「……そこで、公式を……」
黒板をチョークで叩く音と先生の声、ノートを取る音が、静かな教室に溢れていた。
僕は窓の外を見つめていた。
ーーどうせ勉強してたって意味が無い。
勉強は将来への投資だと聞くが、その将来がない僕にとっては、マイナスしかない。
が、
「おい、何回目だ」
声がした方を見るとやはり先生、木村が僕のすぐ目の前に立っていた。
「ノートも取ってないみたいだな」
「……」
木村は僕の真っ白なノートを見た。パラパラとページをめくる。
僕は木村からさり気なく目を逸らした。
やばい。6月からまともにノートを取った事が無かった。あるのはちょっとした落書きくらいだ。
「プ」
ノートを見ていた先生が吹き出した。ノートを見ると、僕の落書きがあった。
「ww、、なんだこの生き物」
「ねこですけど」
「ねこ?これが?」
「っ別にいいじゃないですか!というか勝手に見ないでください!!あ!」
先生は僕のノートを上に掲げた。
「うぅ、、」
僕は自分の机に突っ伏して唸っていた。
「ゆき、結局何だったんだ?あの絵」
「ねこ、」
「え、、ねこか」
そんなに分からない?僕は自分描いた猫の絵を見た。
「……」
静かにノート閉じる。これは黒歴史だ。
「、、皆に笑われたし、。、、酷い」
「半分、自業自得だろ」
そう言った京介は笑っていた。
木村への怒りより、恥ずかしさが勝っていた。
「まあでも俺木村は嫌いだな」
そういえば、前喧嘩しそうになってたっけ。
あれは何でああなったのかは謎だ。事がある前に僕が倒れたから場は収まったらしいが。
何故、倒れたのか。先生と京介には心配されたし理由を聞かれた。僕はそれを必死に誤魔化した。納得してくれたかは分からないけど。
「ゆきは先生の事どう思ってんの?」
不意にそんな事を聞かれた。
「え、どう思ってるって、、」
分からない。僕はどう思っているのだろう。
「じゃあ、好きか嫌いかで」
「嫌いではないけど、、別に好きって程でもないな」
嫌いとは言えなかった。屋上での事もあるし、先生は悪い人じゃないし。
「そうか」
「京介は嫌いなんだっけ。なんで?」
僕がそう言うと、京介は僕の顔を見た。
「害虫みたいなもんだから」
「え、?害虫?」
「ゆきも虫は嫌いだろ。イタズラで虫くっつけられて泣いてたからな」
「は、いつの話してるんだよ!!今だったら絶対泣かないし!」
小さい頃の僕は少々泣き虫だったかもしれないが、今はそんな事はない。はずだ。
「悪い。ちょっと言ってみただけだ」
「……」
僕はそっぽを向いた。、、めっちゃ笑ってる。
「わっ」
「俺も仲間に入れてー」
蓮が後ろから抱きついて来た。
「蓮、お前懲りないな、、」
京介は呆れたように言った。
「まあね」
京介と蓮はいつの間にか仲直りしているようだった。
「ゆきは嫌じゃないのか?こんな奴にくっつかれて」
京介は蓮に視線落としながら言った。
「うわひど」
「、嫌だけど」
「え、ゆきが嫌って言うの初めて聞いた。これはこれで逆に、、痛っ」
僕は咄嗟に蓮の足を蹴った。
文化祭。夏休みが終われば、すぐに文化祭の準備が行われる。このクラスではおしゃれな喫茶店、という事になった。女子はメイドとかなんとか言っていたが。
皆、慌ただしく準備に取り掛かっていた。意外にも蓮が真面目に看板を作っていた。
京介も何かを作っている。
僕はというと、ただ立ってそれらを見ていた。最初は、飾りの手伝いだったが、僕には無理だった(センスの皆無)。お客さんに出すドリンクの開発も、僕はまず料理ができない。裁縫も手が血だらけになる。
、、ものを作るのは苦手だ。
暇だな、。
「及川、暇ならこっちを手伝え」
そんな事を考えていると、木村に声をかけられた。
「はい」
僕は木村について行った。
「これで一通り終わったな。ホレ」
「わっ」
木村が投げた缶をキャッチしようとしたが、失敗した。
「あ」
カコンッ カラカラカラ
缶が音をたて転がっていく。僕はそれを追いかけた。その拍子に何かにつまづく。
「お前ドジか。すまん、手渡しすれば良かったな」
先生のお陰で転ぶ事はなかった。
「……」
また恥をかいてしまった。先生の前では恥をかくばかりだ。
先生の笑い声が聞こえる。
「やっぱお前面白いな。及川、どうせ戻ってもする事ないだろ」
「そうですけど、」
「なら、先生と少し遊ばないか?」
先生はそう言い、ニコッとした。
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