テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#12 届かぬ想いは隣で
中学三年生の春、私は美術室の窓際で筆を握っていた。
私は桜井紗良。1年生の頃、私は蓮のことが好きだったけれど、今はもう冷めている。だからと言って、心の奥に小さな痛みがなくなるわけではない。
教室を窓越しに見ると、真央と蓮が隣の席で笑い合っている。
真央は誰にでも優しく、自然に周囲を包む雰囲気を持っている。頭も良く、歌も絵も上手い。クラスメイトの多くが目を奪われるのも無理はない。
そして、隣で話す蓮は、楽しそうに笑い、時折真央をからかうように冗談を言う。
「ねえ、真央、今度の土曜、図書館行かない?」
蓮が笑いながら声をかけると、真央は柔らかく微笑んだ。
「いいね、蓮。でもその前に、これ手伝ってくれる?」
ふたりは楽しそうに話している。何を話しているか、紗良にはわからない。窓越しに見ながら、胸がぎゅっと痛む。
「真央、俺だけ見てほしいピーポー」
蓮の冗談交じりの声に、真央がふふっと笑う。
「蓮ってそんなこと言うんだ。でも、ちょっと嬉しいかも」
二人のやり取りを見ているだけで、紗良の胸は苦しくなる。自分はもう、ここに割り込む余地はないのだと、痛感する。1年生の頃に抱いていた蓮への淡い気持ちは消えたけれど、今度は真央が蓮に心を傾けていく様子を見て、何もできない自分を突きつけられる。
放課後の美術部。部室では、真央と私は同じ机に向かっている。話はしない。互いに黙々と作業を進め、時折視線を交わすだけ。隣にいても、あの教室で見た二人の親密さを超えることはない。
蓮が部室の入り口からじっと見ているのがわかる。私たちの距離感が、彼の嫉妬を引き出しているのだろう。昔の私なら、その視線で胸を乱されたかもしれない。でも今は違う。振り回される気持ちはもう、ここにはない。
──私の想いは、ただ隣で見守るだけ。
誰かのためでもなく、自分のためでもなく、ただ報われないまま春は過ぎていくのだろう。