一週間前…隕石の接近で、政府から地球の滅亡が発表された。
予定では今日が地球最後の日。
テレビでは、たまにニュースが流れて後は延々と社会法人のCM。全世界がパニックの中、俺は一人…アパートの一室で寝転んでいた。
三十歳独身の一人暮らし。実家には兄夫婦がいるし…特に帰らなくても大丈夫だろう。恋人もいない。友達も皆、大切な人と過ごしている。
つまり…俺は地球最後の日に本当に一人だ。
「あーぁ…何か食おうかなぁ」
と独り言を呟いてみたが、外は荒れ放題…。開いてる店なんて無いだろうし、冷蔵庫も空っぽ。あ…カップラーメンがあったかも。最後の晩餐がカップラーメンか…。なんて思っていたら
インターフォンが鳴った。
誰だ?地球最後の日に、俺に会いに来る奴なんて居るのか?不思議に思いながら、玄関を開けて…驚いた。
「え?…お隣さん?」
「こんばんわ〜あの…今、大丈夫かな?」
そこに居たのは、隣に住むおじさんだった。年齢は五十代くらいだろうか。挨拶程度しか話した事はない。それが何故…?
「いや〜君が居て良かったよ!ちょっと上がらせてもらうよ」
「えぇ!おじさん!?」
おじさんは半ば強引に部屋に入ってきた。温和そうな顔して…まさか強盗!?焦る俺を他所に、おじさんは俺の部屋のテーブルに、小さなタッパーを置いた。
「…お弁当?」
「はい!おすそ分け!」
意味が分からず、自然と眉が寄る。小さなタッパーの中に可愛らしくて、美味しそうな料理。直視した途端に『ぐぅ〜』と腹の音が鳴った。
「お腹が空いてるのかい?良かったら食べて!」
「あの…なんで?」
「このアパート…もう私と君しか住人が居ないから」
「…皆さん、地元に帰られたみたいですね」
「うん。だから君に食べて貰いたくて」
「なんで!?」
噛み合わない会話に俺が声を荒げると、おじさんは、少しだけ顔を伏せて話しはじめる…
「実は…地球が滅亡すると発表があった日から私…料理人を目指そうと思ってね」
「何で?」
「元々、夢だったから。でも、叶えるなら今かな?って」
「いや、今では無いですよね?」
ツッコミ所が多すぎる話しに、目が回りそうだ。そんな俺を見たおじさんは、首を横に振る。
「私は本当にモテなくて…四十八歳の時にフィリピンパブで知り合ったコンパニオンと結婚。そこからパチンコにハマり…妻には一年で逃げられ…それから競馬にハマってね。借金だらけだよ。そんな時に…地球が滅亡…諦めていた夢を叶えたい…それが今だった」
「…おじさん」
稀に見るクズだ。
しかし…何故だろう。応援したくなる。おじさん…俺…
「いただきます」
「!?」
俺の言葉に、おじさんはハッと顔を上げて目を輝かせた。憎めない。俺はタッパーの中に入っていた唐揚げを摘んで、口に入れた。舌の上に広がる…これは…
「!?」
「どうだい!?美味しい!?」
「まずい!!」
「何!?」
衣はベトベトだし半生の肉!不味すぎる!!他のおかずは…
「ん!?」
「た、卵焼きは美味しいかい?」
「味がしない!」
「おにぎりは?」
「米が硬いです!」
結果、全部まずい!何だこの弁当は… 逆にこんな奇跡があるのか?
「…そうか…ごめんよ」
シュンとするおじさん…あんた、料理は向いてないよ。…でも
「感動しました」
「え?」
「何歳になっても…地球が滅亡しても…諦めない心に感動しました」
「…君」
「最後の晩餐が、この弁当で良かったです」
「…!!」
本音だった。最後の晩餐がカップラーメンじゃなくて良かった。おじさんが頑張って作ったお弁当。不味いけれど…心はとても温かくなった。
「おじさん…ありがとうございます。俺、優しい気持ちを思い出しました」
「…私の方こそ…食べてくれて、本当に嬉しいよ。ありがとう…」
俺とおじさんは、見つめ合って微笑んだ。地球最後の日を、こんなに穏やかな感情で迎える事が出来るなんて…俺は幸せ者かもしれない。
急なニュース速報に、俺もおじさんも固まった。回避された?隕石が?って事は…
「地球…滅亡しないみたいですね」
「あぁ…うん」
「…」
「…」
「…帰ってもらって良いですか?」
「あ、はい」
コメント
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タイトル使っていただきありがとうございました!!✨ あったかいお話からの隕石回避からの「…帰ってもらっていいですか?」がテンポ良すぎて笑ってしまいましたwww
美味しそうなお弁当なのに全部不味いなんて……。おじさん、ある意味凄いですね……😂😂 地球滅亡回避されて良かったですけど、お隣さんであるおじさんと2人っきりは気まずい、ですね……💦 凄く面白かったです😂
稀に見るクズ、で笑ってしまいました(笑)面白かったです!