テラーノベル
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瓦礫に埋もれた通りの奥で、
重い金属音が、ゆっくりと近づいてきた。
オリバーは反射的に銃を構えた。
スカルも同時に、狙いを定める。
暗闇から現れたのは――
四つの砲身を持つ、異様に武装した便器型の機体だった。
「……スキビディトイレ」
だが、どこか違う。
兵器として完成されすぎている。
オリバーは一歩も動かず、銃口を下げなかった。
「止まれ。これ以上近づくな」
次の瞬間、そのスキビディトイレが、流暢な日本語で応じた。
「撃たないでください」
二人の指が、引き金にかかる。
「敵意はありません」
「私は、あなたたち人間を攻撃しない」
「信じられるかよ」
スカルが低く言う。
「さっきまで、同じ見た目の連中が街を――」
言い終わる前だった。
背後から、轟音。
空気を切り裂くような突進音。
「後ろッ!」
オリバーが叫んだ瞬間、
トゥループアストロトイレが、全速力で突っ込んできた。
標的は――スカル。
「しまっ――」
次の瞬間、
クアッドランチャースキビディトイレが割り込んだ。
衝突。
光。
衝撃波。
「――ッ!!」
トゥループの攻撃が、真正面から突き刺さる。
クアッドランチャーの装甲が、瞬時に焼き切れた。
それでも、彼は倒れなかった。
最後まで、スカルの前に立っていた。
「……生きて」
かすれた声。
次の一撃で、
クアッドランチャースキビディトイレは完全に沈黙した。
即死だった。
静寂。
オリバーとスカルは、言葉を失って立ち尽くす。
「……庇った?」
「今の、俺を……?」
答えはない。
その代わりに、
瓦礫の向こうから、別の駆動音が近づいてくる。
トゥループアストロは、まだ終わっていなかった。
オリバーは歯を食いしばり、銃を構え直す。
「……信じるかどうか、決めるのが遅すぎたな」
その時、二人はまだ知らなかった。
この“即死”が、
この夜で最も軽い犠牲になることを。
沈黙は、ほんの数秒しか続かなかった。
トゥループアストロトイレは、止まらない。
焼け焦げたクアッドランチャースキビディトイレの残骸を踏み越え、再び突進の構えを取る。
「来るぞ!」
スカルが叫び、二人は散開した。
オリバーの銃が火を噴く。
だが、弾丸は装甲に弾かれ、火花を散らすだけだった。
「効いてない……!」
「くそ、さっきのやつと同じだ!」
トゥループは速度を落とさない。
突進。
衝撃で、地面が跳ねた。
スカルが吹き飛ばされ、転がる。
「スカル!」
オリバーは駆け寄ろうとするが、
次の瞬間、トゥループの突進が彼を捉えた。
衝撃。
銃が、手から弾き飛ばされる。
「――ッ!」
地面に叩きつけられ、息が詰まる。
視界の端で、トゥループアストロが頭部兵装を展開するのが見えた。
トドメだ。
その瞬間――
黄色い光が、横から突き刺さった。
トゥループアストロの頭部が、爆ぜる。
破片が宙を舞い、
機体は力を失って崩れ落ちた。
沈黙。
瓦礫の間に、風の音だけが残る。
オリバーは、呆然と顔を上げた。
空中から、何かがゆっくりと降りてくる。
ジェットの噴射音。
「……遅かったかしら」
淡々とした声。
フィーメールミュータントスキビディトイレが、
ふわりと地面に降り立った。
「生きてる?」
「……あんた、誰だ」
オリバーが睨む。
「質問は後」
「まずは、立ちなさい。逃げ遅れの子たち」
「逃げ遅れ――」
反論しかけたオリバーを、彼女は完全に無視した。
次の瞬間、
瓦礫の向こうから、もう一体が現れる。
黄色いネクタイ。
カメラレンズの胸部。
「手を貸します」
イエロータイドカメラマンだった。
彼は流暢な日本語で言い、
スカルを引き起こす。
「状況は最悪です」
「この区域、アストロの反応が急増しています」
「“アストロ”……?」
スカルが眉をひそめる。
「あとで説明するわ」
フィーメールミュータントが言い捨て、空を見上げた。
遠くで、複数のトゥループアストロが集結し始めている。
「数が増えてる……」
オリバーは、さきほど倒したトゥループの残骸へ走り、
無我夢中で兵装を引き剥がした。
「これ、使えるかもしれない!」
「正解」
イエロータイドカメラマンが頷く。
「アストロ由来の武器です」
