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あの香りが近づく事で、君がやってきた事が分かった。と同時に強ばっていた全身が少し緩む。ゆっくりと振り返れば、バッチリ決まっているのに顔は物言いたげな元貴が佇んでいた。
「なんで30分前なのにいるの…。いっつも遅れてくる方が多いじゃん」
不満そうに口を尖らせる。たまたま今日は早く着いたから、来たの言うて5分前だよ、となだめるがでもいつも1番は俺じゃんと悔しそうにしている。些細なことでも負けず嫌いで、なんだか親目線で見てしまう。歌っている時はあんなにかっこいいのに。まあ、そこがギャップで好きなんだけど。
「さ、行こっか。ばっちり予約してるから任してよ」
「え?若井待たないの?あぁ、中で待っとくの?」
歩き出した元貴に声を掛けると、戸惑ったようにこちらを見る。
「え…若井?いや、だって…。あ、涼ちゃんもしかして3人で集まると思ってた!?」
違うの!?と思わず声を上げると元貴は笑いながらも何処か寂しそうに2人です…と言った。どうしよう。2人っきりだなんて。勿論嬉しいのだが久しぶりに3人ともオフだから(明日ロスに飛ぶため)てっきりいつもの打ち上げだと思っていた。嫌だった?と聞く君に急いでぶんぶんと首を横に振る。どうせならもっとちゃんとした格好にすれば良かった。早まる心拍数と遠ざかってく背中に急かされ、急いで君を追いかけた。
外装よりオシャレなお店の雰囲気にどぎまぎしながら、元貴があれやこれやと店員さんとやり取りを済ませていく。運ばれてくる料理はどれも美味しくて、わざわざ2人で集まった理由を聞くのをすっかり忘れてしまった。デザートをメニューと睨めっこしながら悩んでいたら、正面からちょっといい?と言葉が降ってくる。しょうもない事で真剣過ぎて引かれてないかな。
恐る恐る顔を上げれば、元貴が小さめの花束を持っていた。ドクン、とひとつ大きく心臓が鳴る。きっと僕は今顔が真っ赤だろうが、君も珍しく赤らめていた。何か言おうと口を開く前に、君は掠れた小さな声で、でもハッキリ聞こえる大きさで喋りだした。
「…急だと思うけど、いつも、俺の我儘に付き合ってくれて、辛かったら寄り添ってくれて、ぼやっとしてそうで実はちゃんとミセスを大切にしてて行動してくれて、普段は言えてないんだけど、その…」
ずい、と両腕を突き出す。黄色の薔薇が揺れた。
「いつも本当にありがとうっ!!」
耳まで赤く染った君は、そう言い切った。
戸惑いやら告白されるんじゃないかなんていう淡い期待通りには行かなかった喪失感やら単純に感謝されているという嬉しさやらで顔が引きつってしまう。とりあえず、花束を受け取ろう。あ、お礼も言わなきゃ。
「…それはこっちのセリフ…あ、いやこっちこそ…?だよ。元貴が居たからここまで来れたし。ありがとね。…わぁ、綺麗だねこの薔薇」
中心に1本だけの黄色い薔薇は、きっとこれが目玉なんだろう。周りの色とりどりの細やかな花達が主張を強めて、シンプルながらも見応えがある。もしかして、これ…
「そ、それね。メンバーカラーと涼ちゃんの性格とかを意識して作ってもらったんだ」
照れながらそう言う。やっぱり。さっきから心臓が遅くなったり早くなったりして痛くなってきた。
「あ、あと、その…。花言葉も一応あるみたいで…」
慣れないことをしたからか、どんどん弱まる声が辛うじて聞こえたので、スマホを取り出して調べてみる。と、元貴が血相を変えて調べなくていいから!!と立ち上がった。が、時すでに遅く検索結果には、
『黄色い薔薇の花言葉:友情』
と出ていた。画面を見せると、ほっとしてへたりこんでいく。何をそんなに焦ってるんだろう。他の意味を調べようと持ち直せば、そろそろ出ようと促されてしまった。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
黄色い薔薇の花言葉は、友人に送る意味ではぴったりですが、恋人や大切な人に送るのはあまり向いていないものが多いみたいです。でも、薔薇1本ならまた大分違ってくるようで、採用しました。今度こそあと2話です。よろしくお願いします。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。