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知らないで欲しかった。
見ないで欲しかった。
考えないで欲しかった。
俺という存在を意識しないで欲しかった。
君達の貴重な時間を俺という存在に少しでも使って欲しくないんだ。
なんで分かってくれないんだよ。
「では、本日もありがとうございました〜!」
お馴染みの締めゼリフ
「チャンネル登録といいねもよろしくお願いします」 と言う上機嫌な声の後に少し間を置いて、仕事終了を知らせるカチッと鳴る機械音。
それに続けて「お疲れ様でした!やっぱり5人でエンドラは楽しいですね!」と誰かが声高らかに言う。
「いや〜ご迷惑おかけましたわー、」と少し気怠げに答えるアルトボイス。
「本当に無事で何よりですわ、ぼんさんはも〜少し落ち着いてもいいと思いますがね」とニヒルに答える声に被せるように
「誰がうるさいだって??!」
と声高らかに答えるのが俺、ぼんじゅうるだ。
いじられキャラ、残念おじ様、ハゲ、遅刻魔、卑怯者、、
色々言われているがとても有り難い事だ。
40も後半に差し掛かり、俳優の仕事にも悩み途方に暮れていた所を素晴らしいメンバーと会社に出会い何不自由ない暮らしをさせて貰っている。
明日食べる物にも困っていない、住むところにも不便なく、視聴者様にも恵まれ、キャラ図けも完璧。
これもメンバーが上手い具合に言葉のボールを渡してくれているからこそ成り立っている。
ありがたいな〜本当にありがたい、今だっておおはらMENというピンクの豚がキャラクターの男に美味しいボールを頂いた。
それにここぞとばかりに食いつきメンバーが笑ってくれている。
あー、本当に、ありがたいなぁ、、本当に、、、
チクリッ……
「……っ?」
メンバーがわちゃわちゃと会話を続けている。
それぞれが退出していくゲーム画面を見ながら俺は心臓あたりを抑える。
(なんだ?なーんかチクチクするなぁ。)
歳も歳だし少し怖いが、すぐに収まった為無視することにした。
「ぼんさん?聞いてるー?」
「……ん??」
俺の居場所を築き上げてくれた大黒柱のドズルさん。
ごめんもう1回言って!と言うと「もー、ちゃんと聞いててくださいよー?」とケタケタと笑う。
「今日、結構濃ゆいコメント流れてたじゃないですか?」
「んーー?そう?」
「いやいや、滅茶苦茶すごかったですよ!?見てないの?」
「こっちはエンドラ討伐でいっぱいいっぱいでそれどころじゃないのよ!」
2人の会話に関西弁で「どうりでぼんさんだけコメント返事しないわけやわ!」とツッコミを入れるソプラノボイスのおらふくん。
「まー、それでこそぼんさんだよね」とクククッと含み笑いをするアルトボイスのおんりーと「流石っすわ」とハッハッハッと笑うおおはらMEN。
それに釣られるように笑うドズルさん。
俺はそれに「え?何かあったの?ええ?なになになに?教えてよ」と返すが、、知ってんのよ、見てた、ぜーんぶ見てた。
でも、なんか喉の奥がグッてなって言葉出てこなかったのよ。
『邪魔すぎ』
『このぼんじゅうるとかいう奴はやる気あんのかよ』
『何のためにいるの?』
『みんなの足ばっか引っ張るわ、変な事言うわ、なんなん?』
『役たたず』
『周りが上手だから自分もって勘違いしてんのかな?』
『勘違いじじい』
『歳には抗えないか〜こんな大人になりたくなーい』
所謂アンチコメントの山
今日の配信は特にすごかった。
ぼんじゅうるにヘイトが集まる集まる。
いやでも目に入る。
でもそれを拾えなかった。
いつもならそれらも餌に食いつくのに今日はなんだか出来なかった。
声が出なかった。
だから、逃げてしまった。
貴重な意見、視聴者様、無視したらダメなのに、答えられなかった。
そこを気にしてドズルさんは配信終了後、俺に声をかけてくれたのだ。
「いや、見てないならいいのよぼんさん。あーいうのは読まなくていいし考えなくていいから。」
そう返したドズルの声はいつもより低く、いつもり刺がある話し方だった。
「ドズルさん、あれはNGリストに入れてNGワードも追加しときましょう。」
「僕もそれがいいと思います」
「あれは、ないね。ああいうのは許せない」
MEN、おらふくん、おんりーとそれぞれが少し不機嫌そうに答えるのを聴きながら、俺は「えーー?なによー?余計気になるわー!」と茶化す言い方しか出来なかった。
「熱い……ゴホッ」
例の配信から数日後、珍しく早朝に起きた俺は喉の違和感と倦怠感にやっちまった〜と眉間に皺を寄せた。
「こりゃ、風邪ひいたかな。」
ガラガラと掠れる声と、火照る身体。
これは、結構な熱かもしれないと体温計が置いてある棚までフラフラとベッドから移動する。
ドガッ、ゴッ!
