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「ちゃんうさ〜!!!」
「・・・・・ん?」
朝の新聞配達を終え、学校に行っている途中。
元気な声に呼び止められ、後ろを振り返ると。
「ちゃんうさ、おっは〜!!」
「こら一二三! 銃兎さん、困ってるだろ・・・・・!
銃兎さん、すみませんすみませんすみません・・・・・」
「ふふっ、大丈夫ですよ、独歩さん、一二三さん」
そこにいたのは、同級生の伊弉冉一二三と観音坂独歩だった。
「そ〜いえばさ、今日始業式じゃん! 俺っちたちも2年生に上がるけどさ!」
「・・・・・そうでしたっけ?」
「銃兎さん、今日は始業式ですよ。
それで一二三、銃兎さんどこのクラスなんだろって言うから、探してたんですよ」
「おや、それはそれは・・・・・」
毎日欠かさず新聞配達をしているし、あまり寝てないしで今日が始業式だということを忘れていた。
「あ、あそこ!
クラス表張り出されてる! 」
一二三が指さした方に目線を向けると、クラス表が張り出されていた。
中高一貫校のため、クラス表を見つけるのも一苦労するのだが、一二三と独歩がいるなら大丈夫だろう、多分。
「・・・・・あった」
「まじ!? ちゃんうさ何組!?」
「私はA組ですね。一二三さんと、独歩さんは?」
「・・・・・!、俺っちたちもA組だ!
やった! ちゃんうさと、独歩と一緒!」
「A組!? 俺、これから何があるんだ・・・・・?」
「そんな、ネガティブにならなくても、良いのでは・・・・・?」
「そーそー、独歩ちん! そんな暗くならないで、体育館行くぞ!」
「は!? まだ早くないか!?」
「そんなこと気にせずに! 行くぞ〜!」
一二三は、独歩を引きずるようにして体育館へと向かい、独歩は、銃兎さぁぁぁぁん、と叫んで、銃兎に手を伸ばしている。
銃兎は1つ溜息をつきながらも、独歩が伸ばした手を取り、一二三を止める。
「一二三さん、最初に鞄を置いてから行きましょう」
独歩は助かった、とほっとし、一二三はそれもそだね〜!!と元気に言った。
「ねねちゃんうさ!」
「一二三、ちゃんうさっていうのは失礼だからそろそろ止めないか・・・・・」
「そうですね、銃兎でも、入間でもご自由に呼んでください、それで、なんです?」
「ん? いやー、銃兎、今年も特待生保ってるんでしょ〜? すごいなぁ〜って、俺っち思って!」
「あ、ありがとうございます・・・・・?」
3人で会話をしながら、A組に鞄を置きに行く。
鞄をA組に置くと、3人は自分の席を確認した。
「あ、銃兎、1番後ろじゃん! 目悪いんでしょ? だいじょぶ?」
「まぁ、大丈夫でしょう・・・・・メガネもかけてますし・・・・・」
「それならいいんですけど・・・・・」
「ま、独歩ちんと俺っちのお隣だもんね!」
「見事に挟まれましたね・・・・・」
銃兎は溜息をつきながらもニコニコと笑っていた。
やばい、ねみぃ・・・・・
始業式。
校長の長い話を右耳から左耳へ聞き流しながら、先程からずっとうつらうつらしていた。
しかし、寝るわけにはいかない。
何のために中学生の頃から“いい子ちゃん”を演じ続けてきたのか。
銃兎はそんな思いでいっぱいになりながら、気合いで起きていた。
「次は、新入生、代表挨拶です」
やっとなっがい話が終わった・・・・・
そう、銃兎が安心したのもつかの間。
体育館内がザワザワとしだした。
銃兎は、自分に向けられる先生たちの目線には気付かないふりをしてなるべく先生たちと目を合わせないようにする。
「入間」
ほら、呼ばれた。
くっそ、あのジジィ共、俺をパシリみたいに使いやがって・・・・・
そう心の中で悪態をつくが、口には出さない。
「何でしょうか」
なるべく事務用の笑顔を浮かべ、先生の近くによる。
「今日の新入生代表挨拶、中学一年生の碧棺左馬刻と高校一年生の毒島メイソン理鶯なんだが、どこかに行ったんだ。
先生たちも捜してはいるんだが、物騒な噂がある2人だから、先生たちも真面目に探してないんだよ。だから、入間、頼むぞ」
はぁ?
