テラーノベル
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ヴノと一緒に、綺麗だよだとか、お前は輝いているだとか、出会った日のきらめきを忘れられないだとか、おためごかしを言い続けていたバストロ、『北の魔術師』はレイブの問い掛けに正気を取り戻して返事をする。
「ああ、何の役にも立たないカネだがな、沢山集めると魔法武具と交換して貰えるんだよ、プルトゥガレ、遥か南西の鍛治王(かじおう)の里でな、武器である魔剣や魔鎧(まがい)、魔篭手(まこて)、魔具足(まぐそく)なんかの防具、それらを手に入れる為にはこのコインが必要だって話、噂かな? そう言う事さっ!」
「へー、そう言う事かぁー」
これまで魔剣や魔法防具など見かけた事も無いレイブはやけに浅い反応で返すしかなかったらしい。
しかし、一人でムフムフ気持ち悪い笑顔を浮かべているバストロを見て、もう一言だけ付け加えるのである、優しい子だ。
「良く判らないけどさ、師匠の欲しい武器防具が手に入るかも知れないんだよね? 次のハルマツリで一杯カネ? コインが手に入ると良いねぇ? でしょ?」
「おうっ! 来年の今頃には全身フル装備っ! 夢じゃないっ! 乗るしかないこのビッグウェーブにっ!」
「う、うん……」
ここまで少年の様に隻眼(せきがん)、一つきりの左目を輝かせていたバストロの表情が、急に真面目そのものに変化してレイブをジーッと睨み付けながらいつに無く低い声で言う。
「だからな…… 昨年も冬篭りの終わり頃、お前も俺も何を啜(すす)って命を永らえたんだっけか? 覚えているかな? レイブ……」
レイブは大きな瞳を上に向けて、必死に思い出しながら答える。
「ええっとぉ、去年は食べ物が無くなっちゃったんだよね? んで、ハルマツリ用に作っておいたヴノの血から作った血清をぺろぺろ舐めてさっ、それで生き延びたんだよね? ふふふ、おじさ、グフンッ、師匠も僕もガリガリだったよねぇー、生きてて良かったよね?」
「それなっ!」
「え? どれなのっ?」
バストロはニヤリとニヒルな笑みを浮かべてキョトンとしているレイブ、左右に並んだギレスラ、ペトラに告げたのである。
「んだからな、今年の冬篭りの間に自分達が食べる食料、干草や干し肉、燻製野菜や果糖、ドライフルーツ何かをな、お前らスリーマンセルだけで準備してくれないかな? そうすれば俺たちスリーマンセルはハルマツリの後、装備を整えて強くなれる、って訳だっ! 判るだろ? ああ、そうだ! 自分たちに必要な水も自分達で準備して置けよ? 渇きってやつは、それはそれは辛いからなぁ~、んじゃ、よろっ!」
『『「えええっ! い、今からぁーっ?!」』』
「ああ、そうだっ、頑張れよ♪」
厳しい冬の気配が日一日と深まり続ける中、レイブ達スリーマンセル(見習い)は、大急ぎで冬篭りの準備を始める事となってしまったのである。
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