「絶対神、アドラルーン……だと……?」
「極限ランクって……!?」
「え? これって、もしかして――」
周囲の王族たちが|騒《ざわ》めく中、オティーリエさんが大声を挙げた。
「は、はぁ!? 何よそれ!!
女神サマ、どういうことよ!!」
しかし女神様はその問いに答えず、淡々と進行を行う。
「……『白金の儀式』の結果を確認しました。
第一の秤、Sランク……。
第二の秤、極限ランク……。
この結果に従い――
アイナ・バートランド・クリスティアにペナルティ請求義務が発生しました。
オティーリエ・アルナ・トゥール・フォンセ・ヴェルダクレスにペナルティ遂行義務が発生しました。
ペナルティの数量は『3』となります。速やかにペナルティの指定をしてください……」
……その結果に、私は唖然としてしまった。
最後の最後で、とんでもない逆転劇――
「――ば、馬鹿なッ!!?
何もかもが無茶苦茶だ! この儀式は無効とするッ!!」
王様は狼狽して、大声でそう宣言した。
しかし、その瞬間――
バチィイイィッ!!!!!
「がはッ……!!?」
再び王様に、電撃のような衝撃が襲い掛かった。
立っていられるはずもなく、王様は再び崩れ落ちてしまう。
「――女神様!
ペナルティとか何とかは置いておいて、私の仲間を助けてもらえませんか!?」
「……不当な拘束を確認しました。
アイナ・バートランド・クリスティアの仲間2名を、儀式の場に転移します……」
女神様がそう言うと、少し離れたところで拘束されていたルークとエミリアさんが、私のすぐ横に突然移動してきた。
うわぁ、これが瞬間移動……っ!!
というのは置いておいて――
「――アイナさん!!」
突然の声と共に、がしっと両肩を掴まれ、エミリアさんがまっすぐに私の目を見てきた。
彼女は大粒の涙を零しながら、身体を細かく震えさせている。
「すいません、エミリアさん。それにルークも。
ご心配をお掛けしま――」
「そんなこと、いいですから!!」
私の言葉を遮って、エミリアさんは私の身体を抱き締めてきた。
何だかよく分からないまま、神様の加護のおかげで何とかなったけど……私は下手をすれば、このまま奴隷堕ちだったのだ。
そうすればエミリアさんとルークとは、現実的にお別れになっていたかもしれない。
何とか勝てたのは、奇跡の逆転劇というか――……まぁ、私は結局何もしていないんだけど。
でも、それでも、安心してしまったせいか、私の目からも涙がたくさん零れ落ちていく。
ルークは涙目で鼻をすすってはいるけど、泣いてなどはいなかった。……さすが男の子だ。
しばらくするとエミリアさんは抱擁を解き、改めて私の目を見て言ってきた。
「……それにしても、何ですか、アドラルーンの加護って……。
ガルルン教とか、そんなことを言ってる場合じゃ無いじゃないですか……!」
赤い目で言うエミリアさんに、私の返事は――
「だってあの神様の名前、知らなかったんですもん……」
……そんなお間抜けなものだった。
ルーンセラフィス教の絶対神の名前は知っていたけど、私の会ったおじいちゃん神様の名前だっていう確証は無かったし。
……でも今回の一件で、あのおじいちゃん神様が絶対神アドラルーンだってことが分かったかな。
――アドラルーン様。
私たちを護って頂き、本当にありがとうございました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
感動の再会を済ませたあと、改めて周りを眺めてみる。
私たちがいる儀式の場には、私とルークとエミリアさん、そして少し離れたところに、王様とオティーリエさんがいる。
それ以外には、儀式の場を囲む形で近衛騎士と王族が群がっていた。
未だに儀式の場は結界で隔てられており、外の人は中には入って来られない。
そこまで私が確認すると、女神様が話し掛けてきた。
「……アイナ・バートランド・クリスティアは、速やかに3つのペナルティを指定してください……」
「えっと……。欲しいものがもらえるんですよね?
