2025.1.14
スマイルを拾ってからひと月ほど経ち、夜空には綺麗な満月が昇っていた。
誰にも見せたくなかったが、可愛いスマイルをどうしても誰かに自慢したくて、高校から付き合いのあった友人達を家に呼んだ。
もちろん、初めは彼らも狼に緊張していたが、俺が撫でても目を細めるだけの彼や傷跡ひとつない俺の手をみて次第に緊張はほぐれていった。
その日はボードゲームをして夕飯をご馳走した。
どうやらあいつらもそれぞれ、猫とウサギを飼い始めたらしく、いつか三匹を会わせてみようかと次に会う約束をして解散した。
「……ねぇきりやん、俺といるよりあいつらといる方が楽しい?」
「そーゆーわけじゃねぇよ、俺の可愛いスマイルをみんなに自慢したかっただけ。スマイルのことが誰よりも好きだよ。」
人が少なくなった部屋に声が響く。
ん?
あれ?いま、俺は誰と会話した??
俺とスマイルの一人と一匹暮らし。
テレビもゲームもつけていない。
あいつらは全員帰った。
俺以外に声を出せるのはスマイルだけだ。
そんなことあり得るのか??
ゆっくりと声がした方向を、先ほどまでスマイルがふて寝していたソファに目を向ける。
「……なに?」
我が物顔でブランケットを被り、ソファの上で寝転んでいる青年がいた。
ところどころ跳ねており、光の反射で紫に輝く綺麗な黒髪。
こちらの心を見透かすような紫水晶を宿した瞳。
誰が見ても美しいという整った顔。
その澄ました顔の上、人間のものとは違う大きな耳。
腰付近にある謎の膨らみ。
間違いない、この青年はスマイルだ。
「いや、声も俺好みでびっくりしてる。」
俺より10歳くらい下だろうか。人間の姿をしたスマイルは中高生くらいにみえる。
慣れておらず話しにくいのか少し舌足らずの低く落ち着いた声をしていた。
「ふーん。で、驚かないんだ。」
「うん、まぁ……なんか日頃から本当に狼なんかなって思ってたし」
なにかに喜んでいるらしく、腰の膨らみが左右に揺れる。スマイルはなんとも思っていないような澄まし顔なため、どうやら制御はできないらしい。
「……てか服は?」
「着てないけど。」
「はぁ!?!なんで!?着ろよ!!」
「いや、着ないだろ。」
流石に目に毒なので俺でもオーバーサイズのTシャツを投げつける。スマイルが着れば太ももくらいまでは隠れるだろう。
「……はやくそれ着ろ//」
不満げな顔をして俺の匂いがするなどと言いながらもそもそと着替える。
好みの子が目の前で全裸なのに頑張って耐えた俺をこれ以上煽らないでほしい。
聞きたいことはたくさんあったが一番知りたかったことを問えば、どうやら産まれてから一年後、一歳の誕生日を迎えたあとの満月から人間になることができるようになるらしい。
「やっぱ美形だな、スマイル」
「普通だろ。」
いつもの癖で頭を撫でて、尻尾の付け根を軽く叩く。
「なに……ぉあ”っ♡」
スマイルの艶やかな声に勢いよく手を上げる。
先程教わった猫が好きなことをやってみたらどうなるのか気になって、そちらに手を向けたのが良くなかった。
自分の声に困惑しているのか、赤面して耳をへたらせ、俺を見上げる。
本当にこれ以上は理性が持たない。
「あー、人が来て疲れたでしょ……もう寝ようか。」
スマイルは静かに頷いた。
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