「見てる前でしてあげよっか?」
 
 
 
 その一言が、若井の脳を焼いた。
 夕立のように突然、理性を襲う熱。
元貴はタオル一枚を腰に巻いただけの姿で、濡れた髪から滴る水滴を指で払う。
浴衣の乱れよりもずっと淫靡で、若井の奥を締め上げるようなその表情。
 
 
 
 「…っ、元貴…それ、冗談でしょ」
 
 
 
 声がうわずる。動悸が、耳の奥で鼓膜を叩いた。
だが、元貴は軽く首をかしげる。
 
 
 
 「冗談だったら、こんな顔しないでしょ?」
 
 
 
 挑発するように目を細め、布団の縁に腰掛けた元貴は、タオルをゆるく解きながら脚を少し開く。
その白い肌に、まだ祭りの熱が残っている。
鎖骨から腹筋にかけて、したたる水滴が夜気に濡れる。
 
 
 
 「ねぇ滉斗。そんなに俺のこと、欲しかったの?」
 「……っ、ちがっ…」
 「じゃあなんで、そんなに乱れてたの?俺の下着に顔うずめてしたんだろ。」
 
 
 
 ーー完全にバレてる。
低い声で詰め寄られ、喉が詰まる。
 元貴は笑って、タオルを布団の端に放り投げた。
そのまま、脚を緩やかに開いて、片手を自分の太腿の内側に添える。
 
 
 
 「見たいんでしょ? 俺が、どう感じるのか」
 
 
 
 指先が、自分の下腹部をなぞる。
シャワー明けの肌が、ほんのりと紅を差していく。
 若井は、まるで悪夢のような甘い現実に、息を呑むことしかできなかった。
 
 
 
 「ほら、ちゃんと見てて」
 
 
 
 元貴が指を滑らせ、ゆっくりと自分を愛撫し始める。
呼吸が、徐々に浅くなる。
濡れた髪が額に張りつき、肩がわずかに震える。
 
 
 
 「……んっ、あ……やば……」
 
 
 
 吐息と共に、細く甘い声がこぼれ落ちる。
 若井はその姿を、ただ呆然と見ていた。
理性が押し潰されるような衝動。
今すぐその手を止めさせて、自分の指で触れたい――
けれど、元貴はそれを許さないように視線で縛ってくる。
 
 
 
 「滉斗も…触れば?」
 「……っ、なに……」
 「自分で、して。さっきの続き、見せてよ」
 
 
 
 若井の鼓動が跳ねた。
 
 
 
 「……ここで…?」
 「うん。俺、見たい」
 
 
 
 いたずらな笑みと共に、元貴が深く腰を沈め、さらに指先を艶やかに動かし始める。
 
 
 
 「あ…っ、滉斗…もっとちゃんと見て。目、逸らさないで…」
 
 
 
 その声だけで、若井の下腹部はすでに痛むほど張り詰めていた。
躊躇いの末、若井も自分の浴衣を乱し、手を伸ばす。
 
 
 
 「っ……」
 
 
 
 視線の先で、元貴が唇を濡らすように舌を滑らせる。
 
 
 
 「……いい顔してる。俺のこと、考えてた?」
 「……ずっと……考えてたに決まってんだろ……」
 「ふふ、嬉しい……」
 
 
 
 2人の息が、次第に合わさっていく。
呼吸のテンポ、指の動き、濡れた音――すべてが共鳴し、部屋の空気を淫らに染め上げていく。
 
 
 
 「……あ、ぁ……やだ、もう……見られてるって思うと……余計に……」
 「元貴……可愛すぎて、無理……」
 「滉斗のも…見たい……もっとちゃんと……」
 
 
 
 もう、どちらも止まれなかった。
 
 
 
 「俺がイく瞬間、ちゃんと見届けて……お前のせいで、俺……こんなになってるんだから」
 
 
 
 さらに手の動きを速める。
濡れた手のひらが敏感な部分をこするたび、身体が小さく跳ねた。
 
 
 
 「……んっ……あ……やだ……若井の視線が……ゾクゾクする……」
 
 
 
 わざとらしく脚を開き、若井にすべてを晒す。
 
 
 
 「滉斗っ……ねぇ、俺……もう少しで…イっちゃう……」
 
 「俺も……っ……もう……だめ……ああっ…元貴…!!」
 
 
 
 視線を交わしたまま、声を抑えきれず、
互いの名を何度も呼び合いながら――
2人は同じタイミングで深く果てた。
 
 
 
 「……はぁ……っ……」
 
 
 
 余韻の中で乱れた呼吸を整えながら、若井を見た。
 
 
 「……ねぇ、どうだった……? 俺がイくの……ちゃんと見えた?」
 「……っ……元貴……」
 
 
 どこか涙ぐんだような瞳で、元貴はぽつりと呟いた。
 
 
 
 「……滉斗しか、見てないよ。ちゃんと、ずっと前から…」
 
 
 
 その言葉に、若井の胸が締め付けられる。
 夏の終わりの夜。
背徳と快楽の余韻の中、静かに響く鼓動は――
誰よりも、確かに元貴を欲していた証だった。
 
 
 
 
 END
 
コメント
4件
はああああ最高すぎます( ; ; )次の話も楽しみにしてます😭
うん...好き!!!!これで終わっちゃうのかな?新しい投稿待ってます( *´꒳`* )