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【長編︰一本の線で、君は落ちていく】
⚠激重⚠
苦手な方は回れ右!
それではドゾッ👉🏻🚪
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1話【気づいてしまった想い】
大学に入ったばかりの四月。人混みに慣れない新入生たちがキャンパスをざわざわ歩く中、悠衣(ゆい)は、その中にひとりだけ妙に柔らかな雰囲気を纏った青年を見つけた。
千紘(ちひろ)。
同じゼミで、最初に話しかけてくれたやつだ。
「え、ここ座っていい?初対面なのにいきなり声かけてごめん」
あの時の無邪気な笑顔が、どうしてだか焼きついた。
そこから毎日講義で顔を合わせるようになって、気づけば隣に座るのが“自然”になっていた。
けれど、自然じゃなくなったのは自分の心だ。
千紘が誰かと楽しそうに話すたび、胸がざわつく。
千紘が「寒いね」なんて肩をすくめれば、なんでか自分の方が痛んだ。
千紘が目を合わせて笑えば、呼吸が一瞬だけ止まる。
(…俺、コイツのことそんな目で見てたっけ?)
ある日、千紘が落としたプリントを拾って渡した瞬間に手が触れた。
ただそれだけで、心臓が馬鹿みたいに跳ねた。
「あ、ごめん、ありがとう!」
わかってない。その無自覚が余計に苦しい。
千紘の声、笑い方、ちょっと癖のある字。
全部が自分の中に積み上がって、気づけば逃げられないほど大きなものになっていた。
(あー…好きだわ俺、完全に)
気づいた瞬間、どうしようもなくなった。
その日の放課後、気づけば千紘を呼び出していた。
夕陽が中庭のベンチを橙に染めていて、どこか世界が二人だけの色になっていく気がした。
「千紘、ちょっと…話ある」
「おお、珍しい。どしたの?」
笑うな。そんな顔すんな。
言わなきゃ苦しいくせに、言ったら戻れないのが怖い。
「…俺さ」
声が震えていた。
千紘が不思議そうに首を傾げる。
「……好きだ。お前が」
沈黙。
千紘のまつ毛が揺れて、大きな瞳がゆっくり自分を見る。
「……え?」
「男とか女とか関係ない。お前じゃなきゃ、ダメなんだ」
千紘の呼吸が一瞬止まったように見えた。
手が震えているのが分かった。
「…悠衣、俺、そういうの…考えたことなくて……」
「返事はすぐじゃなくていい。逃げてもいい。でも、本気で言ってることだけは…分かっててほしい」
千紘は唇を噛んで、しばらく目をそらした。
風で髪が揺れる。
その横顔が、痛いほど綺麗だった。
「……わかった。考える。ちゃんと」
その言葉は優しすぎて、残酷でもあった。
希望になるのか、破滅の始まりになるのか分からない。
でも、この時の悠衣はただ、千紘の「考える」にすがるしかなかった。
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2話【返事と始まりと】
告白から三日。
いつも一緒に帰っていたのに、千紘は少し距離を置いているように見えた。
避けられてるわけじゃない。
でも、迷ってる顔を隠しているような、そんな微妙な壁がある。
「悠衣、今日さ…昼、一緒に食べない?」
昼休み、千紘が控えめに声をかけてきた。
普段どおりを装っているつもりなんだろうけど、目の奥がどこか落ち着かない。
「いいよ。どこ行く?」
「中庭。あそこの風通し好きなんだよね」
千紘が歩き出す。少し前を歩く背中が、どこか小さく見えた。
二人でベンチに座って弁当を広げる。春の風が髪を揺らし、頬に温度の違う影を落とす。
「…あのさ」
千紘が言った。
箸が止まり、視線が悠衣を捕まえる。
「あの時の返事、ちゃんと…言わせて」
胸の奥が、ぎゅっと痛む。
覚悟が、息を詰まらせる。
「俺さ、男の子から…というか、その…恋愛向けられたことなくて」
「うん」
「最初は、怖かった。分かんなかったし。俺、普通に女の子にしか興味ないと思ってたし」
千紘は指先をいじり、視線を泳がせる。
「でも…ここ数日で気づいた」
「何を?」
「避けても、変わらなかった。悠衣のこと考えて、胸の中が落ち着かないのも……全部、嫌な感じじゃなかった」
胸が一気に熱くなる。
息を吸った音が少し震えたせいで、千紘の頬が赤くなった。
「好きかどうかは…正直まだ分からない。でも、もう逃げない。悠衣と向き合ってみたい」
千紘は、しっかりと目を上げた。
その瞳は不安と優しさが混じっていて、痛いほど綺麗だった。
「俺と…付き合ってみる、ってこと?」
「……うん」
返事を聞いた瞬間、世界が一度だけ明るく跳ねた。
あの日の夕陽よりも眩しいものが胸の中で弾ける。
「ありがとう、千紘」
抱きしめたい。触れたい。名前だけを呼び続けたい。
でもそれをすれば、千紘が緊張することくらい分かる。
だから、ただ手をそっと伸ばし、彼の指に触れた。
「あ……」
千紘が目を揺らす。
指を絡めていいのか迷って、でも引っ込めることもできなくて。
そんな千紘の戸惑いが可愛すぎて、悠衣は笑った。
「怖かったら言って」
「怖くは…ない。ただ……慣れてないだけ」
ぎゅっと指先が絡む。
その一瞬で、千紘の頬が赤く染まる。
***
そして夜。
教科書を広げていたはずの部屋は、気づけば静かな呼吸だけを響かせていた。
千紘がソファに座り、悠衣がその隣に腰掛ける。距離は数センチ。
「……ねぇ」
先に顔を向けたのは千紘だった。
珍しく、弱い声だった。
「好きって…どうやって伝えるの?」
その一言で、胸の奥が熱くしびれる。
「千紘が伝えたいって思う気持ちだけで、充分だよ」
「そんなの…分かんないよ…っ」
少し震える声。
千紘は、今にも泣きそうな顔で続けた。
「悠衣は…俺を好きって、ちゃんと分かる。でも俺は、まだ全部は分かってないのに……それでも隣にいていいの?」
「いいよ。千紘が“いたい”と思ってくれる間は、ずっと」
言葉を終える前に、千紘が胸に顔を埋めた。
ぎこちない、でも必死な抱きつき方。
「……こういうの、慣れてないんだよ…バカ」
「うん。知ってる」
肩が小さく震えていた。
それが嬉しさか不安か区別がつかなくて、ただそっと背中を撫でた。
時間がゆっくりと溶けていく。
気づけば体温が重なり、呼吸が近くなり、唇が触れそうで触れない距離に落ちていた。
「……キス、していい?」
千紘は目を閉じて、小さく頷いた。
触れた瞬間、千紘が驚いたように震えた。
それが可愛くて、危ういくらい愛おしくて、ゆっくりと深く重ねた。
***
それから先のことは——
互いの体温が昂って、引き返すという選択肢が消えて、そのまま勢いで…。
(……やってしまったんだよな)
翌朝、悠衣が天井を見ながら思ったのはそれだった。
横では、千紘が心底疲れたみたいにすやすや眠っている。
傷つけるようなことはしてない。
何度も「大丈夫?」と聞いた。
逃げ場も与えた。
なのに——
千紘はいつの間にか自分にしがみつき、震えながら名前を呼んで、拒まなかった。
(……かわいすぎるだろ、マジで)
胸の奥が甘く膨らむ。
この気持ちが、後にどれほど歪むのかなんて、この時の悠衣にはまだ想像もできなかった。
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