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「ぐ・・・ひっぐ・・」
まだ夜が涼しい夏。満月が辺りを照らしていた。涙が止まらなかった。一人暮らしのベランダで2人掛けのベンチに座り、もたれかかる。人生で初めて付き合った人と別れたのだ。5年。自分でもびっくりするほど続いた。しかし5年という歳月は長く短い。長いからこそどちらにも冷め期というものは来るものだ。ただ、それを乗り越えられなかっただけ。でも心のどこかでは付きまとっているのだ。だから今この状態なのだろう。何時間経ったのかわからない。空に散りばめられた星々を見つめていると、タバコの匂いが風に乗ってやってきた。隣のベランダから音が聞こえる。この際泣き声が隣に聞こえてようがどうでもいい。
「おねーさん」
声が聞こえる。隣のベランダからだ。
「やっとこっち向いてくれた。ねえ、隣行ってもいい?話聞いてあげるからさ」
流石に泣き顔は見せられない為、首を横に振る。
「そっかぁ〜残念だけどここでいいや。こういう日はパーっとはなしちゃいなよ!別に終わったことなんだしさ。もう隠すこともなくね?」
全てを話した。もう思い出さないで封印するかのように。
「そっか〜。おねーさんも大変だね」
タバコを吸いながらも静かに話を聞いてくれた。
「よし、じゃあね」
話は途中だが立ち上がって部屋の中に消えていった。嵐のように現れて嵐のように去っていくとはこのことだろう。途中までだったが少しスッキリした気がした。私も立ち上がり、部屋に戻った。翌日、大学から帰ってきて窓を開ける。初夏の風が涼しかった。外に出て、星を眺める。月は少し欠けていた。
「おねーさん♪」
隣から声が聞こえてくる。
「昨日の続き、聞かせてくれない?」
タバコの匂いに包まれながら、話し始める。今日は最後まで話せた。二日もかかるほどの思い出が一瞬にして流れていく。
「じゃあ帰るわ」
昨日と同じように部屋に戻っていく。お隣さんに何話しているんだろう、と思いながらも夜の風に浸っていた。
「え?彼氏と別れたの?」
大学の昼休み、友達と食堂で話していた。
「まあこれでうちらと同じ非リア民になったね」
「でもあんたの場合モテるからね・・・すぐ彼氏できちゃったりして?」
「そうでもなくね?あの人が初恋で初彼でしょ?そう簡単に乗り換えられないと思うけど」
かなりボロクソに言われているが、それぐらい周りからも認識されてたってことだ。家に帰ってくると大学のレポートを片付ける。夏休みが入ってからレポートが溜まるのは嫌なので少しでも終わらせておく。
「よし、」
レポートに集中すると時間はあっという間に過ぎていく。時計を見ると9時を過ぎていた。それと共にタバコの匂いもする。
「あ!お姉さん、やっほー。なんか話聞かせてよ」
「もう話すことないんだけど」
「んー。じゃあお姉さんのこと教えてよ」
話題は違うが昨日と同じように静かに聞いてくれる。
「へぇ〜。お姉さん22歳なんだ。ちな俺、次26」
「え?もっと年下だと思ってたんだけど」
「俺も姉ちゃんの方が上だと思ってた」
「失礼ね。老けてるって言いたいの?」
「そういうわけじゃなくて大人っぽいなって」
「そ」
「そんな気ぃ落とすなって」
彼は少しチャラくて見た目も若く見える。正直20歳ぐらいかなって思ってた。
「そういや、明日は予定があってお姉さんと話せないわ。残念」
「私も、明日予定が」
「「RIMIXのライブ見にいくんだよな/ね」」
!?
