世には産まれながらにして、全てを持つ人間と何も持たない人間の2つに分かれる
全てを持つ人間は、何も持たない人間の事がわからない
なぜ持たないのか、なぜ持てないのか
奴らはまるで、俺らが故意に手を離していると勘違いしている
だから嫌いなのだ
理解しない人間は、理解しようともしない人間は
自分の世界が主であると信じてやまない
故に目を閉じる
全てを拒むよう
目が痛くならないよう
喉の奥から競り上がるソレを吐いてしまわぬよう
音を立てぬよう、気づかれぬように、そっと
目が覚める時、決まって地響きのような音が鼓膜に響く
皿の割れる音
棚が倒れる音
そして紛れる様に聞こえる母の劈く泣き声と父の地を這う怒声
慣れたソレらを遠ざけるように布団に包まり外の世界を遮断する
子供ながらに、あまりよくない家庭に産まれたのだと理解したのは幾分か前の話である
母が嫌いだ
いつも背を丸めながら、手で顔を覆い泣いている
俺はその姿を惨めだと思うし、哀れだとも思う
前に一度だけ、蹲る母の背にそっと手を添えたことがある
枯れ果てた泣き声に、少しでも慰めになればいいと思った
だがしかし、母は俺に慰めなど求めていなかったらしい
添えた手は振り払われ、伸びた手に首を締め付けられながら言われた言葉が脳裏を掠める
『あんたが産まれなきゃこんなことにならなかったのに』
それから母が嫌いだ
未だ残る首に巻き付く手の跡に、そっと手を這わす
でも、父はもっと嫌いだ
ヤツは常にアルコールの匂いを身に纏わせている
口を開けば如何に己が優れた人間か
誰のおかげで飯が食えているのか
そんな戯言ばかりが永遠と話し続けるのだ
いつもは家にいないくせに、今日の様にふらっと帰ってきては母を怒鳴り、思うままに暴力を振るう
だからか、母の顔はヤツに殴られまくったせいか常に痣だらけだ
顔のみならず、手や足
身体の至る所に跡がある
母だけでなく、その被害は俺にも及ぶ
昨夜殴られた腹がずきりと痛み、思わず目頭が引き攣った
服の下は暴挙の跡が至る所に散らばっていて、跡がない方を見つけるのが難しいくらいだ
尚も収まることのない轟音に、耳に手を当てぎゅう、っと力を込める
(早く、こんな家出ていきたい)
出て行った所で行く当てもない
しかし、こんな家で野垂れ死ぬよりかは何倍もマシである
ジリリ、ジリリ
無機質な音が手の平を通り越して鼓膜を揺らす
あぁ、憂鬱な朝の始まりだ
コメント
2件
すごい好きです!! ストーリーが最高です!