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国木田side
敦「国木田さんが送ってくれるなんて、珍しいですね。」
国「そうだな」
敦「……、僕、国木田さんには感謝してるんです」
敦が此方に向き直って立ち止まるから、己の足も止めて、敦に向き直った。
国「…急にどうしたんだ、敦」
敦「いえ、なんか言いたくなって。」
敦「…そういえば国木田さん、いつしか僕のことを、子僧と呼ばなくなりましたよね」
…そういえば。…意識はしていなかったが。
国「確かにそうだな。お前はもう小僧じゃないだろう」
敦「…僕、少しは大人になれてますか」
…何故そんな疑問を持つ必要がある、と言いそうになるくらい、敦は2年前と見間違える程に成長した。
国「2年前と見間違えるくらいにはな。…体術も、俺には未だ劣るが、申し分ない。…1人前だ。」
国「それより敦、何か欲しいものはないのか」
…そう、俺が今日敦に着いてきたのは、言った通りの理由ともうひとつ、20歳になる敦への贈り物を決めるためだった。
国「何でもいい。…欲しいものはないのか」
敦「…欲しいもの、ですか。…どうして今?」
な、まさか。
国「まさかお前、自分の誕生日を忘れていたのか?!」
敦「…いえ、覚えてはいますけど……。そんな、贈り物なんて。僕からしたら皆さんと過ごせる毎日が贈り物のようなんですから」
静かに微笑む敦を見ては、呆れともいえるため息をつく。
国「……お前…なぁ、…、感謝を忘れないその態度は尊重するが、いくら何でも欲が無さすぎだ。…、強いて言うならなんだ?」
敦「強いて……、ですか」
敦「国木田さんの選んでくれたものなら、…なんでも嬉しいです」
やっと出した答えに、また呆れたため息を漏らす。唯、それから感じれるものは呆れの他に、親が子に抱くような温かさがあった。
国「…敦の“強いて”は、其れか…。まぁ、お前らしいと言えばお前らしい。…俺のセンスにかけて、良い物を用意しよう。…たんと期待していいぞ」
敦「ふふ、ありがとうございます」
寮に戻れば、敦はまたお礼を言って、中へ入っていった。
そういえば、敦の“すみません”、“ごめんなさい”が、“ありがとうございます”に変わったのも、いつの間にかだったな。
国「……敦、お前は自分が思うよりも遥かに大人になったんだぞ」
…それは、敦に向けて言った言葉、と言うより、自分自身二言い聞かせるような、そんな言葉だった。
国「ただいま戻りました」
太「おかえり〜〜、少し遅かったんじゃない?国木田くんにしては」
国「こんな日があっても良いだろう」
太「え……国木田くんからそんな言葉が出てくるとは…、私凄くびっくりだよ!!!!」
国「はぁ、第1、今日やる仕事は全て片付いている。…明日から2日間の敦の20歳祝い準備に徹する為にな。」
国「そして、今から俺は!!明日明後日の分の書類を全て片す!!!」
祝いのため、敦の為だ。
この、“理想”と記された手帳には、敦の20歳を盛大に祝うと記されている。
2年間の敦の激務を労ると同時、20歳の祝いなのだ。
…そうと決まれば、あと2時間以内にこの書類を片付けてみせる!!
国「おらおらおらおらおら!!!」
太「あらら、困ったねぇ。国木田くん、こうなったら止まらないのだよ」
激務の鬼と化した国木田くんを横目に、もう既に片付いている3日分の書類を指定の位置に運んで、探偵社を後にした。
夕陽も沈みかけの美しい横浜の街を歩く。
仕事帰りの人も多いのだろうか、街は大勢の人で賑わっていた。
太「敦くんのプレゼント、どうしようかなぁ」
独り言にしては、少し大きい声が出てしまった。
…すると、街中で歩く数人の女性が微かに此方へ意識を向けた。
…おっと、敦くんはこの辺の有名人だったか。
そう思った刹那、女性にしては少し背の高い美貌な女性が此方に声をかけた。
「えっと、…その、忙しい所すみません。聞き間違いでしたら、大変申し訳ないのですが、先程“敦くん”と仰ったのは、中島敦様のことでしょうか。」
丁寧な口調で物申すご婦人に向き直って慣れた微笑みを浮かべた。
太「いえ、急ぎの用では無いので大丈夫ですよ。ええ、はい。敦くんに何か御用があるのですか?」
その女性は、ほっとした顔を浮かべて、もう一度頭を下げると口を開いた。
「先日、その中島敦様に貧血で倒れそうな所を助けていただいて…。唯其れだけの事なのですけれど、とても紳士な対応をして下さったんです。…お礼をしたかったのですが…、それはもう美しい方で、お礼を言う前に名前を聞くのがやっとでした…。」
…ほほう、つまりこのご婦人は、ぜひお礼がしたい、と。
太「そうでしたか。その子は私の部下でして…。この街の武装探偵社の一員であります。…若し、直接お会いしたいようでしたら、あのビルに。」
「武装探偵社の一員…!そうだったんですね。…本当に、何とお礼をして良いのやら…。忙しい中、大変失礼致しました。…其れでは」
帰り際、その女性がぺこぺこと頭を下げて行くから、ひらひらと手を振って見送った。
太「嗚呼、きっと彼には、あのような美しくて純粋無垢な、優しい女性が似合うのだろうな。」
その発言から少し経って我に帰った後には、私らしくもないと呆れて、お馴染みの酒場に足を運んだ。