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緑茶は飲めないが紅茶は飲める
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第57話、読み終えました……! 螺旋階段にステンドグラス、一つひとつに刻まれた言葉がすごく印象的で、世界観に引き込まれました。特に「祈られるから神」っていうメルヴィナの考え、すごく深くて好きです。 アリアがメルヴィナの脚をマッサージしてあげるシーン、優しくてほっこりしました。ガルドに壁に押さえつけられるザインも笑えた(笑) 最後の「生きて帰ろうね」が胸に刺さります。みんな無事でいてほしい……!
巨大な建物の中には、数多くの部屋が存在した。
しかしどこにも人影はなく、機械の箱や板の一部が、点々と光を放つのみだった。
大きな階段を上っていくと、また次の階段が見える。
様々な機械の敵と戦い続けることしばらく――
……アリアたちは、静かな階に辿り着いた。
「――階段を上りきったら、次は……螺旋階段と来たもんだ」
「ずいぶんと雰囲気が変わるものだな。
上の方の様子は――上ってみないと、分からないか」
ザインとガルドが口々に言う。
そんな中、メルヴィナは近くの……光に満ちた、大きな窓に目を奪われている。
「……綺麗。
とても立派な、ステンドグラスがはめ込まれていますね」
メルヴィナの視線の先には、螺旋階段の始まりがあり――
そして少し上の壁面には、4メートルほどの巨大なステンドグラスが見えていた。
「これぞ宗教、って感じだな。何か文字が――
『Zealot』……と書かれているのか?」
「ふーむ? 意味は、『熱狂的な信徒』、あるいは『狂信者』……といったところかな?」
ザインの言う通り、ステンドグラスには、熱心に祈りを捧げる男の姿が描かれている。
ただ、何となく……不幸そうな、報われなさそうな雰囲気が漂っていた。
しかしそれすらも、どこか神秘的というか――
「美術鑑賞はあとにして、先に進むよ~」
「ああ、すまん。そうだな!」
塔の内部を、ぐるりとまわり続ける――
そんな構造の螺旋階段であるだけに、先の様子はまるで見えない。
そのため、先頭はアリアに、一番後ろはガルドに……並ぶ順番を変えていた。
……ザインとメルヴィナは、その間に挟まる形で、階段を上り続けている。
「2つ目のステンドグラスは……『Yielder』ですか。
これも、祈りを捧げているシーンですね……」
「『身を委ねる者』……って意味かな。
まぁ、神なんてものは祈られてなんぼだからな」
「……そうかもしれませんね」
ザインの言葉に、メルヴィナは考えさせられた。
『神だから祈られる』が正しいのか、『祈られるから神』が正しいのか……。
螺旋階段の幅は広く、大人が横にふたり並んでも、十分な広さがあった。
メルヴィナはザインの内側を上っていたが、何となく、前方のアリアに近付いていく。
「アリアさん。大丈夫ですか?」
「んー? 大丈夫だよ~♪」
いつものような、何とも無い言葉。
ただ、この言葉がメルヴィナを癒してくれる。
「――でも、こんなに長いと疲れちゃうね。まだまだありそうだし……」
「そうですね……。それにしても、ここは何も襲ってきませんね」
「この上には、オルビスがいるはずだからね。
本来であれば、ここまで来れる人間はいないはず――って、思ってるんじゃないかな?」
……そもそも、この世界に来ること自体が難しい。
今回はアリアに連れられて転移してきたものの、どういう方法を取ったのか、メルヴィナは何も知らない。
……それに加えて、ここは魔法の使えない世界。
そして、この建物を守っている、堅固で不可解な存在――
「……そうですね。
アリアさんがいなければ、そもそもここまで来れなかったでしょうし……」
世界中の有識者を集めても。
偉大なる魔法使いを集めても。
名を轟かせた英雄を集めても。
……多分、ここまで来ることはできない。
それこそ今後、何年も、何十年も、何百年だって、誰も来ることはできなかっただろう。
「まぁ、あたしだって――ついにようやく、って感じだけどね?」
「アリアさんがそう言うくらい、凄いことなんですね……」
「あはは、そうかもねぇ。
……ところで、そろそろ疲れない? 少し休む?」
「いえ、まだまだ……大丈夫です!」
「メルちゃんが一番、体力が可愛いからね~。はい、飴玉あげる♪」
「こんなときまで、何ですか……。頂きますけど」
メルヴィナはアリアから飴玉を受け取り、そっと口に入れた。
包み紙は、自身の服のポケットに畳んで入れる。
「ふふふ。ゴミを捨てないで、偉いね~」
「人としての嗜みですよ……!」
そんなやり取りを和やかにしていると、下の方からザインの声が聞こえてきた。
「おーい、そろそろ休まない?」
「ふふ、だらしないね♪」
「ああ見えて、みなさんの疲れを気にしているんですよ」
「……そうなんだよねぇ」
アリアは少し頬を緩ませながら、そのまま足を止めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アリアたちは螺旋階段の途中で休憩を取ることにした。
上からも下からも、特に何の気配もしてこない。
……ただ、オルビスはアリアたちのことを既に捕捉しているだろう。
そのため、悠長には休むことができない――
「……とは言っても、戦う前から疲れていても仕方が無いだろう。
時間を決めて、確実に休もうぜ?」
「うーん、10分くらいなら大丈夫かな? メルちゃんも、それで良い?」
「はい、何とか……!」
「疲れただろうから、マッサージしてあげようか?」
「いえ、そんな――きゃぁ!?」
