コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
晴れた空。
薄い雲がゆっくりと流れるのを目で追う。
あんまり気持ちが良くて、思わず深呼吸した。
桜の花びらが舞う4月。
正孝が、結婚式を挙げた。
身内だけの式に、北海道からあんこさん夫婦と慧君が来てくれた。
正孝のお嫁さんは、同じ大学の同級生だった人。
とても可愛くて、優しい。
彼女もまた、パン屋でバイトをしていたらしく、結婚したら私のパン屋を手伝いたいって言ってくれてる。
そう……
私は、今までのスペースを広げて、少し従業員も雇って小さなパン屋をオープンさせたんだ。
名前は『Sizuku』。
祐誠さんが付けてくれた。
家の敷地内ではあるけど、本当にお店が持てるなんて自分でもびっくりしてる。
毎日のことだからちょっと大変だけど、両親やお嫁さんにも手伝ってもらいながら、みんなで頑張っていくつもり。
結婚式が無事に終わって、あんこさん達と慧君は私の家に1泊してくれた。
いろいろみんなで話をしたり、パンを焼いてワインで乾杯したりと、久しぶりに楽しい夜になった。
東堂社長とあんこさんは、経営について祐誠さんと正孝と話している。
正孝のお嫁さんも横に座って聞いてる。
「難しい話になってるね」
慧君が話しかけてくれた。
「本当に。私にはあまりわからないな」
ちょっと苦笑い。
「雫ちゃんも経営者だよ」
「確かにね。でも、私はパン作りがメインだし、実は正孝が経営面を手伝ってくれてるんだ。祐誠さんが勉強しなさいって」
「なるほどね。それはいい考えだ。榊社長は本当にいつも立派だな」
「そうだね……本当にいろいろ考えてくれてる。パン屋だって私のためにって祐誠さんが背中を押してくれて」
「雫ちゃんは……ずっとずっと幸せなんだ」
「うん、幸せだよ」
「もう、これが最後だろうな。雫ちゃんに会えるのは……」
「そんなこと……またいつか来てくれればいいよ」
「そうしたいけど、ちょっと会うのは無理かな。会えばまた……その先を期待してしまう。本当にいつまでも俺はダメだな」
慧君は、それ以上、そのことに関して言葉を続けるのを止めた。
「俺は北海道で引き続き頑張ってく。体に気をつけて元気でいて。パン屋もあんまり無理しないように。雫ちゃんは頑張り過ぎるから。とにかく、小麦粉はこれからもずっと送るから」
「うん、わかった、ありがとう。これからもよろしくね、慧君もいつまでも……元気でいてね」
私もそれ以上は何も言わなかった。
みんなと過ごす楽しい夜は、あっという間に更けていき、次の日、3人は早々と北海道に帰ってしまった。
短い滞在だったけど、来てもらえて良かったと思う。
会うのは最後だとしても……
慧君とはずっと友達。
それに、あんこさんとはこれから先も大切な恩人として付き合っていくつもりだ。