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――帰還後/スネージナヤ医療区画・個室
任務報告は最低限で切り上げられた。
氷毒の経過観察――名目上はそうだが、
実質は博士の研究優先隔離だ。
室内は静かで、白い。
⸻
ド「わざわざ付き添いとは律儀だな、隊長殿」
カ「経過確認だ」
ド「医療班で足りるだろう?」
カ「氷毒の種類が不明だ。監視対象だ」
ベッド脇に立つ隊長。
医療班は既に退出している。
包帯は仮処置のまま。
ド「なら再処置を頼もうか」
カ「……医療班を呼ぶ」
ド「不要だ」
起き上がる博士。
白衣を肩から外し、
負傷側を露出させる。
カ「自分でやれ」
ド「利き手側でなければな」
一瞬の沈黙。
隊長は小さく息を吐き、
処置台の器具を手に取る。
カ「座れ」
ド「命令口調だな」
カ「患者だ」
ド「観察対象でもあるが?」
椅子に座る博士。
隊長は背後へ回り、包帯を外す。
血は止まっているが、
氷毒反応の青い痕が残っていた。
カ「軽度だが残留している」
ド「解析したいな」
カ「先に治療だ」
薬液を塗布。
博士の肩がわずかに震える。
ド「……力加減は任務時より丁寧だな」
カ「暴れるな」
ド「暴れていない」
数秒の静寂。
隊長の手が包帯を巻く。
ド「君は不思議だ」
カ「またそれか」
ド「戦場では盾になり」
ド「帰還後は看護をする」
手が止まる。
カ「任務の延長だ」
ド「だが今は任務外だ」
博士はわずかに振り向き、
至近距離で続ける。
ド「それでも君はここにいる」
視線が交錯。
数秒。
カ「……監視だ」
ド「便利な言葉だな」
博士は包帯を巻かれる最中にも関わらず、
隊長の手首を軽く掴んだ。
カ「動くな」
ド「確認だ」
指先で脈を測る。
ド「任務時より上昇している」
カ「気のせいだ」
ド「いや」
顔を寄せる。
ド「私に触れている時だけ上がる」
包帯を結ぶ手が僅かに強くなる。
カ「……終わったぞ」
ド「まだだ」
掴んだ手首を引き、
隊長を椅子側へ半歩寄せる。
ド「庇った際、君も衝撃を受けているはずだ」
カ「問題ない」
ド「確認していない」
鎧の留め具に指をかける。
カ「やめろ」
ド「観察だ」
一つ外れる。
ド「ほう……打撲痕」
カ「……」
ド「無傷ではなかったな、隊長殿」
実際は軽微。
だが博士は愉しげに笑う。
ド「なら手当ては相互だ」
薬液を指に取り、
隊長の脇腹へ触れる。
カ「不要だ」
ド「拒否権はある」
ド「だが観察精度は下がる」
低く続ける。
ド「__どうする?」
数秒。
やがて。
カ「……好きにしろ」
博士の声がわずかに低く笑う。
ド「了解した」
指先で丁寧に薬液を塗布する。
戦場よりも、医療班よりも――
妙に時間をかけて。
ド「やはり君は興味深い」
ド「壊れない上に、逃げない」
処置を終え、距離を離す直前。
ド「次の任務も同行しよう」
囁く。
ド「長期観察が必要だ」
カ「……任務内容次第だ」
ド「交渉成立、二度目だな」
仮面越しの笑み。
隊長は小さく息を吐いた。
カ「……研究対象はこちらのはずだがな」
ド「安心したまえ」
去り際、低く。
ド「観察対象は――常に相互だ」
⸻