コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
中には一般の人もちらほらいた。本当に災害時の避難所よろしく、簡易的な段ボールのついたてやベッドも隅に準備してあった。体育館にはラジオが置いてあった。ノイズ混じりの音声がこう伝えた。
「緊急速報です。現在、東京都上空に得体の知れない飛行物体が飛来しています。午前8時30分、杉並区では飛行体から発射されたレーザーのようなもので周囲の建物が損害を受けました。その他──」
ズザザ、とうるさくてよく聞き取れなかった。ただ、「杉並区」という言葉ははっきりと聞き取れた。春華がいる場所は西東京市。近い。いつここに来るかも分からないと思った。それにしても、「得体の知れない」だとか「レーザー」だとかいう言葉が真面目なニュース速報のラジオで流れるのもまた途轍もない非日常を感じさせた。すると、Jアラートが鳴った。不気味なサイレンが体育館の外から聞こえた。
家族は大丈夫だろうか。急に胸を締め付けるような不安感が襲ってきた。携帯電話を見ることすらもすっかり忘れていた。携帯電話を見る。Jアラートや避難指示などの国や地域からの防災の通知が溜まりまくっている。そしてLINEの通知が5件。母親と友達の坂本幸那からだった。通知を見た途端、顔が頭に浮かび、涙が出そうになった。
母親『高校ついた?』
『凄いね』
『母さんも体育館に避難するね』
春華『着いてるよ』
『大丈夫?私も体育館にいるよ』
幸那『大丈夫?』
体育館避難所になってるっぽいよ』
春華『大丈夫だよー』
『体育館着いた!』
LINEを返す。不安で頭が回らず、とりあえず体育館にいることだけを二人に返した。すると、通知が来た。父親からであった。
父親『安全なところに避難して』
『Jアラートも避難指示も出てる』
『国がどうするか会議をすることになったら
しい』
春華『うん』
『高校の体育館が避難所になってる』
父親は自衛隊の幹部のトップである幕僚長という役職についている。普段連絡など寄越さない父親がわざわざ連絡を入れてきた。余程の非常事態なのだろう。
午前10時頃、避難所で母と幸那と合流する。幸那は挨拶や話を少しした後に向こうの家族の方へ行った。春華は母と避難所で一旦避難生活を送ることとなった。母は家から非常持出袋を持ってきていた。雨も降っていなければ嵐も地震も津波もない。先ほどの影は少し遠くに見え、離れていっているようにも見える。パッと見、平穏そうな街が避難状態になっているのはなんとも異様であった。
夜8時半。Jアラートの発令も相まってか避難所内も人がかなり増えていて、ラジオはずっと速報、速報と告げていた。その時、窓の外に一瞬閃光が走り、例の爆音が轟いた。春華は恐ろしくなって泣きそうになった。母は春華の背中を繰り返しさすった。避難所内が身の毛もよだつ程の恐怖に包まれた。