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「ん〜ぁあ」
早すぎず、遅すぎず。ライバーとして活動してるのなら普通と呼ばれる時間帯に目覚める。今日はバレンタイン。
「ミミズクさん、おはよう」
いつもみたいにミミズクさんに話しかける。彼は言葉を発さない、でも反応はしてくれるから。俺の大事な相棒。
「行ってきます」
”行ってらっしゃい”の声もないけれど、ミミズクさんはこちらをみてまるで行ってらっしゃい、と言っているようだ。
世界はバレンタイン一色に塗りつぶされていた。甘すぎて酔ってしまいそうなチョコ、みたいな。
「凪ちゃん」
「ハッピーバレンタイン、セラ夫」
特に変わった様子もない事務所のいつも通りに安堵する。ここだけは年中無休で、ずっと変わってないから。
「はいこれ」
「、、チョコ?」
「コンビニのやっっすいやつー」
いつもお世話になってるから、と一言添えて。バレンタインだから何もしない、それは人としてどうなのか。バレンタインという行事を、意識できるならそれに沿った行動をすべきだろう。しかし、作る時間はないし高くておしゃれなやつは凪ちゃんも気を使いそうだ。ということでコンビニの凪ちゃんが好きそうなやつ。
「ははっ、お前らしいよ。こっちからも」
「、、おんなじやつ?」
「そう、作っても良かったけど時間ないし高いやつはお前酔っちゃいそうだからさ」
「おんなじ考えかよw」
結局俺らは同じチョコを渡してもらっただけだった。でもそれだけでも十分だった。
凪ちゃんに会えなかったら俺は抜け殻だったんだろうな。
あの時出会えたから、俺の今までの努力は報われたんだ。世界がこんなに美しかったんだって気づけたんだ。
「ハッピーバレンタイン、あげるよ」
「、、バレンタイン?」
凪ちゃんに出会ってからさまざまなイベントは体験していた。誕生日にハロウィン、クリスマスに初詣。知ってはいたけれど幼き頃以外にやった記憶という記憶がないため忘れていたイベントたちだ。しかしあの頃の俺はバレンタインを知らなかった。
「お前、、バレンタインを知らないのか。いや、知らない方がいいのか、、?」
「、、バレンタインって何」
「は、、?ギャグじゃないのか?マジで言ってんの?セラ夫」
「ぁ、ごめん」
「謝ることじゃない。そうだな、バレンタインってのはチョコを渡す日のことだよ。女から男に、男から女に、はたまた同性に。義理、友チョコとか色々あるけど私の渡すチョコは違うよ」
「俺、なんも用意してない。それに、これは受け取れない」
「はぁ?なんでだよ」
「メッセージカードに書いてあるでしょ、”お前の隣は私だぞ、好きだ”って。好きな人に渡したいんじゃないの」
あの時の凪ちゃんの、ポカンってした表情は多分忘れない気がする。今となっては笑い話だけどあの頃はほんとにそう思ってたし悪気はなかった。
「この言葉がお前に伝わらないんだったらいいよ。でも受け取ってくれ。これは紛れもない真実だから」
「、、、」
その時は確かにあの時のチョコが友チョコかなんかだと思ってた。そう信じて疑っていなかった。今は違うけど。
「セラ夫、愛してる」
卒業式、入学式とは果てしなく変わった俺に愛の告白をしてくれた君。一番近くて一番俺に感情をくれた人、一番俺に教えてくれた人、一番俺が、俺が好きな人。
「ぉ、俺も」
「凪ちゃんが好き」
「凪ちゃん、愛してる。凪ちゃんに出会ってからね、俺変わったよ。感情豊かになったし笑えるようになったんだよ。俺の今までが報われたんだよ。凪ちゃん、怒っててもさ泣いてても喜んでても、俺凪ちゃんの隣にいたい」
愛してる、なんて俺は言葉に出すなんてないと思ってた。
「セラ夫、こっちにきてください」
そう俺は呼ばれたから凪ちゃんの隣に行く。そしたら背中に手を回され背中・喉・唇の順で軽く唇を当てられるだけのキスをされた。
「セラ夫、愛してます。ですからどこにも行かないで。私の隣で私のものでいて」
凪ちゃんが嫉妬深くてまるで俺を喰らってしまいそうな瞳をしていた。眼鏡の淵から覗かせる紫と青のグラデーションの瞳に俺は酔ってしまいそうなほどの魅力を感じていた。
「セラ夫はキス、してくれないんですか」
まるでプレゼントを欲しそうな、子供みたいな表情で俺を見つめてくるものだから俺は顎にキスをした。
「唇、じゃないんですか。唇にキス、してくれないの?」
ほんとに子供みたいに、俺の腰まで腕を回して逃げられないようにして俺の方が背が高いから俺を上目遣いで見つめてきた。
「、、、ちゅ」
俺は今鏡を見たくない。
「ふふっ、かわいい」
凪ちゃんはド直球に想いを伝えてくれる。
「凪ちゃん、もっかいちゅしよ」
「ちゅ、だって。かわいいね、あなたは。いいよ」
ちゅ、ちゅ、ちゅ。と唇を重ねるだけの軽いキスをする。俺はそれだけで甘い甘いチョコのように溶けてしまいそうだった。
「セラ夫、愛してる。愛してる。離れたら容赦しないよ。離れないで、私の隣にずっと、いて。そして私のものでいてよね」
その言葉には拒否権なんて存在しない圧が存在していた。俺はそんなに圧をかけなくたって、離れるわけがないのに。今の俺は凪ちゃんがいるから、成り立ってるのに。
「行くわけないよ、俺は抜け殻になるまで俺はこうやって凪ちゃんと抱きしめ合うの。君と生きるために今日起きたんだよ、だから愛してる」
凪ちゃんと出会うまで俺は俺じゃないから。凪ちゃんと出会ったから俺は俺になってるわけだから。
I love you.
事務所のテーブルにはお互いが渡しもらったチョコが置かれてあった。そのチョコにはそう書かれてあったような。
ちなみにですが。
キスをする時の場所の意味
背中=もっと愛情を伝えたい
喉=支配欲の表れ
唇=好意を抱いている
顎=恥じらい