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最近のハルは、家に帰ってきてもすぐにソファに沈み込むことが増えていた。
以前なら「ただいま!」って元気に言いながら靴を脱いで、何か一言冗談を投げてくるのに、今はそれすらない。
「……おかえり」
アロハが声をかけると、ハルは小さく頷くだけで、カバンを床に置いてソファに突っ伏すと、そのまま動かなくなった。
「今日も、撮影?」
「うん……朝からずっと……」
声が少し掠れている。
アロハはそれ以上聞かずに、キッチンへ行って温かいお茶を用意して戻ってきた。
「ほら。あったかいの飲みな」
「……ありがと」
両手でカップを包むハルの指先は、少し震えているように見えた。
「ハル、無理してない?」
「……してるかも」
苦笑いみたいな表情で、ハルは視線を落とす。
「台本もさ、覚えること多いし……現場もピリピリしてて……
ミスしたら迷惑かけるって思うと、ずっと気、張ってて……」
言葉が途切れて、しばらく沈黙が落ちる。
アロハは急かさず、ただ隣に座った。
「……なんかさ」
ハルはカップを見つめたまま、ぽつりと言う。
「前は、忙しくても“楽しい”が勝ってたのに……最近、余裕なくて……
ちゃんとできてるのかも、分かんなくなる」
その声は、思っていたよりずっと弱かった。
「できてるよ」
アロハは、迷いなくそう言った。
「少なくとも俺は、ハルがどれだけ頑張ってるか知ってる。
帰ってきた時の顔見りゃ、すぐ分かる」
「……でもさ……」
ハルは言いかけて、言葉を飲み込む。
そのまま、少しだけ肩をすくめた。
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「……弱音、吐いていい?」
「今まで吐いてなかったのが不思議なくらいだろ」
アロハはそう言って、ハルの肩にそっと手を置く。
「吐けるとこでは、ちゃんと吐きなよ。ここは、そういう場所だから」
その一言で、ハルの表情が少しだけ崩れた。
「……現場ではさ、弱いとこ見せられないんだよ。
“できて当たり前”みたいな空気でさ……」
声が少し震える。
「でも、家に帰ってくると……なんか、一気に力抜けて……
……正直、怖くなる時ある」
「何が?」
「……このまま、ちゃんとやってけるのかなって」
アロハは少しだけ黙ってから、ハルの方を向いた。
「怖くなるくらい、ちゃんと向き合ってるってことだろ」
「……そうかな」
「そうだよ。どうでもよかったら、そんなふうに悩まない」
そう言って、アロハはハルをそっと引き寄せる。
ハルの額が、アロハの肩に当たって、小さく息を吐いた。
「……ごめん。なんか、重い話して」
「重くなんかない。でも、吐きたくなったら俺が話聞くから」
しばらく、二人とも何も言わなかった。
アロハはただ、ハルの頭をゆっくり撫でる。
「……アロハくん」
「ん?」
「俺さ……支えられてばっかだな」
「それでいいんだよ。今は、俺が支える番」
ハルは小さく笑って、でもすぐに目を閉じた。
「……もうちょっとだけ、こうしてていい?」
「好きなだけ」
アロハはそう答えて、もう一度、ハルの髪に手を置く。
撮影はまだ続くし、忙しい日々もすぐには終わらない。
それでも、ここに帰ってきた時だけは、無理しなくていい。
アロハは、そう言葉にしなくても伝えるみたいに、ずっと隣にいた。
fin
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