一心不乱に練習する涼ちゃんを見て
(そろそろ危ないな・・・。)
そう思って声をかける。
「涼ちゃん、大丈夫?」
「若井・・・。」
俺の声で我に返ったのか、ハッとしてこっちを向いた。
「涼ちゃん、ちょっと休憩しよ?元貴もまだ前の仕事押してて遅れてるし。」
「僕は大丈夫。元貴来るまでに落とし込みたいから。」
笑顔で言う涼ちゃん。けど、目元には隈がうっすら浮かんでいる。
「寝れてる?」
「・・・。」
「寝れてないんだね。」
「大丈夫・・・。」
俺は涼ちゃんが座っているキーボードの椅子の端に座った。
「俺じゃ頼りないかもだから、悩みがあるなら元貴にはちゃんと話すんだよ?」
頼ってほしいとは思うけど、俺がどうにかできることは少ない。
話を聞いてあげることはできても、その原因を取り除くことはできないだろう。
俺以外を頼るのは悔しいけど、一人で抱え込まれるよりかはそっちの方がいい。
「元貴には言えないよ・・・。」
「もしかして元貴からなんか言われた?」
「ううん。それに、言われたとしてもそれはチームの為や曲をよりよくするためだって分かってるから。」
それじゃ・・・?
「・・・なんかさ、今の元貴みてるといつか僕は“いらない”って言われそうな気がして・・・。」
「まさか。」
「直接的な表現はなくても、なんとなくそんな感じになりそうだなって・・・。」
「絶対ない。」
俺が断言しても、涼ちゃんは力なく笑うだけ。これが元貴なら、安心させてあげることができるんだろうな。
「涼ちゃん。そうなったら二人でチームを離れよう。」
「え?」
「元貴が涼ちゃんのこといらないっていうなら、俺のこともいらないでしょ。だから、二人でここから逃げ出そう。」
「若井はそんなことないよ。元貴にとって若井は幼馴染で唯一無二の親友じゃん・・・。」
「そう思ってくれてたらいいんだけどね・・・。」
実は俺も涼ちゃんと同じようなことを考えることがある。元貴に必要なのは”幼馴染”という設定なだけで、それは俺じゃなくてもいいんじゃないかって。
「だから涼ちゃん、辛くなったら言って。」
涼ちゃんの手を取ると、その掌にキスを落とす。
「若井・・・?」
「二人で愛の逃避行をかまそう。」
ウインクして見せれば、涼ちゃんは笑った。
「あはは、愛の逃避行か。それはいいね。」
俺は近くに置いてあった油性ペンで、予備のピックに「ticket」と書く。
「はい、これ。」
「ticket?」
「逃避行ticket。いつでも使っていいからね。」
「ありがと、若井。」
掌:懇願
コメント
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砂利さんのお話ほんとに好き過ぎる🥹本当に良い話なんだよなぁ
このシリーズ、好きだな💕と読ませて頂いてます🤭 このお話、めちゃ刺さりました🥹💙💛 チケット、使う日がないと思いますが、でもちょっこし見て見たいです🫣💙💛