テラーノベル
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キャラ崩壊があると思います
通報は🙅♀
体育館は、静かだった。
ボールの音が、やけに響く。
それはいつも通りのはずなのに、どこか違う。
誰も、大声を出さない。
いや、出せない。
田中は、ネットの向こうを見ていた。
「……くそ」
小さく吐き捨てる。
昨日までの崩壊が、まだ残っている。
レシーブが上がる。
影山が動く。
でも、トスが少しだけ遅れる。
誰も、飛べない。
「今の、いけただろ」
田中が言う。
影山は、何も言わない。
言い訳すら、出てこない。
影山は、ボールを見つめていた。
「……分かってる」
その一言だけ。
休憩時間。
誰も座らない。
水を飲む音だけ、やけに大きい。
そのとき。
「さっきのトス」
月島が言う。
全員が振り向く。
「別に、悪くなかったでしょ」
静かな声。
「タイミングがズレてただけ」
田中が言い返そうとして──止まる。
言葉が、出ない。
縁下が、小さく言う。
「でもさ……ズレてるのって、全部じゃない?」
沈黙。
「レシーブも、トスも、スパイクも」
「全部、ちょっとずつ違う」
その言葉を、誰も否定できない。
でも、
菅原が、ゆっくり立ち上がる。
「……違うのは、そこじゃない気がする」
全員が見る。
菅原はコートを見ていた。
「ずっとさ」
「誰か一人分、空いている感じがするんだよね」
その言葉で、空気が止まる。
誰も口を開かない。
でも、全員が同じ場所を見ている。
コートの一角。
何もない場所。
そこに、ずっとある“違和感”。
影山が、ゆっくりとボールを持つ。
「……そこ」
小さく呟く。
視線の先。
何もないはずの場所。
でも、
そこに“いた”感覚だけが残っている。
その瞬間だった。
ドン。
軽い音。
誰かが、レシーブしたボールが上がる。
反射的に、影山が動く。
手が、自然に上がる。
トスが出る。
速い。
でも、いつもより“迷いがない”。
「……今の」
田中が呟く。
「なんで今、合った?」
誰も答えない。
でも、空気が少しだけ変わる。
山口が、目を見開く。
「今のさ」
「ズレてない」
月島が小さく息を吐く。
「……たまたまでしょ」
でも、その声は少し柔らかい。
影山は、手を見ていた。
さっきのトス。
いつもより、自然だった。
考えていない。
“合わせにいっていない”。
ただ、出た。
「……あいつのやつだ」
田中が言う。
全員が振り向く。
「今の、なんか」
「日向っぽかった」
沈黙。
でも、それは重くない。
菅原が、少し笑う。
「……残ってるじゃん」
その一言で、空気が変わる。
完全には戻っていない。
でも、
完全に壊れてもいない。
コートを見る。
そこには何もない。
でも、
“何か”が、確かに残っている。
影山が、ボールを持つ。
「もう一本」
短く言う。
誰も反対しない。
トスが上がる。
今度は、迷わない。
誰かが飛ぶ。
届く。
ドン。
スパイクが決まる。
「……いける」
田中が笑う。
「まだ、いける」
誰も完全には戻っていない。
でも、
進めるようになっている。
夜。
体育館の明かりが落ちる。
コートにボールが一つ残る。
誰も拾わない。
でも、それは“忘れられたもの”じゃない。
そこに、まだ意味がある。
読んでくれてありがとう!
コメント
1件
面白すぎるよぉ、!!!続き楽しみに待ってます!
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