ペナルティ請求『義務』だから……拒否は出来ないんですよね?」
「……その通りです……」
今さら拒否するつもりなんて無いけど、一応のポーズとして聞いておくことにした。
何せ相手は、王様と王位継承順位の第1位だ。あとから『何で拒否しなかった!』と言われても困ってしまう。
しかし、義務であるなら仕方が無い。
この儀式をやると言ったのはそもそも向こうだし、私はその結果の義務を果たすまでだ。
「ちなみに、王様やオティーリエさんを隷属させることは出来るんですか?」
「ひっ!?」
私の言葉に反応したのはオティーリエさんだった。
そりゃそうだ。こんなプライドの塊が、私なんぞに隷属するのは『プライド』が許さないだろう。
「……オティーリエ・アルナ・トゥール・フォンセ・ヴェルダクレスについては可能です。
ハインライン17世については立会人であるため、不可能です。
隷属させる場合、当人が持つ王位継承権など、全ての権利は破棄されます……」
「ちなみに、そういう権利だけをもらうことは出来るんですか?」
「……為政に関わる権力は、すべて対象外となります……」
ふむ、なるほど……。
つまり、オティーリエさんを奴隷には出来るものの、その際には何の権力も付いてこない……ということか。
「――国王陛下。
私としてはオティーリエさんを奴隷にする気は無いのですが……私たちと、レオノーラさんの安全を保証して頂けますか?」
そうでないなら、オティーリエさんを奴隷にする。
……要らないけど。
「む、むむぅ……」
「お父様!!?」
「……もちろん、もちろんだ!
お前たちとレオノーラには手を出さん! レオノーラの幽閉もすぐに解く!」
「ありがとうございます。
……でも――」
「……アイナ・バートランド・クリスティアの提示した条件が採用されました。
これより、ハインライン17世に遵守義務が発生します……」
――あ。そういうのもやってくれるんだ。
「女神様、それを破るとどうなるんですか?」
「……致死の傷が与えられます……」
致死の傷、好きね。
……でも、それなら安心か。
「ご快諾、ありがとうございます。
それでは物品で頂くことにします。女神様、請求できるのはオティーリエさんのものだけですか?」
「……王位継承順位第1位につき、特例が認められます。
ヴェルダクレス王国所有のものについて、指定が可能です……」
「ぬぅ……」
思わず声を発したのは王様だった。
確かに、王国所有のものを取られて痛いのは、オティーリエさんより王様だもんね。
そして安全が担保された今、王様のもので欲しいものといえば――
「『オリハルコン』をください!」
「ぐっ……!?」
「……1つ目の請求を承認しました。
ヴェルダクレス王国所有のオリハルコンを、アイナ・バートランド・クリスティアに委譲します……」
その瞬間、私の前に巨大な金属塊が現れた。
それは白銀色、白金色、赤色が薄く混ざり合った美しい金属。触れてみると、何となく温かい感じがする。
――これが、オリハルコン……。
「アイナさん! ついに、手に入りましたね……!」
「神の金属……。ふむ、神の加護を持ったアイナ様に相応しいものです」
ルークもテンパっているのか、そんなことを言ってくる。
そこは、無理やり繋げなくてもいいからね!?
――さて、請求できるものはあと2つ。
うーん……もしかして、あれはあるのかな?
「『安寧の魔石』をください!」
「ぬぅっ!?」
「……2つ目の請求を承認しました。
ヴェルダクレス王国所有の安寧の魔石を、アイナ・バートランド・クリスティアに委譲します……」
その瞬間、私の目の前の空中に、いくつかの魔石が現れた。
とっさに鑑定してみると――
──────────────────
安寧の魔石(特大)×1
安寧の魔石(大)×2
安寧の魔石(中)×1
安寧の魔石(小)×1
──────────────────
「ふぇっ!?」
特大が60%、大が45%、中が30%、小が15%軽減の効果だから――
何ということでしょう。これで、術の反動100%軽減が達成されるではないですか!
……え、やった!? これで『英知接続』も使いたい放題!?
「アイナさん、凄い!」
「とっても嬉しいです!
……ところでもう1つあるんですけど、エミリアさんとルークは、何か欲しいものはありますか?」
「えっ!? これはアイナさんの特権ですし……。それに、特に無いですね」
「私も特にはありません」
……何とも無欲な、私の仲間たち。
でも私も、これ以外は特に欲しいものは無いし……。
広い領土を貰って、そこを治めるとか?
……いや、私の柄でも無いか。
うーん、うーん……。
……それならダメ元で、あれも聞いてみるか。
オリハルコンが手に入った今、神器の素材の最後になるもの――
「――あの、『光竜の魂』ってありますか?」
「……ッ!!
そ、それはッ!!!?」
私の言葉を聞いた瞬間、王様は目を見開いて、女神様をガバッと見上げた。
「………………上位互換の存在を確認しました。
入手には特殊条件を満たす必要があります。入手できなかった場合でも、請求義務は消滅します……」
「だ、ダメだ!! それだけは勘弁してくれ!!
こ、この通りだッ!!!!」
王様は今までになく狼狽をして、額を地面に擦りつけた。
しかし、神器の素材もこれが最後。
ここでようやく掴んだ糸口を、簡単に諦めることは出来ない――
「――問題ありません。
『光竜の魂』の上位互換……それをください!!」
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