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「…うっ……」
眩しい朝日のおかげで穏やかに目が覚めた。昨夜もぐっすり眠り、義勇は着実に身体が回復していることが分かった。
「冨岡様、おはようございます…。ただ今、朝食を御用意させて頂きます…」
「ありがとう…」
すぐに家の者がやってきて、朝食を用意してくれる。
義勇は、実弥を思い出す。
(もう、不死川は帰ってしまうのだろうか。挨拶だけでも…)
義勇は布団から立ち上がり、身支度を素早く済ませる。顔を洗い、髪を束ねる。その後玄関に向かう。
「…!」
玄関には、草履がふたつあった。
(まだ不死川は帰ってなさそうだ。…それにしても、不死川は、存外足が大きいのだな…。俺よりも一回り大きい )
横に並んだ草履をじっと見つめ、自分の草履と大きさを比べる。そんな時―。
「よォ」
「し、不死川…!」
後ろから予兆もなく声を掛けられ、義勇は振り返る。
「不死川、調子はどうだ…?」
「まァ、見ての通り元気だけどよ」
またしても実弥は、屈んでいた義勇の隣を座る。
実弥の匂いが、ふわっと風に乗って義勇に香る。
「もう朝食の時間だろォ。食わねぇと、良くならねェぞ」
「そうだな、すまない」
「…ずっと玄関に屈んで、何してんだァ」
「不死川は、もう帰ったのかと思い、確認した。しかし草履はふたつあったから、まだこの家に居るんだと思っていたんだ…」
さらに義勇は続ける。
「それで不死川は、存外足が大きいと気付いて…。俺より上背もあるし…」
嬉しそうに伝える義勇を、実弥は見つめた。そして、義勇の片手を取り、そっと重ねる。
「手も、俺の方が大きいじゃねェか…。さほど身長に大差があるわけでもねぇのに」
義勇は、実弥と手を合わせている事実がすぐに受け入れられなかった。実弥の、血の滲むような鍛錬の結晶を表す手のひらのマメも、重ねた手の向こう側から覗く実弥の微笑も、義勇には全て初めてのことだった。
「…っ」
義勇の手のひらが、微かに震え出す。
さっきから、可笑しいことが起こっている。
実弥が自分を見つけるなり、隣に腰を下ろす。他愛ない会話をする。時には互いの怪我の心配をし、時には互いの手のひらを重ねる。
そして、その相手は実弥。
「…っそうだな、不死川は手も大きいんだな…」
義勇は、動揺を悟られないように、精一杯優しく笑った。
「もう行くぞォ」
「あ、あぁ」
実弥はすっと立ち上がり、先に自室に戻って行った。
義勇は、まだ玄関から動けないでいた。熱くなった頬に、手を当てる。
「暖かい…」
なんだろう、この気持ちは…。
実弥 side
ばたんっと、実弥は自室に入り扉を閉めた。
先刻、同じ鬼殺隊の柱である、冨岡義勇と重ねた手のひらを見つめる。
(やっぱり…)
実弥は、自分の思いに気付いていた。いや、気付かずにはいられない。
義勇を見るなり、高鳴る自身の鼓動には決して嘘をつけない。
「俺は、あいつのことが…」