「待って!誰推し!?」
「DJのGUNさん!お姉さんは?」
「私はボーカルのSINJI!声のギャップがもう!さいっこう!」
「SINJIか〜!わかる!作詞作曲もしてるし、良い曲ばっかなんだよな」
まさかRIMIXが好きな人が隣にいたなんて・・・
「よかったらさ、明日一緒に行かね?」
「もちろん!1人よりは全然いいし!」
こうして明日の予定が決まった。
翌日
「お待たせ!」
「ペンライトの量えげつないな」
「そう言って、あなたも限定のタオル持ってきてるじゃん」
「まあ、タオルはライブでは大切だからな」
RIMIXの話をしながらライブ会場に向かう。「やばい・・・本物のSINJIだ・・」
「お姉さんそれ、ライブの時毎回言ってるでしょ」
「多分・・いつの間にか言ってるかも」
「あー!楽しかった!これで夏休みまで頑張れる!」
「アルバム発売の報告はやばいって・・もちろん買うけど」
楽しい時間はあっという間に終わった。
「今日はありがとうね」
「いや、一緒に行った方がタクシー代も安いし。お姉さんと色々語れて楽しかったよ」
そこからあっという間に時間は過ぎていき、夏休みがスタートした。お隣の彼との交流は続いていて毎日9時にRIMIXについて語ったり、雑談したりお酒を飲んだりしていた。今年の夏は予定が去年よりかなり少なめ。友達や大学の後輩たちとの食事ぐらいしかなかった。だが、あっという間に九月。夏休みはあと一ヶ月を切っていた。
「あんたさ、彼氏と別れたのにあんまり思い詰めてなさそうだね」
「わかる〜。なんか思ったよりもスパッて切ったよね」
「そうかな・・最近はRIMIXについて語れる人を見つけたから」
「うっそ!あんたのRIMIX愛について来られる人なんて居たんだ・・」
友達は変わらず毒舌だ。でもどこか気が合う。
「あ、やべ。自分帰らなきゃ」
「そっか。そのままお開きにしよ」
家に帰って食事の準備をする。いつもはダラダラとやっているが今日は珍しく手際が良い。9時前には洗い物も済ませてしまった。
「よし」
いつもよりちょっと早いがベランダに出る。夜の街は少し雰囲気が違っていた。
「あ、お姉さん。今日は早いね」
彼も外に出てきた。
「そういえば今日と明日は花火大会だね。屋台の灯が見える」
雰囲気が違うのはこういうことか、と納得した。九月に二日間開かれるビックイベントだ。
「ねえお姉さん・・」
「ん?」
「隣、行ってもいい?」
「いいよ」
初めてあった日に断ってから、隣に来ていいか聞くことはなかった。
「よいしょ、」
部屋のベランダをつなぐ柵を乗り越えて私の隣に座る。
「花火大会・・か。大学の時に友達と行ったっきりだなぁ」
懐かし、と笑ってぼーっと夜景を眺めていた。その時ドーンと音がなる。空に綺麗な花が咲いた。花火をみると思い出す。毎年この花火大会に元カレと一緒に行っていた、2日間欠かさず。そして神社の前で花火を見るのだ。
「あー、嫌になるっ・・・」
別れて二週間が経っているのに頭から離れない。いつの間にか涙が頬を伝う。
「泣いてんの?」
花火の音が大きく声も聞こえにくいのに彼は花火を見ながら呟く。そんな時、彼は立ち上がってベランダの柵によじ登った。柵に立つと花火をバックに映える。だがあと一歩進むと五階から真っ逆さまだ。
「危ないよ・・」
「あのさぁ・・お姉さん・・」
そう言い、私のところに顔を向ける。
「元彼のこと忘れられないなら、他の男がすることに首突っ込んじゃダメだよ?」
悲しそうで笑っているような何とも言えない顔をして話す。
「なーんてね」
そう言い柵からひょいっと降り、私の隣へ戻ってきた。それと同時に花火の音も消える。そしてタバコに火をつけようとする。
「あれ?つかない・・・あ、もう中ないじゃん」
立ち上がり、部屋の境目にある柵を飛び越えた。
「帰るの?」
「ううん。コンビニに行く。ライターの予備もないからさ」
「私も行っていい?」
ーーーーーー
夜の住宅街を歩いている。特に何も話さず蝉の鳴き声だけが聞こえている。コンビニまでは五分かからないぐらいだが少し長く感じた。
「何買うの?」
コンビニに着いてから訪ねてくる。
「お酒。久しぶりに宅飲みしよっかなって。学校もないし」
そう言いお酒コーナーに足を運びお酒をカゴに入れていく。
「なんか多くない?度数高いのもあるし・・」
「今日は弱いの飲むの。クラクラしたい時に度数が高いの飲むのが好きなんだ〜」
「俺はお酒弱いから。飲み会もほんとに少しだし、ほとんどハンドルキーパーしてる」
笑って会計を済ませていた。
「おねーさん。持つよ」
お酒の入った袋を持ってくれる。
「ありがとね」
玄関の前で袋を受け取る。
「じゃあ」
こうして玄関に入っていった。
ーーーーーー
休みも後半に差し掛かり、あんなに暑かった夏も終わりを告げようとしている。外に出て隣をチラッと見てみるが電気はついていない。
「明日、飲み会なんだよね〜俺は飲まないけど」
