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視力は、少しずつ戻っているはずだった。医師は「安静にすれば問題ない」と言った。
でも。
焦りは消えない。
日向は夜、こっそり走っていた。
部活禁止期間。
それでも走る。
走らないと。
止まったら、本当に終わる気がして。
呼吸が荒くなる。
視界がまた揺れる。
「まだ……いける」
無理している自覚はある。
でも止まれない。
止まったら、みんなに追いつけなくなる。
影山のトスは進化している。
周りも伸びている。
自分だけ、止まっている気がして。
ある夜。
横断歩道。
信号は青。
でも、滲んで見える。
遠くのライトが二重に揺れる。
一瞬、足が止まる。
クラクション。
光。
衝撃。
世界が反転する。
音が遠くなる。
冷たいアスファルト。
「……あれ」
立てない。
息が浅い。
空が、暗い。
“太陽は沈んだら戻るよな”。
あの日の言葉がよぎる。
でも。
身体が動かない。
病院。
集中治療室。
機械の音。
澤村は無言で立っている。
影山は壁を殴った。
「なんでだよ」
低く、震える声。
誰も答えない。
日向は意識が戻らない。
事故。
過労。
夜間の視覚障害。
全部が重なった。
「俺が気づいてた」
影山の声。
「ズレてんの、分かってた」
拳が震える。
「止めればよかった」
澤村は静かに言う。
「責めるな」
でも。
空気は重い。
重すぎる。
数日後。
一瞬だけ、目を開ける。
ぼやけた視界。
天井。
そして。
ぼやけた影。
「……かげ、やま?」
声はかすれている。
影山が息を飲む。
「しゃべんな」
でも日向は笑う。
弱い笑顔。
「俺さ」
呼吸が浅い。
「置いてかれなかった?」
影山の目が揺れる。
「バカ」
声が詰まる。
「勝手に走ってんじゃねぇよ」
日向は少しだけ目を閉じる。
「俺、太陽みたいだった?」
唐突な問い。
影山は答えない。
答えられない。
その代わり。
「……俺のトス、まだ残ってる」
それが精一杯。
日向の唇が、ほんの少し上がる。
「そっか」
機械の音が、不規則になる。
澤村が医師を呼ぶ。
足音。
叫び声。
でも。
日向は、静かだった。
まるで夕焼けみたいに。
派手じゃなく。
音もなく。
沈んだ。
数ヶ月後。
春高。
コートの上。
影山のトスが上がる。
速い。
鋭い。
高い。
スパイカーが決める。
歓声。
その瞬間。
観客席の窓から、光が差し込む。
まぶしいほどの光。
澤村は小さく呟く。
「見てるか」
影山は、空を見ない。
前だけを見る。
でも。
トスは、ほんの少しだけ高くなる。
あの日と同じ高さに。
“太陽が落ちた日”。
でも。
残った光は、消えなかった。