テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
――帰還後/スネージナヤ医療区画・個室
任務報告は最低限で切り上げられた。
氷毒の経過観察――名目上はそうだが、
実質は博士の研究優先隔離だ。
室内は静かで、白い。
⸻
ド「わざわざ付き添いとは律儀だな、隊長殿」
カ「経過確認だ」
ド「医療班で足りるだろう?」
カ「氷毒の種類が不明だ。監視対象だ」
ベッド脇に立つ隊長。
医療班は既に退出している。
包帯は仮処置のまま。
ド「なら再処置を頼もうか」
カ「……医療班を呼ぶ」
ド「不要だ」
起き上がる博士。
白衣を肩から外し、
負傷側を露出させる。
カ「自分でやれ」
ド「利き手側でなければな」
一瞬の沈黙。
隊長は小さく息を吐き、
処置台の器具を手に取る。
カ「座れ」
ド「命令口調だな」
カ「患者だ」
ド「観察対象でもあるが?」
椅子に座る博士。
隊長は背後へ回り、包帯を外す。
血は止まっているが、
氷毒反応の青い痕が残っていた。
カ「軽度だが残留している」
ド「解析したいな」
カ「先に治療だ」
薬液を塗布。
博士の肩がわずかに震える。
ド「……力加減は任務時より丁寧だな」
カ「暴れるな」
ド「暴れていない」
数秒の静寂。
隊長の手が包帯を巻く。
ド「君は不思議だ」
カ「またそれか」
ド「戦場では盾になり」
ド「帰還後は看護をする」
手が止まる。
カ「任務の延長だ」
ド「だが今は任務外だ」
博士はわずかに振り向き、
至近距離で続ける。
ド「それでも君はここにいる」
視線が交錯。
数秒。
カ「……監視だ」
ド「便利な言葉だな」
博士は包帯を巻かれる最中にも関わらず、
隊長の手首を軽く掴んだ。
カ「動くな」
ド「確認だ」
1,484
774
指先で脈を測る。
ド「任務時より上昇している」
カ「気のせいだ」
ド「いや」
顔を寄せる。
ド「私に触れている時だけ上がる」
包帯を結ぶ手が僅かに強くなる。
カ「……終わったぞ」
ド「まだだ」
掴んだ手首を引き、
隊長を椅子側へ半歩寄せる。
ド「庇った際、君も衝撃を受けているはずだ」
カ「問題ない」
ド「確認していない」
鎧の留め具に指をかける。
カ「やめろ」
ド「観察だ」
一つ外れる。
ド「ほう……打撲痕」
カ「……」
ド「無傷ではなかったな、隊長殿」
実際は軽微。
だが博士は愉しげに笑う。
ド「なら手当ては相互だ」
薬液を指に取り、
隊長の脇腹へ触れる。
カ「不要だ」
ド「拒否権はある」
ド「だが観察精度は下がる」
低く続ける。
ド「__どうする?」
数秒。
やがて。
カ「……好きにしろ」
博士の声がわずかに低く笑う。
ド「了解した」
指先で丁寧に薬液を塗布する。
戦場よりも、医療班よりも――
妙に時間をかけて。
ド「やはり君は興味深い」
ド「壊れない上に、逃げない」
処置を終え、距離を離す直前。
ド「次の任務も同行しよう」
囁く。
ド「長期観察が必要だ」
カ「……任務内容次第だ」
ド「交渉成立、二度目だな」
仮面越しの笑み。
隊長は小さく息を吐いた。
カ「……研究対象はこちらのはずだがな」
ド「安心したまえ」
去り際、低く。
ド「観察対象は――常に相互だ」
⸻