いやそっちで解決しろよクソジジィ・・・・・
そう思いつつ、了承の意を示す。
遅れてもいいとのことだったから、いや始まってんだよ・・・・・とツッコミを入れつつ、その2人を捜す旅に出る。
「顔写真もねぇくせに捜せとか意味わかんねぇ! せめて写真ぐらい持っとけよあのクソども!」
一旦屋上に行き、叫ぶ。
先生たちには聞こえないぐらいの声量だから、聞こえていないだろう。
銃兎は、イラついている自分を落ち着かせるために煙草を取り出す。
お金が無くても、煙草は吸う銃兎だった。
「ふぅ・・・・・イライラする時は煙草に限るな・・・・・」
銃兎が煙草をふかしていると、給水タンクから声が聞こえた。
「なァ理鶯、今日俺様新入生代表挨拶、ってやつがイヤでここに来たんだけどよォ、お前はどォしてここにいるんだァ?」
「ふむ、小官は銃を没収されそうになってな。逃げ回っていたのだが、気づいたらここにいた」
「なんだそりゃw」
あぁ・・・・・見つけちまった・・・・・
このまま捜してて、始業式終わった、って感じにしたかったのに・・・・・
はぁ・・・・・めんどくせぇ・・・・・
「スンッ、あ? 誰か煙草吸ってねェ?」
「ふむ、確かに紫煙の香りがするな」
バレたし。
はぁ、仕方ねぇ。
「そこにいるお二人さん」
「あ?」
「む」
「おはようございます、2人のことを捜すように先生に言われたので、捜してたんですよ」
2人、のうち1人は眉間に皺を寄せ、もう1人は不思議そうに首を傾げる。
「誰だよ、テメェ」
おや、随分と口が悪い。
「そんなこと、どうでもいいでしょう?
ついてきてもらいますよ」
めんどくさくなって言うと、給水タンクから男らが飛び降りてきた。
随分と綺麗に着地するんだな。
口が悪い男は、ちょっと跳ね気味の銀髪をふわふわとさせ、ルビー色の瞳でキッと睨む。
「・・・・・ん」
「・・・・・は?」
つい、間抜けな声が出た。
いや、これは声も出る。
睨まれた、と思ったら煙草咥えてズイッ、って感じで目の前に煙草突きつけられた。
「火、くれや」
火? あぁ・・・・・煙草のか・・・・・
「・・・・・」
男の煙草に俺が吸ってた煙草の先を付け、すっと息を吸う。
男の煙草にも上手く火がついたらしく、男もすぅ、と煙を吸った。
「ふぅ・・・・・テメェが誰かは知らねェが、俺様は行かねェからな」
「行ってもらわないと困るんですよ」
少し、本当に少しイラッとして怒気を含んだ声で言うと、男の機嫌は、すぐに下がったらしい。
「アァ? 俺様が行かねぇってんだから、行かねぇんだよ」
なんなんだよ、こいつは・・・・・
「はぁ・・・・・それで?
あなたは?」
もう埒が明かない。
銃兎はそう判断して、もう1人の男に問いかけた。
「小官は、理由は無い」
「・・・・・はぁ?」
なんなんだ、こいつら。
もうちょっと真面目に考えられないのか?
「ふぅ・・・・・チッ、わぁーったよ、行く行く。
その代わりなんかしろや」
「おや、随分といい子ちゃんになりましたね、急に」
「行かねーとテメー帰らねーだろ」
「帰れねーが正解だっての!」
ついイラッときて大きな声を出してしまった。
「お、おぉ・・・・・」
「チッ、ついてこい」
煙草を踏みつけ火を消し、ついてくるように言う。
もちろん、舌打ちも忘れずに。
「りおー行こーぜ」
「うむ、しかし、何を読めばいいのか」
「私が即用意します、さっさと体育館行ってください」
もう俺が用意したほうが良い。
用意してないんだろうなと悟った時点で考えてはいた。
「ァ? テメェが用意してくれんの? なら俺様の分も頼むわ」
「は?」
一応お前の分も考えてた俺をほめたい。
結局、始業式は何とかなった。
あの二人もちゃんと読めてたし、代表挨拶も何とかなったし・・・・・即書いて即渡した甲斐があったな・・・・・
なんか、疲れたな。
「銃兎!」
始業式が終わり、一二三と独歩とクラスに向かっていると、一二三に話しかけられた。
「な〜んか、あの碧棺左馬刻と、毒島メイソン理鶯、捜してたっぽいね!
先生がめっちゃ感謝してたよ〜?」
「あぁ、途中銃兎さんがいなかったのって、そういうことだったんですね・・・・・お疲れ様でした・・・・・」
「ありがとうございます・・・・・」
一二三と独歩に慰められつつ、A組までの道を歩く。
「ほォ〜ん、銃兎っつーのか」
な〜んかやな声したな・・・・・
舌打ちをしたい気分を抑えつつ、後ろを振り向くと。
案の定、碧棺左馬刻・・・・・と、毒島メイソン理鶯がいた。
「なんで高等部に?」
「小官は高校1年生だからな」
「俺様は中一だけどよォ、こっちの屋上の方が過ごしやすぃんだわ」
「意味わかんねぇ・・・・・」
この時、俺は知らなかった。
この2人に出会って、俺が、無理だと思っていたこと、一生そんな機会はないと思っていたことが、どんどん叶えられると。