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#小籠包のノベコン.
#向日葵のノベコン.
あの約束を果たせて良かった.
又,何処かで会おうね.
第一章.夏の匂い,向日葵の道.
夏の午後.
照りつける太陽がじりじりと肌を焼き,蝉の声が絶え間なく響いている.
街の舗道は熱気で揺らぎ,風はあまりにも乾いていて,木々の葉さえもカサカサと音を立てていた.
私は歩きながら,深く息を吸い込んだ.
胸いっぱいに夏の匂いが流れ込むーーーー
土の匂い,花の匂い,遠くで焚かれている草の匂い.
どれも懐かしく,そして切なく,私の胸を締め付けていた.
街外れまでの道のりは,覚えているよりめ遠く感じた.
子供の時は,彼奴と一緒に走る回るだけで笑い声がこだましていたのに,今はその声が風に溶けて,私一人だけが歩いて いた.
ーーーー向日葵畑へと.
あの場所は,幼い時に彼奴と,
“「大人になっても又来よう」”
と約束した思い出の場所だ.
その時に差し出された小さな手の温もりは,今も鮮明に覚えている.
けれど,彼奴はもう居ない.
事故で,突然私の前から消えてしまった.
だから今日は,思い出を抱きしめる為だけに来た.
道端の向日葵は 昔と変わらず,太陽に顔を向けて咲いていた.
だけど,あの時の彼奴は居ない.
花の向こうに見える空も,唯眩しいだけだった.
其れでも私は歩き続けた.
すると,背後から声がした.
『やっと来たんだね.』
心臓が,胸を破るかと思う程大きく跳ねた.
振り返るとーー目を疑った.
其処に彼奴がいた.
ーー有り得ない筈の姿.
でも,間違い様も無い.
太陽みたいに笑う,私の大切な幼馴染が.
「如何して………」
「そんな顔すんなよ.」
何時もの調子で笑う彼に,私は手を差し出されるまま,震える指先で握った.
暖かい.幻じゃない.
涙が止まらず,視界が滲む.
唯会いたかったーーずっと,ずっと会いたかった.
第二章.あの日の約束.
歩きながら,私達は昔と同じ様に話した.
「…ねぇ.覚えてる?此処で迷子になった事.」
「……忘れる訳無いじゃん.泣きながら探してくれた事.」
「俺さ…見付けてくれてめっちゃ嬉しかった.」
その言葉を聞いて,私は胸を締め付けられた.
喜びが大きい程,別れの痛みが怖かった.
「……如何して.今更逢えたの…?」
「…約束を果たしに来た.」
その答えは優しくも残酷で,息が詰まる.
守る為に現れただけーー長くは居られないと分かってしまったから.
私達は歩きながら,子供の頃の小さな約束や喧嘩,笑い話を重ねた.
草の匂い,土の湿り気,蝉の声ーー全部が懐かしく,全部悲しく感じた.
彼奴の笑顔を見ていると,胸が痛くて,手が震えた.
第三章.光の中の再会.
彼奴の姿は確かに存在している.
でも同時に,心の奥では,
“幻かもしれない”
“直ぐに消えてしまうんじゃないか”
と恐怖が迫っている.
私は何度も手を握り返し,胸の奥では泣き叫んだ.
声にならない声を,向日葵畑に投げ掛ける.
「もう一度,触れられるならッッ”……!!」
「御願いッ……消えないでッッ”…!!!」
涙で視界が滲み,足元の向日葵が揺れるだけだった.
第四章.夏の終わり,手の温もり.
太陽が傾き,畑が黄金色から赤色に染まる.
彼奴の姿が,少しずつ淡く光を帯びて揺れ始めた.
「……御免.そろそろ行かなくちゃ.」
「……ぇ…ぁ,嫌だッ…まだッ…行かないでッ…!!」
私は叫びながら,彼の手を握り締めた.
「又ッ…二度と逢えないなんてッ…嫌だッ…!!
御願いッ………置いてかないでッッ”………!!!」
泣き声は嗚咽になり,声も枯れ,手も全身も震えた.
「俺.御前が来てくれて安心したよ.」
「否ッ…そんな事言わないでよッッ”!!!!」
彼奴の体が光の粒になって,指の間から零れ落ちていく.
必死に掴もうとしても,手に残るのは空気だけ.
「やだッ……行かないでッッ”…!!!」
泣き叫ぶ私に,彼奴は最期の笑顔を残した.
「ーー又な.」
その声が風に溶け,光とともに消えていった.
第五章.永遠の夏と,向日葵と.
向日葵畑に,私は一人ぼっちだ.
胸が裂ける様に痛く,呼吸も苦しかった.
足元に小さなものが落ちていた.
震える手で拾い上げると,幼い頃に撮った一枚だったーー
肩を並べて私と彼奴.背景には今日と同じ向日葵畑.
「………ッ…ばかッ……」
声にならない嗚咽が溢れ,涙で視界が滲んだ.
其れでも,胸の奥は,ほんの少し暖かった.
約束は果たされたーー其う,心の奥で確かに感じる.
写真を抱き締め,赤く染まる空を見上げた.
蝉の声と夏風が,私の泣き声を其っと包み込んだ.
あの日の約束は,切なさと共に,永遠に私の胸の奥に残った________.