コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それから何分も、明は涙が出なくなるほど写真を見続けている。
俺も最初は止めようとしたが、なんだかんだで明に甘いとこが出てしまう。もう恋人ではないのに、俺がそばにいていいのかわからないのに。
ーーただ守るだけ
その言葉を盾にして今も明の隣にいる。
窓から差し込む朝日が少しだけ温かく感じられた。
だが数分したのか明は手を止める、目は見開いて口はあんぐりと開けたまま。
「ねぇ、博雅………」
今にも崩れそうなほど体が揺れている。
部屋の雰囲気が変わった、背筋は凍って胸の鼓動も早くなる。
(何を見たんだ?何かおかしい所とか、もしかして……)
頭の中が嫌な予感で埋め尽くされていく、別に予感がしただけだ……まだ悪いわけじゃ……。
期待は裏切られたーー
明は震える手でスマホの画面を向ける。
「え……」
俺の口から情けなく漏れた声、スマホに映る写真………それは俺と明が“キス”していたから。
ーー早く隠さなければ
思うのに身体は言うことを聞いてくれない。石像のように固まった身体は、動かそうとするたびにボロボロと崩れて行く。
「こ、これ……どういうこと……?」
顔色はどんどん悪くなっていき、このままでは男性に対する恐怖が深くなってしまう。でも説明の仕方なんて全くわからない……何を言ったとしても、キスしたのは写真に残ってる通り“真実”だからーー
「事故だ、事故なんだ……それは………」
言葉が詰まりながらも精一杯の力。
(どうして………)
「スマホ……返してくれるか……」
「……っ……う……うん……っ……」
「事故……なんだよね……っ…」
ブルブル体を震わせ、スマホを俺の手に返した。手と手が触れ合った瞬間に明の肩が跳ねる。
目尻が熱くなる、今俺は泣いているのだろう。本当に自分の計画の無さにうんざりする。スマホを渡さなくても見せることはできた、途中でも甘やかさずに優しく辞めさせることもできた。そもそも俺が事故を起こさなければこんなことにはならなかった。
ーー嫌いだ
大嫌いだ。
呪いたい、恨みたい、自分自身を。
明はこんなにも苦しい思いをしているのに……俺は簡単に“守りたい”、“そばにいたい”、そんな自分勝手な考えのせいでどんどん迷惑がかかる。明だけにじゃなく全体にもだ。
何がしたい?
何ができる?
俺に……俺に何ができる?
もういっそ居ない方が良いのかもしれない。
ドアの前まで歩いて振り返る、視線の先には震えながら心配そうにこちらを見る明。
本音を知られないように俺は微笑んで告げる。優しく、怖がらせないような声色で。
「あぁ…事故だ、気にすんなよ…」
言い残すと同時に逃げるように出ていった。
廊下の冷たい空気は部屋から離れるほど俺を追い詰めていく。頬には温かく冷たい涙がつたっていた。