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次の親戚の集まりの日まで、あと一週間。
たったそれだけなのに、緋八マナにはやけに長く感じた。
好きだと伝え合ってから、ライとの距離は明らかに変わった。
毎日メッセージが来る。
電話も増えた。
『おはよ』
『授業だる』
『マナ今なにしてんの』
そんな何気ない言葉だけで一日が嬉しくなる。
高校一年生のマナにとって、高校三年生のライは少し大人だった。
余裕があって、落ち着いてて、でも時々子供みたいに笑う。
その全部が好きだった。
そして今日。
やっと会える。
親戚の家へ向かう車の中で、マナは落ち着きなくスマホを見ていた。
【ライ:もう着く】
【マナ:俺もあと10分】
【ライ:早く来い】
たったそれだけで顔が熱い。
「マナ、機嫌いい?」
「別に」
「ふーん?」
母親にニヤニヤされ、マナは慌てて窓の外を向いた。
……バレてないよな。
さすがに。
親戚を好きとか。
しかも両想いとか。
そんなの絶対知られたくない。
家に着いて玄関を開ける。
すると。
「マナ」
低い声。
振り返ると、ライがいた。
目が合った瞬間、胸が跳ねる。
「……ライ」
「久しぶり」
「一週間ぶりだろ」
「でも久しぶり」
そう言って笑うライがずるい。
好きって分かった状態で会うの、破壊力が違う。
前より近く感じるのに、意識しすぎて逆に緊張する。
「マナくん大きくなったねぇ」
「ライくんもう大学生みたい!」
親戚たちが騒ぐ。
その横で、ライが小さく耳打ちした。
「あとで抜けよ」
「……え」
「二人で話したい」
耳元にかかる声が低くて、背筋が震えた。
「……うん」
それだけ返すので精一杯だった。
夕方。
大人たちが食事の準備で忙しくなった頃。
ライがさりげなくマナの袖を引く。
「行こ」
「どこ」
「庭」
誰にも見られないように裏口から出る。
外は少し涼しくて、夕焼けが綺麗だった。
庭の端には古い倉庫がある。
小さい頃、よく二人で秘密基地みたいにして遊んでいた場所。
「懐かし」
「マナ、泣き虫だったよな」
「は!? 昔の話すんな!」
「俺の服掴んで離さなかった」
「うるさい!」
ライが笑う。
昔と同じ空気。
でも今は、違う。
好きな人として隣にいる。
それだけで胸がいっぱいになる。
「マナ」
「ん?」
「こっち」
倉庫の陰に引き寄せられる。
距離が近い。
近すぎる。
「ライ……?」
名前を呼ぶと、ライがじっとこちらを見る。
その目が優しくて、熱っぽくて。
息が苦しくなる。
「俺ら、これって付き合ってんのかな」
「……え」
「好きって言い合ったし」
「……そう、じゃね」
「じゃあ確認」
「確認?」
ライの手が、そっとマナの頬に触れる。
びく、と肩が揺れた。
「キスしていい?」
頭が真っ白になる。
聞き間違いじゃない。
キス。
ライと。
「……っ」
恥ずかしすぎて声が出ない。
でも嫌じゃない。
むしろ、ずっとしてみたかった。
マナが小さく頷くと、ライが困ったように笑った。
「かわい」
「うるさ……」
言い終わる前に、額が軽く触れる。
呼吸が混ざる距離。
ライの睫毛が近い。
「緊張してる?」
「……してる」
「俺も」
その言葉に少しだけ安心した。
ライでも緊張するんだ。
次の瞬間。
柔らかい感触が唇に重なった。
「……っ」
一瞬だけ。
本当に軽く。
でも、頭が痺れるくらい甘かった。
離れたあと、マナは完全に固まっていた。
「……マナ?」
「……無理」
「え!?」
「心臓やばい」
顔を覆う。
熱い。
絶対真っ赤だ。
ライが隣で笑っている気配がする。
「そんな反応されたら、俺も無理なんだけど」
「ライ余裕そうじゃん……」
「全然」
そう言って、ライはもう一度マナを見つめた。
「もう一回していい?」
「……っ」
「返事は?」
「……好きにしろ」
「かわいすぎ」
「うるさい!」
今度は少し長かった。
触れるだけじゃない。
唇が優しく重なって、離れて、また触れる。
ライの手が後頭部に回る。
逃げられない。
でも逃げたくない。
「ん……」
小さく声が漏れて、自分でびっくりする。
ライがぴたりと止まった。
「……それ反則」
「知らない……」
恥ずかしすぎて死にそうだった。
ライが額に顔を埋める。
「マナ好き」
「……っ」
「ほんと好き」
そんなふうに真っ直ぐ言われたら、もう無理だ。
「俺も……好き」
ライが嬉しそうに笑う。
そのあと、もう一度軽くキスされた。
まるで宝物みたいに。
すると。
「ライくーん! マナー!」
二人同時に固まる。
親戚の声。
「やばっ」
「戻るぞ」
慌てて距離を取る。
でも、さっきまで触れていた熱が残っていて、まともに顔を見られない。
家に戻ると、親戚たちが不思議そうに二人を見る。
「どこ行ってたの?」
「庭!」
「涼んでた!」
また息ぴったりで答えてしまい、周りが笑った。
「ほんと仲いいねぇ」
その言葉に、ライと目が合う。
秘密。
誰にも言えない。
でも。
それが少しだけ、嬉しかった。
自分たちだけの特別みたいで。
食事中、机の下でライの指先がそっと触れてくる。
「……っ」
誰にも気づかれないように。
こっそり。
マナが睨むと、ライは悪戯っぽく笑った。
――この恋は、まだ始まったばかりだった。