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「あっ、いた!すちくん!」
「みこちゃん!ありがと、来てくれて」
「こちらこそ。誘ってくれてありがと!」
待ち合わせの午後5時。時間も遅いということで、場所は今からでも楽しめるイルミネーションに決定した。
「こさめ。かわいいじゃん」
「ちょ、なつくん!そういうこと平気で言わないでっ//」
「いいじゃん、ほんとだし」
「…なつくんも、かっこいいよ?」
「…それはずるい」
「なんで!? 」
顔を合わせると、すちははにかみながらも紳士的にみことを迎え、ひまなつはストレートに想いを伝える。
みこととこさめが照れながらも嬉しそうにふたりと笑い合う様子を、らんがやさしく眺めていた。
すちとひまなつの雰囲気が甘いのを感じとり、ふたりの恋がうまくいきそうだと密かに安心しているらんだが、一見最高の友達の姿であるようで、らん自身はどこかさみしげにみえる。
そんならんの視線がほんの少しだけふっと下がったのを、いるまは見逃さなかった。
「…らんはこっち」
「わっ、?!」
腕を軽く引き寄せて自分の方にらんを向かせ、そっとひとことつぶやく。
「大丈夫。今だけは俺だけ見てて」
それは遠回しに、”ふたりのことばかり気にする必要はないから楽しめよ” という意味を込めたいるまなりの気遣いだった。
言葉足らずな言い回しにらんは一瞬目を見開いたが、すぐにいるまが自分を気遣ってくれていると気づくと気が抜けたようにふわっと笑顔をみせた。
「ありがと」
控えめなのに花が咲いたように可憐な笑顔に、いるまの胸がどくんと大きく高鳴った。今だけは自分がこの笑顔を独り占めできると感じた瞬間、抑えていた独占欲が心を満たしたのを、自覚した。
「…なんだかんだいちばん堕ちてんのは俺じゃねーかよ」
「わー!綺麗!みこちゃん、いっくよー!」
「え!?ちょ、こさめちゃん?」
「こらっこさめ!待って、走んないの!もうっ」
入口を進むと、目の前に広がるのはカラフルに輝く光の世界。 地面、木、花、オブジェなどとライトが融合して、幻想的な空間を創り出していた。
それが、ずっと奥のほうまで続いている。
こさめがはしゃいでみことを道連れに駆けていく。当のみことも、いきなり引っ張られて驚くも結局こさめについていき、らんはそんなふたりの自由さに呆れながら捕まえに走っていった。
「こさめ元気だなぁ笑」
「まぁあれがデフォじゃね?」
「らんらん、いつもああやってふたりをコントロールしてそう」
「絶対そうじゃん笑」
「本人も若干楽しんでそうだけどな」
3人の自由な行動に怒るでもなく、おだやかに笑い合いながらのんびりとついていく男子組。道の両側のイルミネーションになんて目もくれずに、それぞれたったひとりだけを視界に捉えている。
誰も言葉にはしなくとも、かわいいな、と思う気持ちは隠しきれずに瞳に滲んでいた。
ようやく再び6人が合流し、ライトアップされた施設をゆっくり巡って歩いていく。
フォトスポットごとに立ち止まって写真を撮りながら、他愛もない話をしながら、確実に絆を深める時間。
気を許した笑顔と穏やかな笑い声、ふいにときめく心が飛び交う、6人だけの心地良い空気がそこにはあった。
一番前を歩いていたひまなつとこさめは、お互いのトーク力とリアクション力で会話が途切れることがなかった。常に笑い声が響き、ときどきうしろの4人を巻き込みながら場を盛り上げる。
「お前らずっと喋ってんな」
「テンポ感合いすぎてて逆に怖いんだけど」
いるまやすちに突っ込まれると、ひまなつは満更でもなさげに笑みを浮かべた。
「俺らわりと似てるしな」
こさめも笑顔でこくりとうなずく。
「ま、こさめが男子みたいな趣味してるからかもだけどー」
「あー言えてるわ」
「そこは否定するとこじゃん?」
「え?笑 んー…。大丈夫!こさめは女の子だろ!」
「それはなんかヤダ笑」
一見すると仲の良い会話だが、ひまなつはハッと口をつぐんだ。
いつものおふざけのテンションでつい言ってしまったものの、女の子にその発言は良くなかったと思い直す。
本人が心広くけらけら笑っているのがまだ幸いだが、少し後悔したひまなつは、距離を詰めそっとこさめの耳元に口を寄せた。
