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魔王城の地下最深部。厳重な三重の防魔結界を抜けた先にある極秘保管庫で、俺は高精度魔導スキャナーをかざしながら、前魔王——あのウザいアホ師匠が遺したガラクタの山と格闘していた。「……チッ。魔王の秘宝ってからにして開けてみれば、怪しい魔導兵器の設計図と、見たこともない古代言語の暗号テキストかよ。……まったく、死んでまで退屈させないオッサンだ」
魔王の座に就いてからというもの、俺の最大の関心事は政務でも領土拡大でもない。師匠(ヴァルモニカ・アスラ)が魔界各地に隠したとされる**『前魔王の遺産(隠し兵器庫)』**の捜索だ。
あのドブネズミ帝王学を俺に叩き込んだオッサンが、単なる骨董品や金銀財宝を遺すわけがない。必ずや、人間界の技術すら凌駕する規格外の概念兵器や、高濃度魔導鉱脈の極秘地図が眠っているはずだ。
作業の手を止めず、俺は耳元に装着した暗号通信端末をタップした。
「……ハンス、俺だ」
『はいはい、お電話待ってましたよ、魔王陛下! ……で、今度の『国家規模』のご注文は何ですかい?』
通信の向こうで、闇商人ハンスが揉み手をするような下品な笑い声が響く。
「前回の『国家防衛名目』で発注した、光学迷彩ジェネレーター500機と、高圧気体兵器の量産ライン用プラント一式。それと、人間界の特務機関が極秘開発している大型レールガンの構造設計データを要求する。払戻金と、魔王領の最新魔導鉱石の優先採掘権で支払う」
『ヒェ〜ッ! 1国の国家予算が数年分吹き飛ぶ規模だぜ!? 表の貴族どもや人間界の監査の目が黙っちゃいませんよ!』
「黙らせるさ。共存派には『貿易の安全保障用』と言い含め、主戦派には『抑止力の強化』と書類を偽造して通してある。関税も魔王権限で完全スルーだ。お前はつべこべ言わずに、密輸ルートの容量を今の十倍に引き上げろ」
『ヘヘッ……相変わらず悪どい魔王様だ! 了解いたしました、魔王国の裏帳簿、バッチリ書き換えておきますよ!』
ハンスとの通信を切り、俺はふっと息を吐いた。
国家の予算と資源を横流しにして、個人規模から「国家規模」へと拡大させたハンスとの闇取引。人間界の最新兵器と、師匠が遺した未知の魔導技術。この二つを掛け合わせれば、魔界全土を力で押さえつけるのではなく、『圧倒的な防衛技術と抑止力』で誰も文句を言えない完全なる安寧を作り出せる。
「……クロード、またハンスと物騒な取引をしてた……?」
静かな足取りで部屋に入ってきたのは、相棒のシエルだった。
手には俺好みに淹れられた、苦めのコーヒーが握られている。
「ああ。師匠の遺産の手がかりが一つ掴めた。……北方の旧魔王領の地下封印庫だ。ハンスから仕入れた最新の掘削兵器と光学迷彩を回す」
「……了解。シエルの風で、周りの視線と音、全部遮断する。……邪魔者は、一蹴する」
シエルは差し出したコーヒーカップの横で、ほんのわずかに不敵な笑みを浮かべた。
「頼むぞ、シエル」
俺は温かいコーヒーを一口すすり、パイプ椅子に深く腰掛けた。
厄介な政治は書類の山で煙に巻き、群がるヒロイン共や過激派どもはシエルと抑止力で適当にあしらう。
そして俺は、国家規模の裏取引と師匠の遺産探しという「最高の道楽」に没頭する。
「……さてと。オッサン、お前が隠した本物の『玩具』……全部俺が暴いて、俺の兵器にしてやるよ」
俺は静かに消音拳銃のスライドを引き、夜の魔王城の静寂の中、冷徹な笑みを深めた。