「人間の火器よりは、まだ通ります」
四人は散開し、迎撃に入った。
奪った武器から放たれる光が、
トゥループの装甲を焼く。
「……倒せる!」
だが、その感覚は長く続かなかった。
地面が、震えた。
「……これは」
フィーメールミュータントの声が、わずかに低くなる。
アスファルトを突き破り、
巨大な脚部が姿を現す。
ストライダーアストロトイレ。
「冗談だろ……」
スカルが呟く。
四人の攻撃は、ほとんど意味をなさなかった。
装甲が厚すぎる。
砲口が、こちらを向く。
「まずい!」
その瞬間――
空から、鋭いレーザーが降り注いだ。
脚部関節が焼かれ、
ストライダーがよろめく。
高速で滑り込んできた影。
レーザードリフタースキビディトイレ。
「掴まれ!」
迷っている暇はなかった。
四人は走り、
次々と機体に飛び乗る。
その瞬間、
オリバーの胸元で、何かが外れた。
「……あ」
カメラだ。
地面に落ち、
レンズが、こちらを向いたままになる。
一瞬、戻ろうとしかけて――
オリバーは歯を食いしばった。
「……いい、行け!」
レーザードリフターが急上昇する。
地面に残されたカメラは、
最後まで映していた。
逃走する一行。
追跡するトゥループアストロ。
次の瞬間、
カメラは衝撃を受け、
映像は暗転した。
――そして、沈黙。
暗転した映像の直後、
ノイズ混じりの音声だけが、わずかに残っていた。
◆
米軍基地――簡易ブリーフィングルーム。
複数のモニターに映し出されているのは、
断続的に乱れる映像だった。
瓦礫。
空を裂くレーザー。
便器型の異形――トゥループアストロ。
「……今のが、例の“偵察組”の映像か」
グレース曹長が、腕を組んだまま言う。
その後ろで、FPEの教官たちが無言で立っていた。
彼らは、世界最強クラスの軍事力を持つ側の人間だ。
画面を見ても、表情は崩れない。
「映像が荒すぎるな」
「玩具みたいな外見だ」
「脅威評価は、まだ低でいいだろう」
誰かが鼻で笑った。
「トイレ型の兵器が、多少硬い程度だ」
「対処不能というほどではない」
その時、
一人だけ、黙って画面を見続けている人物がいた。
「……このタイミング」
低く、呟く声。
「妙ですね」
教官の一人が、そう言った。
「生徒が映っている」
「しかも、スキビディ側と同行しているように見える」
「偶然だろう」
別の教官が即座に切り捨てる。
「外部勢力と繋がっている証拠はない」
「――特に、ルビー」
一瞬、空気がわずかに張り詰めた。
だが次の瞬間、
モニターが完全に暗転する。
「……カメラが壊れたか」
「以上だな」
会議は、それで終わった。
誰も、
この映像が“最後の警告”になるとは、
まだ思っていなかった。
一方――
夜空の下。
レーザードリフタースキビディトイレは、
都市の縁をなぞるように高速移動していた。
「しっかり掴まって」
機体の内部で、声が響く。
オリバーは、息を整えながら下を見た。
遠ざかるニューヨークの街。
「……俺のカメラ」
「置いてきたわね」
フィーメールミュータントが、あっさり言う。
「でも、生きてる」
「それで十分よ」
「……」
スカルが、黙って拳を握る。
「あいつ……」
「最初に会った、クアッドランチャー」
誰も、すぐには答えなかった。
イエロータイドカメラマンが、静かに言う。
「彼は、最初から本気でした」
「あなたたちを守るつもりで、そこにいた」
オリバーは、目を伏せた。
警戒していた。
疑っていた。
引き金に指をかけたまま、話を聞いていた。
それでも――
彼は、庇った。
「……俺たち、人間が」
オリバーは、絞り出すように言う。
「勝てる相手じゃないんだな」
「あいつらも……アストロも」
フィーメールミュータントは、夜空を見たまま答えた。
「ええ」
「だから、戦争はもう始まってるの」
レーザードリフターが、進路を北へ取る。
「次は?」
スカルが聞く。
「基地よ」
「あなたたちの“米軍基地”」
オリバーは、顔を上げた。
「……伝えなきゃいけない」
「何を?」
「甘く見てる」
「全員、まだ」
その言葉に、誰も否定しなかった。
遠くで、
再び爆発音が響く。
ニューヨークの夜は、
まだ終わらない。
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