途中、腰ほどまであるサイドチェストやら積み上げられたダンボールやらに体を打ち付けながら何とかお目当ての物を手に取る。
「いてててっ、」
脇に体温計をはさみながら、強く打ち付けた腰や脛をちらりと見ると
「……ん?何だこの痣」
先程痛めた場所とは別の少しずれた場所に見覚えのない痣をみつける。
それは少しふちが黄色くなって治りかけの古いものだった。
(まじか、、どこでぶつけたのかも分からない痣……歳かなぁ)
拳ほどある大きな古傷をソッと触りながら大きな溜息をつく。
こんな感じでどんどん衰えて、知らず知らずのうちに病気になって、誰にも知られずに倒れ、そのまま……と熱のせいかネガティブになる思考をダメだダメだと軽く頭を振りリセットする。
「……今日は特に仕事はないし、寝よ」
とフラフラとベッドへ戻り重い瞼を閉じた。
おかしい……。
そう感じ始めたのはいつからか、明らかにぼんさんの表情が、思考が読めない。
いつもなら何も言わなくても何となく意思疎通ができ、それ故に夫婦か!と突っ込まれることもある程だ。
それなのに、最近は全くわからない、怖い、なぜだ?
なんで、何も分からないんだ?
傍から見たら全くわからない程の些細な違い、それに1番に気づいたのはドズルだった。
「ねぇ、MEN、」
「……?なんスか?」
熱で3日ほど寝込んでしまったわーとケタケタ笑うぼんじゅうるを見ながら2週間ぶりに会うメンバーのMENにドズルは少し顔を強ばらせてコソリと話しかける。
MENは真剣な表情のドズルにこれはなんかあるなと姿勢をただし向き合う。
ドズル社の仕事部屋に集まっているほかのメンバーは楽しそうに会話をしている。
「ぼんさん、、おかしくない?」
「ん?ぼんさんですか?」
ちらりとぼんじゅうるを見る2人。
MENは首をかしげ違いを探すがよく分からない。
「んー、いつも通りじゃないッスか?」
「……ちがうんだよ、見た目、とかじゃなくて、、なんか1枚透明な布被ってるみたいな気持ち悪さない??」
怖い、わからない、なんで?
とブツブツ言うドズルを尻目に、んー?そうか?とぼんじゅうるを凝視するMEN。
それに気づいたぼんじゅうるは「なんだよ?どーした?」と2人に近付く。
「MEN……この事はぼんさんには言わないで、なんかやばい感じする。」
「え?あ、はい、でも、やばいってなんですか?」
「……なんか、わかんないけど、ぼんさん居なくなりそうな気がする。」
「!?」
ドズルの最後の言葉にMENはえっ?!と勢いよくドズルへと視線を向ける。
「おーふたりさん!なーに話してんの?」
そこでぼんじゅうるが二人の間に入り込んできた。
MENは小さな汗を額から流しながらドズルを見つめる。
「……や、何って言われても、その」
珍しくどもるMENに、ん?と首を傾げるぼんじゅうる。
「……ぼんさん、なんでもないですよ!それより今日の企画の説明しましょうか!」
「……んん?んー?そ、そうだね?」
明らかに話題を逸らしたドズルにぼんじゅうるはええ?と表情を歪めながら先を急ぐドズルの背中を追っていく。
そんな2人を見つめながら、MENは1人考え込む。
(……ぼんさんが、居なくなる?)
「MEN!はやくー!」
「あ、ああ今行くよ。」
何も知らないおんりーとおらふくんはニコニコとMENを呼び立てた。
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