そう言っていた。だが無性にお酒が飲みたくなった。片手には度数が高めチューハイ。ベンチの目の前の机に缶を置いて星空を見つめる。度数が強いため少しクラクラしてくる。机に伏せてダラ〜っとする。セミの鳴き声がコオロギの鳴き声に変わりつつある。
ーーーーーー
「ん……」
目を覚ますと目の前はまだ暗い。伏せてたはずだが壁にもたれている。あまり時間は経って無さそうだ。でも頭はガンガンする。
ふと隣を見ると彼が寝息をたてて私にもたれかかっていた。色々と状況がわからない。
なぜここにいるのか……少し考えていると微かにお酒の匂いがした。彼はあまり飲む感じではないらしいし、目の前で飲んでいるのも見たことがない。
じゃあ……飲んだってこと?その時だった。
「ん、起きた?」
隣から声をかけられた。彼はタバコを取り出し火をつける。
「まだ酒が抜けてなぁい」
少し呂律が回ってないことから彼は少し酔ってることがわかった。
「飲んだの?」
あまり飲まない彼が飲むとは……そう思い聞いてみた。
「うん……ここで」
ここ!?周りを見渡すが缶は見当たらない。「え、どこで?」
「ベランダ」
その一言を聞いて私は唖然としていた。私の目の前にある缶の中は少なくなっている。彼は柵に寄りかかりながら夜景を見ていた。
「どうしたの?」
「あ、いやなんでもないよ」
慌てて答える。まさかの回答だ。
「ちょっとだけ、ね」
彼は苦笑いしながら答えた。
「もう、なんでそんな事したの?」
「さあね」
そう言いタバコの煙を私の顔に吹きかけた。
「ごほっ……」
むせる私を見て笑う彼。
「もうちょっとマシなやり方してよ」
彼は少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔になり、
「へぇー?知ってるんだ。おねーさん結構悪い子だね」
「なっ!」顔が赤くなるのがわかる。
「でもまだ恋人でもないし……♡」
まだ、その言葉に引っかかるが今は気にしないことにした。
「ねぇ」
唐突に話しかけてきた。
「何?」
「あのさ、俺、実はおねーさんのことが好きなんだよ」
彼の目は真剣そのもの。
「そ、そうなんだ。ありがと。嬉しいよ」突然の告白に戸惑ってしまう。
「だからさ」
そう言い私の隣に座る。そして私の肩に手を置きこう言った。
「付き合ってくれない?」
ーーーーーー
休みが終わり、大学も始まった。少し肌寒い日。大学から帰る時いつもと違った。駅の外に出て、彼を待つ。
「お疲れ様。行こっか」
スーツ姿は初めてで、大人っぽく見えた。
「うん。公園のとこだよね」
そう言い歩き始める。違うのは彼の手を握っていることぐらいだろうか。今日は夜ご飯を食べに行く約束をした。家は隣だが、あえて帰りに待ち合わせをした。
「この辺に美味しいお店があるんだ」
彼が案内してくれた店は路地裏にある小さなお店で、落ち着いた雰囲気のお店だった。席についてメニュー表を開くと色々な種類の料理があった。
「どれにする?」
「うーん……オススメとかある?」
「じゃあこれかな」
「デザートは?」
「俺は……あとで。注文していいよ」
食事は美味しかったし、雰囲気も良かった。仕事場の同僚の人が教えてくれたらしい。社会人っていいな……そう思いながらデザートを食べる。会計を済ませ店を出る。彼が全部出してくれたけど……家に戻る途中、公園でイルミネーションが点灯していた。
「早くない?まだ十月だよ?」
「ハロウィンが近いからね。クリスマスの点灯は十月終わってからかな」
2人でゆっくり歩いていると街の景色が見える。
「ちょっと見てきてもいい?」
「もちろん」
ライトアップされた木々と街の電気はとても綺麗だった。
「きれい……」
思わず口からこぼれてしまうほどに。すると彼は後ろからハグをしてきた。
「どうしたの?」
「寒い」
「あ!ごめんね!帰ろ……っ」
振り向いたと同時に唇を奪われた。一瞬の出来事だった。
「ごちそうさまでした。デザート、美味しかったよ」
ニヤッとした表情でこちらを見つめてくる。
「ばか……」
とは言ったものの雰囲気は最高だった。そして、いつもは子供っぽい彼だがこの時は大人っぽさを感じた。
「よし、帰ろっか」
無邪気に笑って手を差し出してくれる。
「うん!」
私はその手をしっかり握った。
ーーーーーー
「そういえばタバコ、吸わなくなったね」
私達が付き合って1ヶ月。ベランダで会話を交わしていた。
「あー、あれは……」
「俺、本当はタバコ嫌いなんだよ。あんまりいい日じゃないなって時には少し吸ってたけど。」
「え、じゃあなんで?」
「おねーさんに振り向いて欲しくて」
恥ずかしげもなく言う彼に私はドキドキしてしまった。
「もう、ほんっとずるいよ」
「ふふん♪」
嬉しそうに笑う彼を見ていると、私まで笑顔になってしまう。
「好きだよ」
「私も好き」
そう言って2人はキスをする。それは甘くて蕩けてしまいそうなくらい幸せだった。