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私が呆然とする中、王様とオティーリエさんが満足げな表情を浮かべる中、周囲の輝きは一か所に集まっていった。
その輝きは徐々に形を成していき、そして――
「……ホログラム?」
元の世界で聞いたことがあるような、宙に浮かび上がる立体映像。
青白い光を湛えるその映像は、美しい女性を描いていた。
まるで、女神様のような――
「――『白金の儀式』の開始を確認しました。
これより儀式を執り行います……」
どこからともなく、美しい声が響いた。
女神様の口が動いているし、きっとこの女神様の声なのだろう。
それにしても、何て美しい――
私たちを囲んでいる王族たちも、全員がその姿に見惚れているようだった。
ただ……目の前のこれは、本当に『女神様』なのだろうか。
印象だけでそう思ってしまうものの、例えばルーンセラフィス教では、『神様の姿』は伝えられていないわけだし……。
「――さぁ、女神サマ。さっさと進めてくださらない?
こんな茶番、早く終わらせてしまいましょう」
その場の空気を壊すように発言したのは、オティーリエさんだった。
……とりあえず、本当の神様かどうかは一旦置いておくことにしよう。
しかし、儀式が始まったのは良いけど……ここからはどうやって進むのだろう。
女神様が、それぞれの身分や身元を晒して……お終い?
「……儀式進行の条件を満たしていません。
立会人は公正で在るように――」
バチィイィッ!!!!!
「がはッ……!?」
「お、お父様!?」
突然響いた激しい音と共に、王様が崩れ落ちた。
まるで至近距離で、強力な電撃でも食らったかのように倒れ込んだのだ。
驚いた騎士たちは王様の元に駆け寄ろうとしたが……女神様の力のせいか、それ以上は進めないようだった。
きっと儀式を邪魔されないために、結界のようなものが張られているのだろう。
「……な、なるほど……。立会人というのも楽ではない……か……。
言っても言わなくても結果は変わらぬが……良かろう。アイナよ、聞くが良い」
「一体、何を……?」
「先ほど私は、『白金の儀式』は『プラチナカードの所有者同士は、身分や身元の照会ができる』……と言ったな?」
「……はい」
「それは本当のことだ。しかし――
だからと言って、みだりにそんなことが増えても困るだろう?
元々は、身分を隠匿しながらも保証するもの……で、あるわけだからな」
……まぁ、確かに。
せっかく隠しているのに、いちいち照会されるのも困ってしまう。
「そこで、だ。この『白金の儀式』には、『ペナルティ』が存在する。
照会を求めた方、求められた方は関係ない。身分の低い方のどちらか一方がそれを差し出さなければならないのだ」
「えぇ!?
だって、そんなこと言ったら――」
「ようやく気付いたの? ふふ、やっぱり頭がお花畑なのねぇ♪
そう、私は世界最大の大国……ヴェルダクレス王国の王位継承順位、第1位。これ以上となると、そうは無いわよ?」
「うむ……。今のオティーリエを超えるには、それなりの国を実際に統治している者や、あるいは超高位の聖職者、といったところになる。
果たしてお前が、そんな身分にあるものかな?」
もしかして、オティーリエさんがわざわざ王位継承順位を上げたのって、それが理由……?
しかし――
「待ってください!
勝ち負けは分かりましたが、ペナルティ……って一体、何ですか!?」
「それはな……『勝った者が望むもの』だよ」
「は……?」
「んー? まだ分からない?
例えば勝者の私が貴女を望めば、貴女は一生、私のド・レ・イ♪ になるってことよ」
「そ、そんな!?」
「まぁ、それなりの待遇はしてやるから、そこは安心するが良い。
ただし、この国のために一生働いてもらうがな。はっはっは!!」
「で、でも、それだけなら……。
奴隷紋を刻めば良かっただけなのでは……?」
実際に私を奴隷にしたいというのであれば、最初から奴隷紋を刻めばいい話だ。
人権やら倫理観の問題はあるだろうが、そんなものは王様の権力でどうにでもなるだろうし――
「それに準じることをやって、シェリルはダメだったのだ。
奴隷紋による支配では、その心までは手に入らない……。私は従順な駒が欲しかったのでな。
だからこそ……お前がプラチナカードを所持していると知ったときは、喜びに打ち震えたものだ」
「ついでに言っておくと、『白金の儀式』での隷属は一生消えないの。
うふふ。だから貴女、一生この国の玩具になるのよ。とっても楽しみよねぇ~♪」
……話をまとめると――
私が『白金の儀式』で負けると、奴隷紋よりも根深い奴隷になって、一生をこの国のために働かなければいけない……ということだ。
しかも私は不老不死。それこそ未来永劫、使われ続けることになる――
冗談じゃない!!
「――加えて言うとな、身分の差が大きいほどペナルティも多く発生するのだ。
オティーリエはどうしてもあの若者が欲しいようでな……。もし2つ奪えるということなら、彼が欲しいそうなのだよ」
あの若者って、ルークのこと!?
