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奏(そう)ちゃんが俺の日常から消えた。
ほらね、あんなに青かった空がずっと曇天。
短かったね、アオハル。
夕焼けだけはいやに美しく見えて、それが余計に俺の心を悲しくさせた。
合唱部の帰り道、奏ちゃんの隣で見る夕焼け。
奏ちゃん。奏ちゃん。
あの日の夕日はどこに行った?
「死んでる…」
久々に学校に来た俺にあさ美が言う。
「憂いていたと思ったら、今度は死んでいる」
「うるせー」
俺は、机に突っ伏してあさ美の反対方向を見る。
「響、ずいぶん休んでたけどどうしたの?」
「インフルエンザだよ」
「え!7月に?めっちゃ笑える!誰もかかってないし」
あさ美が爆笑する。
「あさ美、お前は人生楽しそうで良いなぁ」
「そんなことないよ」
「まぶしいよ、お前がまぶしい」
「悩みはそれなりにあるけどね〜」
そっか、そりゃそうだよな。
「ごめん」
「響ってそ~ゆうとこ優しいんだよねぇ。勘違いされやすいけど」
「優しくないって」
「もっと本当の自分見せていけばいいのに。皆に」
「皆には無理だな。俺、好きと嫌いしかないからある程度信用した奴にしか本音は言えねーなぁ」
「ふぅん」
あさ美が笑いながら聞く。
「じゃあ、私は少しは信用されてる?本当の響を見せてくれてる?」
返答に困るな。。
「まぁ、ある程度は…」
あさ美がまんざらでもない顔をして微笑む。
「あっそうだ。響が休んでるあいだ藤村先輩が探してたよ」
「えっ!」
俺は机から起き上がった。
「奏…藤村先輩なんか言ってた?」
「合唱部に出て来ないから心配してたみたい」
それなら、俺にメールのひとつでもしてくれれば良いのに。
それぐらいに距離を置きたいの?
奏ちゃんにとっての俺は今はどんな存在?
疎ましい?厄介?
「ああ、マジで辛い…」
「ねえ、藤村先輩と仲良いのに連絡先交換してないの?」
「ケータイ持ってねーんだよ、俺」
「嘘つけw 机に置いてあるそれ何よ!」
「スマホだね」
「まぁよくわかんないけど、響が学校に来たら教えてって言われたから私も藤村先輩と連絡先交換したの」
「はあっ!?今すぐ消せよ!」
「なんでよー私、響の安否確認を先輩に報告しなきゃいけないんだもん」
「俺が自分でするよ…」
「あっ、さっき響が学校に来ましたよって連絡しちゃった」
「お前…!勝手なこと」
「お昼休みにうちの教室に来るって」
俺と会ってくれるんだ、奏ちゃん。
俺はどんな顔して会えばいいのかわからないよ。
会いたいけど、逃げ出したい。
「俺、頑張ったんだよ」
あさ美が不思議そうに俺を見る。
自分の気持ちをきちんと伝えた。
誰かと本当の気持ちをぶつけ合えた。
奏ちゃんは失ったけど、偉かったよな。
俺は…間違ってないよな…。
あぁ、あんだけ泣いたのにまた涙が出そうだ。
涙がこぼれ落ちないように天井を見上げた。
「響、藤村先輩と何かあった?」
今いちばん聞かれたくない事。
「話したくなさそうだから良いけどさ。私は友達として、響の役に立てることがあればするからね」
弱ってる俺には、あさ美のその優しさでまた涙が出そう。
俺は悟られないように、また机に突っ伏してあさ美に言う。
「あさ美、ありがとうな」
友達ってのも悪くないもんだな。
昼休みが近付く。
やっぱ今日は無理。
チャイムが鳴ると、俺は屋上に逃げ出した。
奏ちゃんに会うのがどうしても怖い。
食欲もないので、屋上に寝転んで空を見る。
無駄に綺麗な青空だな。
この期に及んでまだ奏ちゃんに期待しているのかも知れない。
あの日のことは無しにして、恋人にしてくれるとか。
ないないない。
わかってるのに、縋り付きたい。
少しの希望に。
「あぁ、失恋て情緒があっちこっち行ってメンタルやられる…」
なんて独り言を言っていたら、俺の体に黒い影がかぶさった。
「メンタルがなんて?」
奏ちゃん。
「そ…藤村先輩…」
「響、体調は大丈夫?」
久しぶりに見た奏ちゃん。
青空をさえぎって俺の顔を覗き込む奏ちゃん。
相変わらずカッコいいな。好きだ。
まだ好きだ。
奏ちゃんがしゃがみ込んで言う。
「やっぱり屋上にいたか。インフルエンザだったんだって?あさ美ちゃんから聞いた」
信じるのかよ。
あさ美ですら嘘だって気付いたんだぜ。
「すっかり治りました」
「そっか。元気ならよかった」
元気なわけないでしょ。
どこまで残酷なの、奏ちゃん。
「今日は部活来られそう?声が出るならソロパートの練習したいなって」
ああ、すっかり忘れてた。
「大丈夫、行きます」
「合唱部の皆も心配してたから、響が来たら喜ぶよ。もちろん僕も」
゛僕゛
距離が縮まったと思ってから、奏ちゃんの一人称は゛俺゛呼びになっていたのに。
俺はまた奏ちゃんのその他大勢に戻ったんだな。
藤村奏の人生の中のモブキャラに。
「合唱部ちゃんと行くから…先輩もう戻っていいよ…」
俺は寝転びながら、さも太陽がまぶしいとでもいうように両腕を組んで目を隠した。
「わかった。じゃあまた、放課後ね」
奏ちゃんは去っていく。
涙を見られなくてよかった。
寂しい。悲しい。一人ぼっちだ。孤独だ。
虚しい。
世の中にあるどんな絶望的な言葉を絞り出してもまだまだ足りない。
失恋て奴は。
涙がいつまでも溢れて、身体中の水分が無くなって俺という存在がこのまま消えればいいのに。
まだまだ涙は止まることをやめない。