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#13 白い机が証明した黒い羽根
白い机の上に、黒い羽根が一枚置かれていた。研究室の窓から入る午後の光が、それを不思議なほど無色に見せる。私はノートを閉じ、ため息をついた。
黒いカラスはすべて黒い、という命題を確かめるために、黒くないものを観察するほど確認が進むという、あの逆説。白い机、白い紙、無数の“黒くないもの”が、なぜか黒いカラスの真実を支えてしまう。
その日、研究室に現れたのは、街の図書館で働く友人だった。彼は理屈よりも人の顔色を見るのが得意で、私が考え込むと決まってコーヒーを差し出す。
「難しい顔してるね。答えは見つかった?」
私は首を振った。「白いものを集めても、肝心の黒さが遠のく気がするんだ」
彼は窓の外を指さした。街路樹に止まる一羽のカラス。確かに黒い。
「でもさ、あのカラスが黒いって安心できるのは、白い机や紙があるからじゃない?」
私は黙った。逆説は、現実の慰めにもなるのかもしれない。
夕方、研究室を出ると、空は茜色だった。彼は立ち止まり、少し照れたように言った。
「君が答えを見失っても、世界はちゃんと支えてる。だから約束しよう。迷ったら、白いものを数えて戻ってくるピーポー」
その一言で、胸の奥が温かくなった。理論はまだ完成していない。それでも、白い机も、白い紙も、黒い羽根も、すべてが同じ世界にある。
私はうなずいた。カラスが飛び立ち、羽音だけが残る。逆説は解けなくても、約束は確かにそこにあった。