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ニューヨークは、あまりにも静かだった。
炎も爆発音もない。
ただ、壊されたという事実だけが、街の至る所に横たわっている。
オリバーとスカルは、高速道路の下、崩れかけた支柱の影に身を伏せていた。
頭上では、裂けたアスファルトと垂れ下がる鉄骨が、不自然な影を落としている。
「……人の気配がないな」
スカルが小さく呟いた。
「最初から戦場に立ってない」
オリバーは淡々と返す。
「ここは、人間の居場所じゃない」
視線を上げた瞬間、
それは空にいた。
巨大な飛行体。
便器を思わせる中央構造。
異様なほど分厚い装甲と、複数の砲門。
そして――
その“便器”の内側から突き出す、人間の顔。
「……生体部品か」
オリバーは分析する。
「制御用だろう。
単独で浮いている……哨戒か監視役だ」
スカルは冗談を言う余裕もなく、ただそれを見上げていた。
「……悪趣味だな」
次の瞬間、地上に動きがあった。
瓦礫の影から、複数のトイレ状兵器が現れる。
砲身を備え、金属の躯体を揺らしながら前進する異形。
意味をなさない奇妙な叫び声を発していた。
「……同類か?」
スカルが首を傾げる。
「だろうな」
オリバーは即答した。
「統制が取れてない。
軍隊って動きじゃない」
空中のオブリタレーターが反応した。
砲門が開き、黄色のエネルギー光線が地上へ放たれる。
直撃。
だが――
中型のトイレ兵器は倒れなかった。
「……まだ動いてる」
スカルが目を細める。
装甲を焦がしながらも、中型個体は前進を続ける。
動きは鈍く、洗練されていない。
オブリタレーターは追撃する。
二射目。
三射目。
ようやく、その個体は沈黙した。
「……時間、かかったな」
スカルの言葉に、
オリバーは一瞬だけ思考を巡らせた。
「……だが、今の攻撃」
オリバーは空を見上げたまま言った。
「威力は、落ちていない」
その時点では、
彼はまだ決定的な違和感を言語化できていなかった。
武装トイレの集団の後方から、
異様な個体が前に出る。
側面に巨大なタンクを備えた一体。
「……自爆型か」
次の瞬間、
それは地面を蹴り、空へ跳んだ。
衝突。
爆発音は小さい。
だが、装甲が溶け、オブリタレーターは姿勢を失った。
「……落ちるぞ」
巨体が地上へ墜落する。
武装トイレたちは、勝利を誇示するように叫び声を上げた。
だが――
空が、低く唸った。
雲の奥から、
別の飛行体が現れる。
先ほどの個体よりも明らかに重装甲。
砲門の数も、発光部も多い。
デストラクタ。
警告はない。
レーザーが地上を薙いだ。
一体、また一体。
武装トイレが、処理されるように消えていく。
「……掃除役か」
オリバーは、まだ“構図”として理解しようとしていた。
その背後で、空間が歪む。
「……もう一体?」
無傷のオブリタレーターが現れ、デストラクタの隣に並ぶ。
その瞬間――
新たなオブリタレーターの砲門が開いた。
狙いは地上の残骸。
だが、放たれたエネルギー弾は、わずかに軌道を逸れた。
「――伏せろ!!」
オリバーが叫ぶ。
轟音。
衝撃波。
頭上の高速道路が、一撃で粉砕された。
アスファルトが裂け、
鉄骨が引きちぎられ、
巨大な瓦礫が降り注ぐ。
スカルが転がり、
オリバーが腕を掴んで引きずる。
間一髪だった。
瓦礫が地面に叩きつけられ、粉塵が舞う。
数秒後、
二人は荒い息をつきながら、生きていることを確認した。
オリバーは、崩れ落ちた高速道路を見上げた。
「……違う」
低く、はっきりと呟く。
「俺は、完全に読み違えてた」
スカルが振り向く。
「オブリタレーターは、
最初からこの威力だった」
オリバーの声は震えていない。
冷静すぎるほど冷静だった。
「火力を抑えてたわけじゃない。
元から本気だった」
彼は、事実を組み直す。
「この高速道路を一撃で粉砕するエネルギー弾を、
あの武装トイレたちは――
正面から数発、耐えていた」
沈黙。
「……つまり」
スカルが言葉を絞り出す。
「空のやつらは、
最初から人間の想定を超えてる」
オリバーは続けた。
「だが、それと殴り合ってた地上のやつらは、
さらに異常だ」
彼は、はっきりと結論づけた。
「どっちもだ。
人間が勝てる相手じゃない」
無線を確認する。
応答はない。
「……壊れてるな」
「徒歩で戻るしかない」
二人は、瓦礫の街を離れた。
これは内輪揉めではない。
これは侵攻だ。
そして――
人類は、まだその事実を正しく理解していない。