「……おい、起きろ。」
ふと、誰かの声が遠くで聞こえた。
「んん……」
まどろみの中でゆっくり目を開けると、目の前には広瀬先輩の顔があった。
(え、近っ…!?)
思わずびくっとして体を起こそうとすると、急にバランスを崩してしまい――
「わっ……!」
ドンッ。
気づいたら、私は先輩の胸に倒れ込んでいた。
(え、え、え、なにこれ!?)
固まる私の頭の上で、先輩の心臓の音が聞こえる。
ドクン、ドクン、ドクン。
(先輩、もしかして緊張してる……?)
「……悪い、降りるぞ。」
先輩が静かに言いながら、私の肩に軽く手を添えた。
「え、あ、うん…!」
私は急いで体勢を整え、顔を真っ赤にしながら立ち上がる。
(な、なんかめっちゃ気まずい……!)
電車のドアが開くと、私たちは一緒に降りた。
先輩は少し目をそらしながら、ポケットに手を突っ込んでいる。
(なんか、いつもより落ち着いてないような……?)
「あの、先輩?」
「……なに。」
「もしかして、照れてます?」
そう言った瞬間、先輩はピタッと足を止めて、じっと私を見つめた。
「……お前さ。」
「は、はい…?」
「そういうこと、気軽に聞くな。」
そう言って、先輩は少し耳を赤くしながら、前を向いて歩き始めた。
(ええええ!?絶対照れてる!!!)
私は思わず口元を押さえながら、必死に笑いをこらえた。
「……まぁ、寝てる顔は可愛かったけどな。」
「!?!?」
(いま、なんて言いました!?)
驚いて先輩の顔を見ると、先輩はすでにスタスタと歩いて行ってしまっていた。
(えええ、ずるいっ!!)
慌てて先輩の後を追いかけながら、私は心臓のドキドキを抑えられないまま、先輩と帰路についたのだった。
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