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2025.2.21
青視点
ショーケースから外を眺める。
人が通り過ぎてゆく。
誰も俺のことなんてみない。
あと数日の命。
その日、ガラス越しに澱んだ青をみた。
それが確かにこの漆黒を貫いた。
「あのっ、すみません!!」
「きんさぁーん……もーどうしよぉ…」
今日もコイツはめそめそと弱音を吐く。
ここにきて2か月、いつもこうだ。
どうやら仕事が上手くいっていないらしく、言葉の通り、猫の手を借りたいのだろう。
残念ながら俺にもどうしようもない。
「もぉ作業終わらせて寝たーい!!」
「ナァオ……ンナオ…」
最近寝てないじゃん。
頑張りすぎだって、少し休もうよ。
「っそうだよね…もっと頑張らなきゃ…」
違う、そんなこと言ってない。
もう十分すぎるほど頑張ってるって。
なんで伝えられないんだよ。
「……ンニャォ」
もう寝よ?
「うん、仕事…しなきゃね。」
そうしてまた彼は液晶と向き合う。
頼むからもう休んでくれよ。
机の上は大事なものばかりだから、膝の上へ飛び乗る。ここに迎え入れられて、初めて俺から彼に近付いた。
ほら、特別に触らせてあげるから。
もう作業できないでしょ。
今日は一緒に寝てあげるから。
「どしたの、きんさん……もうちょっと、もうちょっとだから待ってて。」
そっと頭に手を乗せたかと思ったらすぐにキーボードへと戻す。
声帯があれば慰められるのに。
腕があれば抱きしめられるのに。
指があれば手伝ってあげられるのに。
俺が人間だったらよかったのに。
赤視点
柔らかい陽射しで目を覚ます。
ふかふかなベッドの上。
椅子の上で寝落ちしてしまったと思ったが、どうやら昨日の僕は優秀だったらしい。
ぽすぽすと横腹あたりの温もりを探すがもう起きてどこかへ行ってしまっているみたい。
きんさんにご飯あげなきゃ。
ベッドから起き上がり、扉に手をかけるとぱちぱちと音がしていることに気づく。
ベーコンの焼けるいい匂いがする。
家に誰か呼んだっけ?
いつも鍵を閉めていないと知っている友人の誰かが来ているのだろうか。流石にアポなしでくるような人たちじゃないけど、前に予定してたのかな。
まぁリビングに繋がるこの扉を開ければ分かることだ。
「おはよぉ、だれがいるの〜?」
「……おはよ、ぶるっく」
「んえぇ!?だ、誰!?!」
我が物顔でキッチンに立っていたのは見知らぬ青年。
高校生くらいに見えるが、童顔っぽいから実は二十歳くらいかもしれない。
青みがかったストレートの黒髪。
僕と同じ高校のジャージ。
首元の赤いリボンは、きんときにあげたモノとよく似ている。
顔は…ちょっと……まぁ、結構好み。
そして頭にあったのは猫耳。
きんときと同じで片耳が折れている。
「…きんさん……だったり、する?」
「さぁ?だったりするかもね。」
人に媚びを売らないツンとした態度に、姿は違えどきんときが重なる。
どうやら神様が願いを叶えてくれたらしい。
僕の可愛い黒猫ちゃんとほのぼの生活は、突然理性を試される生活になった。