ルークは私のものってわけじゃないけど……まさか、私との主従関係があるから……!?
「で、でも……。
そんなことを言ったら、国王陛下やオティーリエさんは、他のプラチナカードの所有者を好き放題にできるじゃないですか!?」
「しかしそれも、『白金の儀式』に巻き込めれば、の話だがな。
さらに『白金の儀式』に参加した者の名前は、ある場所にすべて記録されてしまう。大義のない儀式は、すぐに諸外国から突き上げを食らうのだ。
そもそもプラチナカードの能力というのは、あくまでも最後の奥の手。基本的に所持者の権限は、国際法が担保しているものだからな」
「……今回は、大丈夫だと?」
「はははっ! 私が最も望む者が、ようやく目の前に現れたのだ!
今無理をしないで、いつしろと言うのだ!? 多少の突き上げなんぞ、力で捻じ伏せてくれるわ!!」
王様は大声で言い放った。
それはどこまでも、自分勝手な理屈――
「……儀式進行の条件を満たしました。
第一の秤にて、その誓いを刻みなさい……」
私たちの話の切れ目を狙ったのか、タイミングの良いところで女神様の言葉が響いてきた。
その言葉の余韻が消えると、オティーリエさんは呪文のようなものを唱え始める。
「――大いなる海、大いなる大地。古の竜が住まう場所。
争いの絶えぬ空、悠久の広がる大地。古の剣が突き立った場所。
我が血脈、偉大なる英雄の血筋。神より賜った場所。
アルタ・ラスク・ア・ガネラ・ラーベ・ダラス――」
オティーリエさんの詠唱が終わると、彼女の足元が強く、白色に光り始めた。
よくは分からないが、呪文の詠唱に成功したのだろう。
……呪文?
「……第一の秤にて、その誓いを受け止めました。
第二の秤にて、その誓いを刻みなさい……」
「……」
女神様の言葉が響いたあと、私のところで儀式が止まってしまった。
……もちろん、そんな呪文なんて知らないからだ。
「アイナよ、早く呪文を唱えるが良い。
いや、それすらも知らぬのか……」
王様は、私を見ながら冷静に言った。
しかしこのまま唱えなければ、儀式は成立しないのでは……?
「このまま呪文を唱えなければお前の負けになるところだが……。
プラチナカードの宝石に手を当ててみよ。そうすれば、頭に呪文が浮かんでくるだろう」
思いがけず、助け船を出してくれたのは王様だった。
立会人だから公正にしないと、女神様からまた電撃を受けると思ったのだろうか。
……唱えないと負けるのであれば、ここはもう唱えるしかない。
勝負事は、最後までやってみないと分からないのだから。
――って、全然勝負事になってないんけどね!? 嵌められてるんだけどね!?
こんなところで終わりたくは無いんだけどねッ!!!!?
……そんな怒りと嘆きを込めながら、私は仕方なくプラチナカードの宝石に手を当ててみた。
その瞬間、頭の中に呪文が浮かび上がってくる。
「――光の海、闇の海。大いなる存在が|揺蕩《たゆと》う場所。
七つの光、七つの闇、永遠の人が住まう場所。
異なる空、同胞の空。無限の天穹に祝福された場所。
ラ・ディアス・フルクラル・ア・ステル・ディアラード・ファルニカ・リアス・クアラルード――」
私の頭に浮かんだ呪文を唱え終わると、私の足元が強く輝き始めた。
「……わぁ」
私はつい、声を漏らしてしまった。
オティーリエさんの足元の光は美しい白色だったが、私の足元の光は美しい七色だったのだ。
こんなときであっても、美しいものを見れば美しいと感じてしまう。
隷属してしまったあとでも、こんな感情は残るのだろうか――
「……第二の秤にて、その誓いを受け止めました。
誓いをそれぞれ照会します……」
女神様はそんな言葉を残すと、しばらく静かになってから――
「……第一の秤にて、ヴェルダクレス王国による守護を確認しました。
王位継承順位第1位、Sランクの身分として認定します……」
「――ふん、しっかり認定されたわね!」
そう言ったのはオティーリエさんだった。
彼女は彼女なりに、少しくらいは緊張していたのだろう。……そんな性格には、どうしても見えないけど。
あとは第二の秤……私の身分を照会するだけだ。
大国の王位継承順位、第1位の身分になんて勝てるはずも無い。
……私が甘かった。
王様の提案を断った私も、クレントスでの苦い経験を忘れていた私も、レオノーラさんの忠告を感情のままに無視した私も――
そんなことを考えている中、無情にも女神様の美しい声が響き渡った。
「……第二の秤にて、絶対神アドラルーンによる守護を確認しました。
極限ランクの身分として認定します……」
――……ん?
んん……っ?