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「良しっ! 青草狩りはこんなもんで良いかいペトラ? もう少し蓄えておこうか?」
『ううん、充分過ぎるよっ! ゴメンねお兄ちゃん達ぃ、アタシのご飯を優先してくれてぇ、この冬アタシッ、成長しますっ!』
『グガァ♪ ガッガッ♪』
「あははは! んじゃあ次はモンスター狩りだね!」
三名が最初に着手したのは、案の定、一番容易そうだったペトラ用の干草、その原料になる青草集めであった。
竜種であるギレスラは幼いとは言え主食となるのは肉、主にモンスターの肉である。
それもそのまま食べれば毒になる、幼い竜には調理したモンスター肉が必要なのだ。
具体的には、成竜が食べる事が無い野菜やスパイス、ハーブなどと一緒に煮込んで、敢えて生命力を減らしたモンスター肉を食べる事になる。
それ以外では、成竜が咀嚼(そしゃく)して生命力を減らした所謂(いわゆる)、離乳食であれば食べられるが、これらを与える事は魔術師バストロが、自身のスリーマンセルの竜、紅竜ジグエラに対して厳しく禁じていたので期待出来る物ではない。
思い悩んだレイブが選んだギレスラ用の食べ物は、モンスター肉の干し肉、これである。
捕らえて倒したモンスターの肉を解体し、岩塩に浸す事で余剰過ぎる生命力を搾り出し、太陽に曝す事でニンゲンや豚猪(とんちょ)、竜が口に出来る所まで栄養価を落とす、その手段が肉を干す、この行為であるのだ。
干し固められたモンスターの肉は当然不味(まず)い。
と言うよりも食べたギレスラが美味しいと感じてしまう肉では生命力、つまり魔力が強過ぎなのだ。
未だ鱗が抜け落ちて生え変わらないギレスラには食べさせる事は出来ない。
大事な弟の無事を願ったレイブは、冬の間中、味気無い事この上ないモンスター肉の干し肉、スペシャルドライを食べさせ続ける事に決定させたのである。
レイブはギレスラとペトラを伴ってモンスターの狩場へとやって来た。
モンスター狩り…… 当然八歳の子供が最年長のスリーマンセルにとっては自殺行為である。
しかし彼らに冬篭り中の自活を命令したバストロとて、あたら幼い弟子達を失いたい訳ではない。
そこでモンスターの狩場に指定したのがこの草原、ジャジラト・アルティニンであった。
古い言葉で『竜の餌場』という意味らしい。
この草原にはたった一種類のモンスターしか生息していない、アル=マハラージ、俗称アルミラージとも呼ばれる有角のウサギである。
その体躯は小さく、大きい個体でもレイブの半分にも満たない。
更に攻撃力や耐久力も低く、魔術師では無い一般の里人でも、闘ってこれに勝利する事もある。
最大の特徴は、頭に生えた角から何かの魔法を発動し続けて、自分の餌になる昆虫以外の野獣、モンスター、魔獣を近寄れないようにしている点だ。
それにより強力な竜種以外近寄る事が出来なくなっている場所、故にジャジラト・アルティニン、『竜の餌場』なのである。
ニンゲンも竜と同様にこの魔法の影響を受ける事は無い、だが言うまでも無くこんな場所に入ってウサギ狩りに興じる物好きは居ない。
何故なら『竜の餌場』である、竜が居るのだ、結構な高確率で……
ジグエラやギレスラの様な知恵有る竜種には劣る物の、爬虫類型の魔物、モンスターであっても、亜竜ともなれば出会いイコール死、である。
ましてや正真正銘の竜種が、魔力災害などの影響を受けて変化してしまう『邪竜』であれば、邂逅(かいこう)自体が大規模災害と比される位の、絶望、なのだ。
ただし、今レイブ達の眼前に広がっているジャジラト・アルティニンはその限りでは無かった。
アル=マハラージだけに気を付けていれば良い、そう言った甘々な狩場だったのである。
何故? 竜は入れるんでしょう? ご都合主義なの? そんな批判は当たらない。
何故ならこの草原には餌場の主、紅竜ジグエラの臭い付け、所謂(いわゆる)マーキングが丁寧に施されていたのである。
紅竜ジグエラ、時に同じ竜種の間でも『灼熱(しゃくねつ)竜』と囁かれる極北の女王は、凡百(ぼんびゃく)の亜竜たちだけでなく、歳経た同族からも畏怖(いふ)の対象として君臨していたのである。
そんな彼女の餌場に入る『馬鹿』も『利口』も居ない場所だったのだ。
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