魔王城の地下最深部、厳重な三重の防魔結界とハンスから仕入れたばかりの光学迷彩センサーが張り巡らされた極秘保管庫。シエルが淹れてくれた苦めのコーヒーを飲み終え、俺が次の「前魔王の遺産」の暗号テキストに目を落としていた、その時だった。
――カチリ。
部屋の隅、光の届かない天井の梁から、ごくわずかに空気の密度が揺らいだ。
通常の魔導感知結界すら微塵も反応させない、極限まで気配を殺した無音のステップ。
「……ほう」
俺は手元の書類から視線を外さず、パイプ椅子の背もたれに体を預けたまま呟いた。
「我が魔王城の防衛網を、音もなくすり抜けて天井裏までご招待されるとはね。……人間界の特務機関、あるいは『勇者陣営』のお得意様か」
刹那――天井から黒い影が矢のように疾走し、俺の頸動脈めがけて冷光を放つ苦無(クナイ)が突き入れられた。
「——そこまでよ、魔王クロード!」
音もなく着地しながら、鋭く声を張り上げたのは一人の少女だった。
黒い忍装束に身を包み、顔の半分を布で覆いながらも、その漆黒の瞳には濁りのない正義と、確固たる殺意が宿っている。勇者陣営が隠し札として放った暗殺者、くノ一のミサキ・クロサキだ。
だが、俺は微動だにせず、ただ盛大に欠伸を噛み殺した。
「……暗殺者のくせに、名乗りを上げる前に殺気を飛ばすなよ。素人か?」
「なっ……!?」
ミサキが目を見開く。
それもそのはずだ。彼女が俺を急襲したその瞬間、俺の足元に仕掛けられていたのは――先ほどハンスから納品されたばかりの**【対人・重力制御型クレイモア地雷】**と、シエルが展開した無音の減圧結界だった。
すでにミサキの退路も、天井からの侵入ルートも、すべてが俺の計算通りの「殺傷圏内(キルゾーン)」に収まっている。
「待って、シエル。暴れるな、まだ殺すなよ」
俺の背後、影の中から気配を消して短剣を抜こうとしたシエルを片手で制し、俺は冷ややかな視線を目の前のくノ一に向けた。
「さて、ミサキ・クロサキとか言ったか。人間界の勇者どもは、こんな小物の一人娘を特攻させて俺の首を取れると本気で思っていたのか? それとも、俺の配下に最新兵器の実験台でも提供しに来た親切なスパイか?」
「くっ……! はったりを……!」
ミサキは歯を食いしばり、手裏剣を構え直そうとしたが、すでに彼女の足首は俺が床に仕掛けた高圧液体窒素トラップの微弱な冷気でカチコチに凍りつき、一歩も動けない状態になっていた。
「動くな。無理に動けば、その可愛い両足の骨が物理法則に従って粉々に砕け散るぞ」
俺はゆっくりと立ち上がり、消音拳銃のグリップに指をかけながら、冷徹に笑ってみせた。
「で? 勇者陣営の暗殺者さんよ。俺の城の構造を隅々まで教えてもらうか、それともここで冷たい実験動物になるか……好きな方を選べよ」
「くっ! 卑劣な魔王め……! 殺せ! 殺すがいい!」
足元を液体窒素で完全に固められ、冷気で身動きが取れなくなったミサキが、黒い忍装束を震わせながら金切り声を上げた。漆黒の瞳には、勇者陣営の思想を叩き込まれた奴特有の、誇り高くも盲目的な殺気が宿っている。
俺は消音拳銃の薬室をカチリと改め、深々と不快な溜息を吐き出した。
(……はぁ、出たよ。『殺せ』か)
どいつもこいつも、追いつめられると口を揃えて命を捨てようとする。ジャン=リュックの過激な嫉妬といい、ミサキの勇者ごっこといい、この世界の奴らはどうしてこうも自分の命を安売りたがるのか。わざわざ弾丸を1発無駄にしてまで、こんな小物(スパイ)の命を奪うなんて体力の無駄以外の何物でもない。
「……おい、大声を出すな。耳に響く」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、冷え切った銃身でミサキの顎先を軽く突き上げた。
