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夏休みも終わり、あの暑さも少しずつ記憶の奥に追いやられていた。季節はもう秋。もうすぐ中間テスト。放課後の教室で、俺とうみにゃは並んで勉強していた。
「疲れたー」
伸びをすると、隣のうみにゃも同じように両手を上にあげる。
「テストだるくね?」
「それな」
そんな他愛のない会話。勉強が得意じゃない俺たちには、こういう気楽さがちょうどよかった。
「俺はもう、手抜けないからなー」
ペンを握り直すうみにゃ。そうだ、こいつ受験生だった。
「うみにゃはもう進路決めたの?」
「んー、まだちょっと迷ってる」
俺も去年こんな会話してたっけな。懐かしさを覚えながら、俺も手を止めないようにノートに文字を写していく。しばらく沈黙が続いたあと、うみにゃがぽつりと言った。
「来年から、俺いないのかー」
思わず顔を上げた。うみにゃは窓の外を見ながら、少し寂しそうに笑っていた。
「そっか…」
「寂しい?」
「いや…別に」
自分でもすぐにわかる。見栄張ったって。ほんとは寂しいことぐらい自分が1番わかってる。でも、そんなこと俺らしくないなって思ちゃって。
「ひどいなー」
そう言って微笑んだうみにゃの横顔は、やっぱり少し悲しそうだった。胸がざわつく。この感情は何だ。友達だから?先輩だから?――どれもしっくりこない。
ずっとそばにいたい。笑い合いたい。はしゃぎ合いたい。
――あぁ、そうか。俺、うみにゃのことが好きなんだ。
気づいた瞬間、心臓が跳ねた。秋の夜風で冷えていたはずの体が、急に熱を帯びる。もうクーラーなんて要らないのに、暑く感じる。
ノートを開いたまま、問題は頭に入ってこない。今、頭を占めているのは隣にいるその人だけ。
窓の外はもう薄暗い。まだ5時なのに、夕日はすっかり沈んでいた。