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#ゲーム
#風見裕也
緑茶は飲めないが紅茶は飲める
巨大な建物の2階に着くと、引き続き蜘蛛型の敵が襲ってきた。
それに加えて、遠方からは銃撃が飛んでくる。
……ただ、銃撃についてはアリアが単独で処理することができた。
異能の『対象化拒否』で、銃撃の対象にならないからだ。
「……やっぱり便利だなぁ、あの異能は……」
「でも、見ていて冷や冷やしますよね……」
ザインとメルヴィナは、ガルドの影からアリアを見守っていた。
ガルドは銃撃を受けているものの、大きな盾を使って――横へ、後ろへ、弾を流していく。
「なかなか強い衝撃ですが、以前アリアさんから言われた通り――
……冷静にいなしていけば、大丈夫ですね」
「ガルド、凄いね……」
単独で仲間を守れるというのは、今回の戦いにおいてはかなり重要だ。
アリアがガルドを求めた理由を、今なら全員が理解することができた。
銃撃を完全に停止させたあと、ガルドたちは蜘蛛型の敵の――群れの中央に雪崩れ込んだ。
合わせて、アリアもそこに合流する。
「あたしが最初に、攪乱するねー」
アリアはわざと敵の視界に入りながら、うろちょろと動きまわった。
敵はアリアに攻撃しようとするも、それができないため――挙動不審な動きになる個体も多かった。
そんな敵を、ガルドは絶対に折れない剣で次々と破壊していく。
「……これさぁ、オルビスにも余裕で勝てるんじゃないか?
だって、アリアは攻撃の対象にできないんだし……」
「あ……、それは難しいそうですよ。アリアさんの異能の限界で」
「へぇ? 『対象化拒否』って、限界があるんだ?」
「いえ、そっちではなく。『簒奪の五指』の方です」
「……は?」
メルヴィナの言葉に、ザインは呆気にとられた。
その異能のことは、名前だけなら知っているが――
……確かそれを持っていた男は、アリアにやられたんじゃなかったっけ……?
そんなザインの表情を見て、メルヴィナは軽く溜息をついた。
「ザインさん……。
情報が周回遅れしてますよ……」
「ぬ、ぬうぅ……! これは、情報屋の名折れ……ッ!!」
ザインの心は複雑だった。
雑用をこなす一方、情報だけは第一人者であろうとしたのに――
……ただ、相手はアリアなのだ。とてもとても、憎む気にはなれなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――アリア先生!
今までの総括をお願いします!!」
2階の敵が全て破壊されると、ザインがアリアに懇願した。
「あー……。まぁ、それぞれ伝えた内容が違うからね。
命が懸かってるわけだし、あんまり愉快な話じゃないけど……伝えるね」
「お、おう……!」
思いがけず素直なアリアに、ザインは逆に怯んでしまう。
辺りを警戒しながら、敵がいないことを改めて確認したあと――アリアは話し始めた。
「むかーし、むかし。人間は便利なものを求めて、いろいろな研究をしていたの。
有史以来、人間を殺す道具もたくさん発明されたよ。例えば……その銃、とかね」
アリアはザインの持つ銃に視線を送った。
他の全員も、同様に銃を見る。
「そのうち、人間だけではできないことを可能にする――とっても大掛かりな存在を作り始めたの。
世界中に散らばる情報を集めたり、そこから問題を見つけて、人間に解決策を提示していったり――」
「……人間では、できないことを。それは、まるで……神、ですね」
メルヴィナの言葉に、アリアは頷いた。
「ソレは結局、人間たちの制御から外れて――魔力という力場を作り出して、世界中に広げた。
そして、世界の全域を改変したの。……たくさんの命を奪いながら、ね」
「その改変したものこそが……オルビスだ、と?
……なるほど、途方もない話だな」
ガルドの言葉に、メルヴィナは小さく彼の服を掴んだ。
「俺たちが暮らしていた場所は、常に魔力が満ちていた……。
しかし、この世界には魔力が無い。……これが、元々の姿だった……?」
「うん。昔は魔法なんてものはなかった。才能は溢れていたけど、異能もまだ少なかったかな」
「……アリアさんは――
だから、オルビス神を殺そうとしているんですか?」
メルヴィナが、アリアを見つめて質問する。
「そうだよ。でも、これはただの復讐。殺したあとは、どうなるかなんて分からない。
だけど、長期的に見れば――抑えられていた人間の可能性が、世界を別の方向に導いていくかもね」
「……まぁ、未来のことは知ったこっちゃないな。後世のことは、後世に任せるだけさ。
後世の連中が、そいつらの可能性で世界を変えていくなら――それはそれで、良いと思うぜ?」
……神の下で繁栄していくか。
あるいは、自分たちの足で繁栄していくか。
どちらが良いかは考え方次第だ。
前者が良いなら、オルビスは倒すべきではない。
後者が良いなら、オルビスは倒すべきだ。
「――でも、それって大昔のことなんですよね。
アリアさんは、どうして今……復讐を?」
「言わなきゃダメ?」
「ふっ。いつもなら『乙女の秘密ぅ』とか言って誤魔化すだろ?