「ごめん。わかってるから、気にすんなよ。ちゃんとひとりの女の子としてみてる。”こさめ”でいいんだからな」
こさめがぱっとひまなつを見上げると、少し眉をさげて申し訳なさそうにこさめを見つめる瞳と目が合った。
こさめ自身が気にしていなかっただけにその言葉に驚くも、 彼のさりげないやさしさと誠実さを目の当たりにしたこさめは、ほわっと胸の奥があたたかくなるのを感じた。
「そうやってまた好きにさせてくるんだから…」
真ん中を歩いていたのはすちとみこと。
もともとおだやかなふたりは、それはそれで息の合うペアだった。
周りのイルミネーションを眺めながら、すちが咲いている花や木について「これはね…」とのんびりした口調で話しかける。みことも、目を輝かせてすちの語る興味深いストーリーに耳を傾けていた。
「すちくん!このお花かわいい!これは?」
「あーごめん、それわかんない」
「あぇ、」
なんてときどき顔を見合わせ、ふっと同時に吹き出すことも。
声をあげて笑うすちをみていると、みことの気持ちは自然と和み、心からの笑みがこぼれる。
「すちくんといると私、すごい楽しいな」
にこっと満面の笑みを浮かべ、寒さでほんのり頬を赤く染めたみことと目が合った瞬間、すちは可愛さの衝撃でみことから目が離せなくなってしまった。
口がぽかんと開いたまま、歩く足も止めてみことだけを見つめるすち。
頭の中で、みことの言葉が反芻する。
「…すちくん?」
みことの不思議そうな声でようやく我に返ったすちは慌てて歩き出し、軽く視線を逸らす。
その頬は明らかに赤く火照っていた。
「もう…かわいすぎんだよ」
目は合わせないまま、ぽんとやさしくみことの背をたたき、自然な流れで肩を抱き寄せる。
「え!?」
その行動に驚いたみことはぱっとすちを見上げ、その顔が真っ赤に染まっていることを知って二度驚き、思わず視線を逸らした。
みこともまたみるみるうちに赤くなり、抱き寄せられたあたたかさを感じながらドキドキと胸を高鳴らせた。
いるまとらんは一番うしろからゆっくりと4人を追いかけていた。
らんは「なんかいいかんじだね」なんて二組のことを話しながら、嬉しそうに見守っていた。
しかしあまりに奥手で緊張してしまい、なかなかそこから話が進まない。
ただ隣を歩く存在を意識しては、勝手に焦りが募っていく。
「いいな」
もっと自然に、素直に話したいのにそうできない、葛藤した想いが羨ましい気持ちになって表れる。こさめとみことを見つめながらこぼれた本音は、ほんとうに小さな呟きだったが、いるまの耳には確かに届いた。
静かにらんの様子をうかがえば、やはりどこか遠くを見ているような、寂しげな目をしている。
そんならんをみながら、いるまも心のなかでは悩んでいた。
ひまなつやすちのようにうまくリードするのは苦手なのを自覚しているがゆえ、どうしたらいいのかがわからない。
それでも、迷ったすえに口を開いた。
「らん、こっから見えるの、めっちゃ綺麗じゃね?」
「わっ!ほんとだ、すごいきれい!」
「写真とろ。ふたりで」
そう言ってカメラアプリを開くいるまを、驚いた目でみつめるらん。
いるまはふんわりと微笑み返し、そっと体を寄せた。
「ほら、もっと寄って。カメラみて」
言われるままにカメラに向かって微笑むと、ぱちりとシャッターが押された。
「ん、いいかんじじゃん」
差し出されたスマホの画面には、きらきらした景色の中、やわらかい笑顔で寄り添うふたりの姿。
それがあまりに自然で、らんの胸の奥にはじわじわと喜びが広がっていく。
抑えられない笑みをこぼすと、ぽん、といるまがらんの頭に手を乗せた。
「俺はさっき、ふたりと比べんなって言ったつもり。俺、器用じゃないからうまく笑わせてやれないかもだけどさ、らんには笑っててほしい 」
照れくさそうに視線を逸らし、ほんの少しだけ目を泳がせたあと、一拍おいて続けた。
「言っただろ、俺だけ見とけ」
いるまの言葉に、胸を撃ち抜かれたような衝撃が走った。
口に出ていたのではないかというくらい、らんの心に的確に言葉を紡いでくれる。
ここまで繊細に見ていてくれるとわかってしまったら、いるまから目を逸らすなんてできるわけがなかった。