「メグ、僕帰るよ」
僕は笑顔でそう言った。
「もう帰るのか、、早いな、」
メグはどこかか寂しそうな顔をした。
「来年の夏は俺から会いに行く」
「そっか、会えるといいな」
「、、?」
来年の夏、。僕は既にこの世を去っているだろう。、、メグと会うのはこれで最後か。
夏祭りの後、僕がメグによそよそしくなったとかでメグに問い詰められたり(適当に誤魔化した)お喋りしたり(それ以外にする事がほぼ無い)コウにディスられたり、祖父母に可愛がられたりして、時間は過ぎて行った。
「ゆきっ!?」
僕はメグに抱きついた。
メグは驚いたようだが、すぐにぎゅっと抱き返してくれた。
「、ふふ」
メグは緊張しているようで、なんだか面白かった。
僕からメグに触れるのは初めてだった。
「、、帰らないでくれとは言わない。だが、ずっと此処に、俺の傍に居て欲しい」
突然、メグがそう言った。
「ごめん、」
僕にはどうする事もできないんだ。
「会うと言っただろう、、約束してはくれないか?」
「……」
守れない約束。僕にはそんな事できない。
「、、ごめん」
「何故、」
「…守れないから」
「だから、何故だ」
僕は首を振った。
「…言いたくないのならいい、」
メグは何も言わない僕に、失望しただろうか。
また、胸の奥が痛む気がした。
僕は意を決っし、メグから離れ
「メグ、さようなら。あと、ありがとう」
できる限りの笑顔でそう言った。
記憶に残るのなら、笑顔の方がいいだろう。
僕はそのままメグに背を向けた。
「ゆき、」
背後から僕を呼ぶ声が聞こえた。
僕は今どんな顔をしているだろうか。もう、振り返ることはできない。
僕は新幹線の窓の外を、ぼーっと見つめていた。外は、雨が降っていた。
僕はメグと別れたあと、祖父母にもお別れを言った。祖父母は、笑顔で見送ってくれた。コウは相変わらず最後までトゲトゲしていた。
それとは裏腹に、余命の事を知ってしまったら、彼らはどんな顔をするんだろう。なんて事を考えていた。
一緒に過ごした時間は1ヶ月ちょっとだ。だから、彼らと僕はそんなに深い関係でもないはずだ。
でも、おじいちゃんとおばあちゃんは僕の事を本当の孫のように可愛いがってくれた。祖父母とは、こんな存在だと知ることができた。嬉しかった。
……。
僕は雨が嫌いだった。雨が降ると、あの日を思い出すから。雨の冷たさが、体温を失った体の冷たさを思出させるから。でも、今はそれが無くなった。雨も嫌いじゃないと思えるようになれた。
それは、メグが、雨が好きだと言ったからだ。メグは僕に教えてくれた。雨は大切なんだって。メグと初めてあった日も急に雨が降りだした。するとメグは僕の手を取って走り出した。楽しそうに、笑いながら。「雨は、神様からの恵みなんだ。うちの神社でも昔は雨乞いが行われていたんだ。だから、こうやって雨が降るとご先祖さまの願いが叶ったようで嬉しいと思うんだ。まあ、そのご先祖さまはとっくの昔にお陀仏したが」その話を聞いて、必死に雨乞いをする姿が浮かんだ。それがなんだかおかしくて、僕は笑った。
雨は降るものだし、雨が好きな人も居る、そうだと思えるようになってからは、雨が嫌いではなくなった。
メグは僕を雨から救ってくれた。ハルとの記憶を、メグが上書きした。だから僕は、ハルの事を心の奥にしまう事ができたのだろう。
いつの間にか、忘れていた。でも、余命半年と告げられ、心の奥底の蓋が開き、閉まってた記憶が溢れた。でも僕はそのお陰で、自分の心を知ることができた。解りたかったんだと。
8月が過ぎると、余命は半分になってしまう。
残り、3ヶ月だ。
僕との別れを惜しむ人がいる事に、気づいてしまった。
ーー静かに死ねたら、ハッピーエンドと言えるだろうか。
それは確かな疑問となり、僕の心に渦巻くようになった。
コメント
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遅くなりました!!夏休み編はお終いです!