バレぬよう、静かに階段を降りる
軽い鞄を背負いながら、焦る気持ちをなんとか抑えながらサノスはドアノブに手を伸ばした
父と母は未だに止まぬ口論を繰り広げているらしい
幸い、激しい物音がサノスの出す微かな生活音を隠してくれているようだ
2人が気付かない内に、早く行こう
ドアノブを掴む手に力を込め、外へと足を踏み出した
賑わう通学路をなるべく足早に通り過ぎながら、昇降口をくぐり抜ける
数多あるロッカーの中、サノスの番号が記されたロッカーの前に立つ
早く、上履きに履き替えよう
少し硬いロッカーを力一杯に引っ張る
大きい音を立てて開くロッカーの中に広がった光景に、上がっていた肩がかゆっくりと下がった
くすくす
ひそひそ
どこからともなく聞こえてくる笑い声
きっと俺のことだと考える意識はどこか遠い
「お前邪魔だよ!」
ドンっと背を押され、力が抜けていた足元が思わずふらつく
ギャハハ!と品の無い笑い声は遠のき、それに覆い被さるように予鈴が校内に響き渡る
重い手足をなんとか動かし、上靴に手を伸ばした
開いたままの教室のドアを通り抜ける
サノスが入ったのを合図に、先程まで会話で溢れていた教室はシンっと静まり返った
それに素知らぬふりをしながら、自分の席へと腰を下ろす
くすくす
やめなよ
だってだって
「ねぇねぇ、みてみて、サノスの上履き」
「うわ、きたなー…」
「ほら、よく見たら″バカ″ってかいてあるよ」
後ろから聞こえる会話に、思わず足を隠すように組み直す
それすらもあいつらからしたら笑いの一部に成り果てるようで、教室から聞こえる笑い声は更に大きくなる
落書きされた机
ゴミで沢山の引き出し
破り捨てられた教科書
サノスがこの学校で過ごす内に、見慣れてしまった景色である
「お前ら、席につけー」
ガラガラと戸を引く音共に、若い男が入ってくる
発された声に盛り上がりを見せていた面々は弾くように散っていく
学校の始まりを知らせる鐘が鳴る
先程まで騒がしかった教室は、今では鐘の音のみが響き渡っていた
コメント
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え、最高ありがとう