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『…鶴蝶さん?』

すぐ横で驚いたように自分の出血部分に手を当てる鶴蝶さんを見やる。私よりもずっと酷い怪我、そして出血量に血の気が引く。


「○○ちゃん…嘘だろ?アンタも…」


鶴蝶さんの言葉を遮るように突然、激しくせき込む。ゲホリと咳の音が自身の口から溢れ出るたびに、赤い雪が降ったみたいに血が地面に飛び散る。

急いで口元を服の袖で拭い、下へと視線を落とす。案の定、赤い血液が泥のようにべったりと袖にくっついている。段々と荒くなっていく息と、時間と共に自分の体から流れ落ちていく真っ赤な血を見て初めて本当の死を実感した。


『…うそ』


少し前まではあれほど望んでいた死が、酷く怖いものに見える。死にたくない、そう叫び出したくなるのをグッと堪えて痛みを我慢する。


「うぉぁああ!!」


『鶴蝶さん!』


ドン、ドン、ドンと銃声がまたもや3発、鼓膜に鳴り響く。

今度こそ死ぬ、迫りくる弾丸にそう理解する。

その一瞬の出来事はまるでスロー再生される映像を見るような感覚だった。

グッと来るであろう痛みに身体を固く丸めて黙って耐える。


『…?』


だけどいくら待っても痛みは来なかった。来たのは体を強く押され、地面に体を打った衝撃だけ。

想像よりもうんと軽い衝撃に、固く閉じていた目を恐る恐る開く。

ふと視界いっぱいに私を庇うように両手を広げる人物が映った。見慣れたその大好きな背中に銃弾が3発、躊躇うこともなく突き抜ける。


『な…んで、』


その人物を理解した途端、弾かれた様に叫び声をあげる。


『イザナくん!!!』


私の絶叫が激しく木霊した。喉が裂けるような叫び声をあげ、ドサリと倒れるイザナくんと鶴蝶さんに飛びつくように近づく。途中、膝が地面に擦れ鋭い痛みと共に血液が流れ落ちてくるがそんなの気にならないくらい心が掻きむしられるように焦る。

心臓が痛いくらいにバクバクと飛び跳ねている。撃たれた肩の感覚が無くなり、涙だけが無限に流れてくる。


「体が勝手に動いちまった」


苦しそうに言葉を吐くイザナくんの姿が痛々しく、彼の頬に触れている手が異様なほどに震える。段々と抜けていく肌の温かみに背筋が冷える。


『ぁ…ぃゃ……』


どうすればいい、どうすればいいんだ、と必死に考えを巡らせるが役に立つような解決策は浮かばず、段々と息が浅くなっていくイザナさんの姿を見守ることしか出来なかった。


『…イザナくん』 

大好きな名前を初めて会った時と同じように震えた舌で打つ。

何かを呼びかけておかないとイザナくんがいなくなっていきそうで怖かった。ズンッと何も出来ないという心境が焦燥感を招く。


「……思い出してくれて良かった。」


ヒューヒューとイザナさんの喉が苦しそうに鳴る。


「…好きだよ。○○。」


愛してる、といつもより何倍もか細い声でイザナさんはそう言う。柔らかく笑うイザナさんの姿はガラス細工のように綺麗で、脆く、軽く触れただけで壊れてしまいそうだった。


『…私も好きだよ』


だから死なないで、そう言いたいのに涙と嗚咽で言葉が詰まる。

苦しそうに言葉を紡ぐイザナさんの姿に嫌なほど現実を突きつけられる。


『イザナくん大好き』


「オレも」


昔、毎日のようにした会話に涙が滲む。懐かしさが胸いっぱいに広がり、あの時と同じ満足感が空っぽになった胸を満たす。


「イザナ…なんでオレなんかかばった!?」



どうして



『…わたしも』



イザナくんのことを忘れてし まった私を。

自分のいやなことは全て忘れてしまう都合のいい私を。



「ゴメンな鶴蝶、○○」


「…でもオレには」


「オマエらしかいないから」




必要としてくれるの。

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