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続きどぞ!
今回は赤ちゃんですね!
――始まりの日、赤の間にて
六色のドレスに身を包んだ少女たちは、それぞれの「部屋」に案内された。
館の中央ホールから、螺旋階段をのぼると、放射状に六つの扉が並んでいる。
それぞれの扉には、対応する色の紋章が輝いていた。
「赤の間、りうら様。どうぞお入りください」
執事の青年が静かに頭を下げる。
りうらは小さく頷くと、赤い扉の前に立ち、ゆっくりと取っ手を握った。
――ガチャリ。
扉の向こうは、赤い薔薇で満たされた世界だった。
天井のシャンデリアからこぼれる光さえも、
どこか赤く染まって見える。
壁には古びた絵画がいくつも飾られ、中央には深紅の天蓋付きベッド。
すべてが重厚で、美しく、それでいてどこか寂しげだった。
「……落ち着くような、落ち着かないような」
りうらはひとつ息をつき、ドレスの裾を整えてベッドに腰を下ろした。
思えば、ここに来るまでの記憶はあいまいだ。
確か、夜の街を歩いていたはず。気づけばこの館の前に立っていた。
「選ばれし者、か……そんな大層なもんでもないのに」
ぽつりと呟いたそのとき――
「そっちも眠れへんの?」
――隣の部屋から、壁越しに声が聞こえた。
この声は……白のドレスを着ていた少女、初兎だろう。
「うん。まあ、こんな場所じゃ、ね」
りうらは笑いながら返す。
すると、またすぐに返事がきた。
「ウチ、正直な、ちょっと怖いねん」
「……うん。私もだよ」
正体不明の“儀式”。
運命に選ばれたという、実感のわかない言葉。
それに、少女たちの誰もが何かしらを心に秘めているように見えた。
「でもさ」
りうらは天井を見上げながら、続けた。
「誰かと話せるなら、少しだけ安心できるかも。ここが、知らない場所でも」
「……そやな」
その短いやりとりの中に、確かに生まれた何かがあった。
不安と孤独の隙間に差し込んだ、微かなぬくもり。
翌朝、館に鐘の音が響いた。
六人の少女たちは再び、中央ホールに集められる。
「おはよう、皆様。初日はいかがでしたか?」
青年が穏やかに語りかける。
誰も返事をしないまま、どこか緊張した面持ちで立ち尽くしていた。
「本日より、皆様には一日ずつ“色”をテーマにした体験をしていただきます」
「体験……?」
桃のドレスのないこが問い返す。
青年は頷き、背後の壁に手をかざすと、そこには赤い光を放つドアが現れた。
「本日は“赤”の日。つまり、りうら様の記憶が中心となります」
「私の……記憶?」
りうらが顔をしかめると、青年はにこりと微笑んだ。
「“色”とは、過去と感情を映す鏡。ドレスが選んだ記憶を、皆様には体験していただきます。
それによって、互いを知り、真実を紡ぎ出すのです」
青年が手を広げると、赤の扉がゆっくりと開いた。
「それでは、赤の間へようこそ」
扉の向こうに広がっていたのは、まったく別の世界だった。
見渡す限り赤。
真紅の空、燃えるような大地、紅蓮の花が咲き乱れる丘。
その中心に、ひとりの少女が立っていた。
それは――幼い日の、りうらだった。
「……え?」
少女たちは言葉を失う。
そこには、確かにりうらに似た少女がいた。
だが今の彼女とは違い、無邪気に笑い、誰かの手を引いて走っていた。
「……これって……」
りうら自身も、その光景をまじまじと見つめていた。
走る少女の隣には、小さな男の子がいた。
少年は、りうらと手を繋ぎながら、楽しそうに笑っていた。
「これ……夢じゃない。記憶、なの……?」
「そうだよ」
誰かがそう言った。
ふと隣を見ると、悠が静かにりうらを見ていた。
「この館は、“嘘”を消して“真実”だけを映す。
だから、忘れようとしたことほど、鮮やかに浮かび上がるんや」
その言葉に、りうらの顔が強張る。
「……あの子は、幼なじみだった。
毎日一緒に遊んで、笑って……でもある日、突然姿を消したの」
彼女の声が震える。
「私、守れなかったんだ。
最後の瞬間も、私は――ただ泣いてることしか、できなかった」
すると、目の前の記憶の風景が、悲鳴とともに揺れ始めた。
赤い空が崩れ、花が散り、少年の姿がぼやけていく。
「やめて……もう見たくない……!」
りうらが叫んだ瞬間、赤の世界は崩れ去り、少女たちは再び館のホールへと戻っていた。
重たい沈黙が流れる。
「……ありがとう」
それを破ったのは、ないこの声だった。
「私、りうらのこと、もっと知れた気がする。すごく、つらかったんだね」
ほとけも小さく頷く。
「でも、私たちがいるよ。もう、ひとりで抱え込まなくていい」
りうらは、驚いたように二人を見つめ、それから――ふっと笑った。
「……ありがとう」
その笑顔は、ほんの少しだけ、赤のドレスの重さを軽くした。
こうして、「6色のドレス」に選ばれた少女たちの“最初の一日”が終わった。
それぞれの色に宿る過去と真実。
そして、彼女たちの心が少しずつ触れ合っていく。
だが、この館の“儀式”は始まったばかりだった。
次は――“水”のドレス。
静かで優しい、ほとけの記憶が、扉を開ける。
コメント
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あい発え※この作品は縦書きでコメント書くからよろしく いつ想 、 しも力待 ておえっ まもぐて すうす よぎ
すっごい続きが気になる...