コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……ほんっと、最っ悪」
教室の机で項垂れている蓮を見ていると、自然と笑いが込み上げて来た。
「せっかく2人きりで1晩過ごしたのにさ、ゲームしかしないとか……他にする事あったでしょ、、」
蓮は昨夜、僕の家に泊まった。昨日は本当にゲームしかしていない。もちろん、対戦においては蓮じゃ僕に歯が立たなかった。
対戦ゲームからいつの間にか協力プレイのゲームに変わり、ジャンルも変わった。
「ゆきが放課後何してるか分かったよ…。俺実はあのゲー厶結構自信あったんだけど、、」
僕は昨日、これでもかと言うくらい蓮をボコボコにした。ゲームだけは負ける気がしない。
「ねむ、、朝までホラゲーするとか狂ってるよ」
と言って蓮は眠そうにあくびをした。
「蓮びびってた」
昨夜の蓮を思い出し、僕は笑った。
「ゆきが言えないでしょ、1回クリアした事あるとか言ってたくせに、急に叫ぶし、俺に前を歩かせようとして来たり。でも、怖がってたのに全部ヘッショだったし。」
蓮は不貞腐れたようにそう言った。
「ヘッショ以外蓮も一緒だと思うけど」
でも、昨日は確かに夜中から騒ぎ過ぎたかもしれない。
昨日は楽しかった。久しぶりにあんなに笑った。蓮も以外と普通な所があるんだなって思った。蓮とこんな風に笑って話をするのは初めてかもしれない。そして今も、不貞腐れている蓮が面白かった。
バンッ
乱暴に教室のドアを開く音が聞こえた。一瞬で教室が静まり返る。自然とその方を向くと、そこには京介が立っていた。目があう。僕は咄嗟にその目を逸らしてしまった。
一瞬で、夢から覚めたような気分になった。
、、京介は僕と蓮の方に来ることはなかった。そのまま自分の席についたようだった。
「やば…ふっ」
蓮は声のトーンを下げながら急に笑いだした。
辺りを見ると皆ヒソヒソと何かを話していた。すると、山田がこっちに向かって来た。
「及川、高崎と喧嘩でもしたのか?」
「え、してないけど…」
「じゃあ何であんな機嫌悪いんだよ、、怖ぇえ。あ、及川じゃなかったら佐々木?」
「俺何もしてないよ。京介が勝手に怒ってるだけー」
「おい佐々木、声でけぇぞ」
山田は京介の機嫌が悪いと取ったらしく、その原因を聞きに来たみたいだ。
「及川、何とかしてくれ!このままじゃ教室が気まずいんだよ、、」
「何とかって…」
どうすれば、いつもの京介に戻す事が出来るのだろうか。
(「京介はゆきの事が好きなんだよ」)ふいに昨日の話が蘇った。瞬時に顔がかっと熱くなった。
いやいやいや、そんな事、あるはずない。だって、京介とは今まで何もなかったし。……あった。そういえば僕京介と、き、キスしたんだっけ。心臓の鼓動がスピードを増していく。
「及川?顔赤いけど…」
え、と言った僕の声はチャイムの音にかき消された。僕は何も言わず自分の席に戻った。
1限目の授業が始まっても、先生の話が全く頭に入らなかった。ただ、ずっと京介の事を考えていた。
京介は僕に急に避けられてどう思っただろうか。もし僕が京介の立場だったら傷つくはずだ。自分は何もしてないはずなのに、急に避けられるなんて。
何で、ここまで考えられなかったんだろう。京介は怒って当たり前だ。ひしひしと罪悪感に苛まれた。
休み時間になったら京介に謝ろう。そう僕は心に決めた。
「はぁぁ」
僕は忙しない皆の姿を見ながらため息をついていた。謝ろうとしても、京介が何処かに行ってしまい、話しかける隙がなかった。そして今は看板の作成に取り掛かっている。
いよいよ明日は文化祭だ。それだけあって昨日までは熱気もあったが、今は京介の件により少し気まずさがあった。
「及川」
声がした方に振り向くと、クラスメイトの男子が3人いた。
「高崎と喧嘩したのか?やばいって」
またか。
「かもしれない」
と僕が答えると、だと思ったわーとかそれな、とか話しはじめた。
「俺普通に及川と話したの初めてだわ」
「え、俺も」
「お前は話聞いてただけだろ」
「うっせ」
僕もそうかもしれない。僕には京介が居たから、他の人と話す機会はほとんどなかった。
「てか及川準備の時居た?」
「全然見てない気がする」
「あぁー、実は不器用すぎてする事なかったんだ」
僕はそう言って笑ってみせた。
「何それ」
案の定彼らも笑ってくれた。それからは文化祭とは全く関係ない話をいろいろとした。意外と気があい、話は盛り上がった。決まった友達意外とこんな風に長く話をしたのは久しぶりだ。そのまま3人と連絡先を交換した。
一気に3人も友達が増え、嬉しかった。
ピロン
スマホの通知音が鳴った。見てみると、京介からだった。
『ゆき』
顔を上げ、京介が居た方を向くと京介はスマホに視線を落としていた。
「及川はどー思う?」
急に話を振られたと思うと、3人が僕を見ていた。
「えっと、」
話聞いてなかった、。何か言おうとするとまた通知音が鳴った。
『話があるから屋上来て』
僕はすぐに、分かった、と返信した。
「ごめん、用事できたから行ってくる」
「まじか」
「おけ」
「えぇ」
3人がほぼ同時にそう言った。
京介の方を見ると、もうそこには居なかった。
僕は屋上に向かい走った。