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カランカラン、と。
お馴染みの音が響いて、顔見知りのマスターが何時ものカクテルを出して呉れた。
もはや、“何時もの”とお願いする間もない。
太「はは、流石マスター。…でも、そろそろ洗剤ベースのカクテルを出して呉れても良いんじゃない?」
「ふふ、ありませんよ」
太「ちぇ」
そう言ってまた、“何時もの”席に腰をかけて、空いた隣の席に、また、“何時もの”幻影を見る。
あのね、織田作。私の部下が明後日20歳になるのだよ。
目を瞑って彼に語りかければ、胸の内にこびりついて離れない織田作の幻影が聞いてくれているようで、今になっても矢張り辞めることは出来ない。
プレゼントは何がいいかな?敦くんは欲が無いから、きっと何でも嬉しいと言うのだろうけど。
うーん、と唸りながらグラスに入った月のような丸い氷を突く。
すると、沈んだ氷が再び浮き上がるタイミングで、ひとつのアイディアが脳を掠めた。
太「そうだ、敦くんをこの店に呼ぼう」
そう思った訳は、
初めて光の世界で救った、孤児院の敦君を織田作に見せたいとそう思ったからだった。
…私は、織田作が言った通りに孤児を救って。…その敦君が、今は横浜を救済する英雄にさえなっているんだと言うのを証明したかった。
…何より、5年間も空いた隣の席が、そろそろ淋しくなってきた頃だったから。
敦くんのプレゼント。
その答えを見つけて、“また来るよ”と、他の者には見えぬ、誰かに挨拶をしてからカランカランと、ドアを鳴らして寂しげなBGMに背を向けた。
探偵社に直帰し、そのまま静かに扉を開けると、私の担当した書類を抱えて気絶した国木田くんが居た。
太「はは〜、こりゃ酷い」
奥で何やら楽しそうに会話をする女性陣が見えて、パーティーの買い出しが済んだ事を理解した。
太「くにきぃぃだくぅぅぅん、おきて〜」
国「……っは!…俺は一体どれくらい…」
太「そ〜んなことど〜でもいいのだよ!兎に角、明日渡すプレゼントを買いに行かなくてもいいのかい?」
国「そうか、忘れておった」
そう驚いてから、慌てて飛び出してしまった。
太「全く忙しい人だねぇ」
乱「お前はマイペース過ぎだけど」
太「はは、よく言われます」
乱歩さんもだなぁ、と心の中で皮肉を言いながら、定時になれば、各々探偵社を後にした。