「……な、何よ……ッ! 命を乞うとでも思った!? 私はくノ一! 拷問にも死にも屈しない……!」
「誰も拷問なんて面倒なこと言っちゃいないだろ。だるいんだよ、お前みたいな捨て駒の始末をするのもな」
俺は銃口を下げ、懐から端末を取り出すと、目の前で小さな画面をタップした。画面に映し出されたのは、人間界の勇者陣営――その裏で特務機関が極秘に動かしている**【次世代型魔導通信の暗号規格】**と**【勇者パーティの極秘補給ルート】**のマップデータだ。
「な……ッ!? なぜそれを……!?」
ミサキの顔から急速に血の気が引き、今度は恐怖で表情が強張る。
「ハンス経由で半分手に入れてたデータだが、あと一歩『決定的なパスコード』が足りない。……なぁ、ミサキ・クロサキ」
俺は足元の液体窒素の冷却レベルをわずかに下げてやり、耳元へすっと顔を近づけて、冷ややかに囁いた。
「お前がそのパスコードの『最後のピース』を俺に提供するなら……お前をここで殺さず、五体満足で人間界へ帰してやる」
「ふ、ふざけないで! 私に祖国と勇者様を裏切れと言うの!? そんな卑怯な取引に応じるくらいなら——」
「裏切り? 違うな、これは『生存戦略』だ」
俺は冷徹な視線で、固まっているくノ一を静かに見下ろした。
「お前を暗殺者としてこんな場所に単身で放り込んだ勇者陣営の幹部どもはな、最初からお前が成功するなんて思っちゃいない。お前が死んで俺の『残虐性』を世間にアピールするための……単なる使い捨ての捨て駒だ。そんな連中に操られて骨を埋めるのが、お前の言う『誇り』か?」
「っ……それは……」
「パスコードを渡せ。そうすれば、お前には『魔王城の厳重な防衛網を突破し、情報を探って無事に生還した優秀な潜入員』の裏お膳立てをしてやる。首を落とされて無駄死にするか、俺に協力して命を拾い、利用価値を示して生き残るか……好きな方を選べ」
ミサキは悔しそうに唇を噛み締め、呼吸を荒く乱した。
プライドと命の秤。だが、目の前にあるのは「冷酷だが完全な合理性」だ。勇者側の打算的な扱いを薄々感じ取っていたらしいあいつの瞳に、わずかな迷いの揺らぎが生じる。
「……シエル、解凍用の温熱パウダーを少しだけ撒いてやれ」
「……了解。……無駄な抵抗は、足が腐るだけ」
影から姿を現したシエルが、静かにパウダーを振りかける。
じわじわと解けていく足元の感触を確かめながら、ミサキは震える声で俺を睨みつけてきた。
「……本当に、パスコードを渡せば……私を生かして帰すのね……?」
「俺は嘘はつかない。払戻金と合理的な取引にしか興味がないからな」
俺は不敵に口角を上げ、消音拳銃をホルスターへと収めた。
勇者陣営の暗殺者すら『取引相手』に変え、自らの手先として組み込む。人間界と勇者どもの裏をかくための新しい「兵器」が、また一つ俺の手中に収まろうとしていた。
コメント
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読み終わったよ…第34話。 魔王クロードの「だるい」を連発する合理主義っぷり、めっちゃ好きだなあ。国家予算を裏で動かす悪どさと、暗殺者すら「取引」で生かす冷徹さが、ただの魔王じゃない深みを感じさせてくれたよ。 特にミサキに「♡♡♡」って言われた時の「弾丸がもったいない」って思考回路、最高のブラックジョークだよね。シエルとのコンビも相変わらず安定してて、コーヒー差し出すシーンにほっこりした。 師匠の遺産×人間兵器のクロスで、どんな兵器が生まれるのか…次が気になるなあ。