アリアはメルヴィナの体勢を上手く変えて、目の前に脚がくるように動かした。
そのままアリアは、メルヴィナの脚をほぐしていく。
「男性諸君は、目を逸らしておいてねー」
「ザイン、絶対に見るんじゃないぞ」
「いや、脚なんか少しくらい見たって――ほげぇ!?」
ザインはガルドに、壁に押し付けられた。
圧倒的な腕力により、ザインは動くことができない。
「わわわ、分かったって! 絶対に見ないから!!」
「うむ、分かれば良いんだ」
「……ったく。
旦那もふたりには甘いんだよなぁ……」
「ザインも甘くして欲しいのか?」
「気色悪いわッ!!」
軽く笑うガルドを横に、ザインは目のやり場を探した。
……ちょうど、ステンドグラスが外からの光で美しく輝いている。
「『Noble』――
……『高貴なる者』、か」
ステンドグラスはやはり4メートルほどの巨大なもので、そこには光を纏う女性が描かれていた。
その名の通り、高貴なる者としてしか見えないが――そんな前で、うちの女性陣はマッサージをしている。
……ザインは何となく、場違いなものを感じていた。
「――はい、マッサージ終了! 調子はどう?」
「ありがとうございます、脚が軽くなりました……!」
「それは何より。この螺旋階段は、たぶんまだ半分くらいだからね~」
「……う。す、少し不安かも……?」
「うーん、それじゃどうしようか。ガルドさんに、背負ってもらう?」
アリアの提案に、メルヴィナは頬を赤らめた。
「お嬢さんくらいなら、オレは大丈夫ですよ」
「情報屋が運ぶには、脚力が足りないだろうからねぇ」
「さすがに、この長さの階段はなぁ……。
でも、旦那の背中にいると……後ろから奇襲されたら、不味くない?」
「それじゃ、情報屋が一番最後になる?」
「おう、やったらぁ!!」
ザインは勢いで承諾した。
本当に敵が襲ってきたら――少しだけ、手持ちの銃で時間を稼げばいいだけだ。
恐らく、そこまで難しい話でもない。
「メルちゃんとガルドさんも、それで良いかな?」
「ああ、問題ない。
ただ、直接背負うよりも――ザインを入れていた木箱を、活用した方が良いかもな」
「あ、そうですね。それじゃ、改造しちゃいますか」
アリアは帽子に入れていた木箱を出して、ちゃちゃっと改造を行った。
何で杖だけでそういうことが出来るのかはよく分からなかったが、アリアならこれくらいは出来るのだろう。
ここに来て、そんな野暮なツッコミをする人間は誰もいなかった。
「紐で縛ると咄嗟に動けなくなるので、お嬢さんはここの取っ手を掴んでいてください」
「うん、分かった。
……それではお待たせしました。先に進みましょう」
ガルドの背中には椅子のようなものが出来上がり、メルヴィナがそこに座ると、彼女は後ろ向きの状態になった。
ガルドとメルヴィナが背中を合わせる形で話しているのを見つつ、ザインは螺旋階段の下に注意を払いながら、ステンドグラスを目で追うことにする。
『Herald』は……『告げる者』。
『Gifter』は……『与える者』。
それぞれが荘厳に美しく、最初の頃のステンドグラスよりも格が上に見える。
それにしても、頭文字だけを見ると――
……アルファベットの逆順になっているな。ザインはそう思った。
「なぁ、メルヴィナ。
オルビス教は、序列みたいなものはあるの? 所属する局とか、そういうの以外で」
「職位のことですか? オルビス教の教義の中には――
『十八の秩序は、神の愛が届く階梯である』……というのがありますね。
だから、職位を名前に入れられるのは、とても名誉なことなんですよ」
「ふぅん……。オルビスは愛の神なのに、愛を届けるのは限定的なんだなぁ……」
「むぅ」
ザインの言葉に、メルヴィナは少し拗ねた。
大聖堂を捨てたとは言っても、信仰自体は捨てていないのだ。
引き続き、ザインはステンドグラスを追っていく――
『Controller』は……『制御する者』。
『Balancer』は……『調停者』。
『Admin』は――……『管理者』。
『Admin』のステンドグラスの前で、アリアは足を止めた。
「仰々しく言ってるけど、こんなのはただの言葉遊びだよ。
何の意味も持たないって」
「そうか……? いやまぁ、そう言われれば……。
まぁ、そうなのかなぁ……」
アリアはガルドに視線を送ると、彼はメルヴィナを背中から下ろした。
木箱を改造して作った椅子を帽子に戻して――……携行食を出して、全員に配る。
「エネルギー補給ぅ」
「お嬢さんも、食欲は無いかもしれませんが……食べましょう」
「うん。しっかり、食べないとね……」
メルヴィナは少しずつ、何とか食べ進める。
反面、ザインとガルドはあっさりと食べ終わっていた。
――その後、全員の足は自然と上に向かった。
螺旋階段を全て上りきったとき、そこは巨大な建物の屋上だった。
中心には円状の紋様が刻まれており、どことなくこの世界の入口――アルパセルの門を彷彿とさせる。
地平線はどこまでも続くが、どこまで行っても何も見えない。
空には薄っすらとした……大きな月のようなものが見えるが、あれは果たして本物なのだろうか……。
「……さて。ここまで来たね。
ここまで一緒に来てくれて、ありがとね」
「お礼なんてまだ早いぞ! まぁ、全部終わったら焼き肉でも奢ってくれよ!」
「ザインさんって、安い男……」
「お嬢さん……。それは少し、意味が違いますよ」
「そうそう、俺は『安上がりな男』なんだ!」
「あはは♪ 自分で言う~?」
アリアはそう笑ってから、顔を正して続けた。
「――それじゃ、行くよ。
みんな……、生きて帰ろうね」
アリアの言葉に、全員が頷いた。
そして円状の紋様の中心から――……全員の姿は、光と共に消えていった。