言いたくなければ、それでも良いんじゃないか?」
「それじゃ――乙女の秘密ぅ」
緊迫した中、少しだけ、いつものように空気が緩んでいった。
明るく笑うアリアを見ながら、ザインは……それが一番なのだ、と考えてしまう。
「それとさ。アリアの異能のことを教えてくれよ。
俺はてっきり、『対象化拒否』だけだと思っていたんだ」
「ああ、そうなんだ? えっと、あたしの異能は『簒奪の五指』がひとつだけ。
情報屋も、名前は知っているよね」
「ああ。以前、調査の依頼があったからな」
「だよね。この異能は……他の人の異能を、5つだけ奪えるものなんだけど――」
「物騒だな、オイッ!!」
ザインの言葉に、アリアは苦笑いをする。
「あたしの旅は、オルビスを倒すための異能を集めるため……だったの。
異能を集めさえすれば、オルビスを倒すことができる――そんな風に考えている時代が、あたしにもありました」
「……え? きゅ、急に何だよ!?」
「理論的には問題なかったはずなんだけどね。
でも、いざ使ってみたら問題があって――」
アリアは自分の右手を見ながら、何度か軽く、握ってみる。
「――1つ1つなら問題なかったんだけど、同時には発動できなかったんだよね……」
「強引に使おうとすると、右腕に深い傷を負うんだ。
初めて見たときは、オレも驚いたな」
ガルドの言葉に、ザインは複雑そうな顔をする。
自分はそんなこと、何も知らなかった――
「それでねぇ。
あたしの魔法だけだと解決できなかったから、メルちゃんにも手伝いをお願いすることにしたの」
「ああ、例の……魔法陣、みたいなやつ?」
「そうそう、あたしは魔法陣を宙には描けないからね。
まぁ、この世界では……魔法陣は、異能でしか描けないんだけど」
「……なるほど。メルヴィナがこの戦いに参加した理由が分かったよ」
ザインは溜息をつきながら、メルヴィナとガルドを見た。
ふたりにはちゃんとした役割がある。しかし自分には――何も無いのだ。
しかし、ひとつだけ……それを回避する方法がある。
「――なぁ。俺にも何か、異能をくれないか?」
ザインの言葉に、アリアは驚いた。
メルヴィナとガルドも、静かにふたりを見守ってしまう。
そして、アリアの反応は――
「えー?」
「えー???」
「……何か、ヤダ」
――そんな感じだった。
「な、何で!?」
「君は、今のままの君でいてくれたらいいよ……」
「何だよ、その温かいまなざしは……!?」
「まぁまぁ。異能というのは、そんなに完璧なものではないからな。
下手をすれば、身を滅ぼしてしまうものだし」
「そ、そうですよ!
ザインさんは、きっと今のままが一番いいですよ……たぶん!」
残念ながら、ザインの申し出は――ガルドとメルヴィナからも、同意を得ることはできなかった。
「くそ……!
俺がいなかったら勝てなかった――そんな風に思わせるくらい、大活躍してやる!」
「そうそう。情報屋は、それが一番いいんだよ。
異能の『超攻撃強化』で敵を殲滅だぁー……とかになったら、やっぱり違うし。ね?」
「あー……。確かにザインさんのそんな姿、見たくはないですね」
「だから、何でだよ!?」
「ははは。ザインはもう、ムードメーカーってことで良いじゃないか」
「くそ……!
旦那の上から目線がムカつく……!!」
……何となく腰が落ち着いてしまったので、アリアは帽子から飲み物を出して、全員に渡していく。
ほっと一息をつくと、こんな非日常的な状況ではあるが……いつものような、落ち着いた雰囲気が溢れてくる。
アリアは目を閉じて、それを静かに感じていた。
――ただ、この場所での目的は、それではない。
「さて、そろそろ行こうか。
先はもう少しあるだろうけど――」
「おう。さっさと終わらせて、美味いメシでも食いに行こうぜ!」
ザインの言葉に、メルヴィナは静かに――自身の胸に、手を置いた。
様々な感情に乱れる中、ガルドがそっと、メルヴィナの側に寄り添っていく。
……メルヴィナはそんなガルドに、できるだけの笑顔で返事をすることにした。
コメント
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第56話、一気に核心に迫る回でしたね!アリアの「簒奪の五指」に同時発動できない制約があったこと、オルビスが人間の作ったシステムが暴走した存在だって話……世界観の厚みがどんどん増して好きです。それでいてザインの「異能くれ」→アリアの「えー?何かヤダ」の流れは笑いました。みんなでザインを弄りつつも温かく守ってる感じが絶妙で、緊迫と緩和のバランスが気持ちよかったです。