどこか優しかった。
『マナ可愛い』
「やめろって……」
『好きな反応する』
「うるさい」
『照れてる?』
「照れてない!」
『絶対照れてる』
からかわれてるはずなのに、本気で嫌じゃない。
むしろ嬉しい自分がいる。
「……ライ」
『ん?』
「この前の続き、なに」
『え』
「あの日、言いかけたやつ」
沈黙。
スマホ越しに、ライが息を飲む気配がした。
『……覚えてたんだ』
「そりゃ覚えてる」
『忘れてほしかった』
「なんで」
『言うつもりなかったから』
「……」
胸が苦しくなる。
じゃあやっぱり。
自分の勘違いなんだろうか。
そう思った瞬間。
『好きって言いそうになった』
「……え」
頭が真っ白になる。
『マナのこと』
時間が止まったみたいだった。
呼吸も。
思考も。
「……ライ」
『ごめん』
「なんで謝んの」
『困るだろ』
「……困るわけ、ない」
『え』
声が震える。
でも、止められなかった。
「俺も、好きだから」
言ってしまった。
終わった。
いや、始まったのかもしれない。
電話の向こうが静かになる。
数秒。
十秒。
長すぎる沈黙。
「……ライ?」
『やば』
「え」
『嬉しすぎて無理』
「っ……!」
ベッドに顔を埋める。
熱い。
無理。
死ぬ。
『マナ』
「なに……」
『今会いたい』
その言葉に胸が締め付けられる。
「俺も」
小さく返すと、ライが息を吐いた。
『次の親戚の集まり、来る?』
「行くに決まってる」
『俺も』
互いに笑う。
もう前とは違う。
まだ付き合ってはいない。
でも、想いは確かに通じ合った。
『マナ』
「ん?」
『好き』
「……っ」
『返事は?』
「……好き」
電話越しなのに、キスされるみたいに心臓が跳ねた。
その夜、二人は深夜までずっと話していた。
次に会える日を、待ちながら。